吸血鬼の住む城(6)
ついに40話!! よろしくお願いします。
キャロルの力は俺が思っていた以上に強く、俺は引っ張られるままついて行くしかなかった。
一応抵抗してみようとも思ったのだがうまく体に力が入らず結局何も出来そうになかった。
「フーンフフーン♪」
キャロルはというと、そんな俺のことなどお構いなしにどんどん進んでいく。もうちょっと俺のこと考えて歩いて欲しいんだけどな。
牢屋の部屋から出るとキャロルはあの気の遠くなるほど長い階段を上り始めようとした。
え!? まさかこの階段上るの!!
「ちょ、ちょっと待て!! もしかしてこの階建また上まで上るのか?」
「え、そうだよ。そうじゃないと部屋まで行けないじゃん」
がーん……マジかよ。俺上りきる前に倒れちゃうかも。だってこの階段先が見えないんだぞ。それだけある段差を俺の足が上っていけるとは思えない。
「もしかして、この階段上りたくない?」
そう聞かれて俺は思い切りコクコクと首を縦に振った。
すると、キャロルはうーんと少し考えた後おもむろに俺の後ろに回り込んできた。何してんだ?
「それじゃあ……」
そう言うと急に俺の脇の下に手を突っ込んできた。
「わひゃ!?」
驚いたのと少しくすぐったかったのがあって変な声が出てしまった。キャロルはそれをクスクスと笑う。
「そんな変な声出さなくても大丈夫だよ。私が上まで連れて行ってあげる」
「連れてくって、どうやって?」
そう聞いた瞬間、いきなり体が何かに持ち上げられるような感覚がはしった。徐々に肩が上に持ち上がりついには俺の足が完全に地から離れた。
「なんだこれ!? どうなってんの!!」
後ろを振り返るとそこには、黒くてギザギザと尖った形をしている何かが大きくひらひらと動いていた。どうやらそれはキャロルの後ろ、つまり背中の部分から出ているようだった。
「これで飛んでいけばお兄ちゃんも疲れないでしょ?」
そう言ってニッコリと笑うとキャロルの背中から出てきたそれはひときわ大きく羽ばたくように動いた。その瞬間俺の体は浮かんだまま前方に勢いよく動き出した。
「ひゅあああああああああ!!」
「あはははははははは」
キャロルは俺のことを持ち上げているにもかかわらず楽しそうな顔で笑っている。
この子の筋力どうなってんだ? 人間じゃないにしても凄すぎだろ……。
「それじゃあ、このまま部屋に全速前進!!」
「お願いだから安全運転でお願いしますううううううう!!」
そのままキャロルは階段を余裕で飛び越すと、そのまま廊下に出て俺をあの部屋まで一気に連れてきた。部屋に入った瞬間、いきなり例のあの椅子に座らされ動かさないようにそのまま四肢に鉄の拘束具を付けられてしまった。
すごい手際がいいんだが……この子はどんだけ俺の血が吸いたいんだ本当。
そして、またさっきのように膝の上にまたがってきてもう待ちきれないというばかりの顔で俺のことを見てきた。
「さぁ、早く血を、血を!!」
ひぃいいいいいい!! 何か怖えええええええ!! ここまでくると最早、狂気的とも言えるのではないだろうか。
そして彼女の口がゆっくり開き、俺の首筋に噛み付いた。
「はむっ……じゅるっ!! じゅるるるるっ!! んぐっ……ごくっ……ちゅるるる……」
さっき血を吸われた時よりも勢いよく血を吸われ俺の体に痛みが走った。それと同時に頭も何だかクラクラしてきた。
まずい、これは絶対にまずい状況だ。このままだと俺マジで死ぬかもしれない。
「ちょ、も、もうやめ……やめてくれ」
逃げるように首を動かし抵抗してみる。が、今度は先程とは違いキャロルは口を離すどころか俺が動かないように頭と肩を思い切り掴んだ。
その力は少女のものとは思えない程でミシミシと肩に手が食い込んできていた。
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!! 何なんだ一体!!
「じゅるるるる!! じゅるるるるるるる!!」
くそっ!! マジでどうしたんだよこの子!!
変わらずすごい勢いで血を吸うキャロル。見てみればいつの間にかその顔には数本の血管が浮かび上がっており、人形のような綺麗だった顔は恐ろしい程醜く崩れていた。
抑えられているので抵抗もできない。やばい、意識が……途切れそうに……。目の前がぼんやりしてきた。
ああ、駄目だ俺ここで死ぬのか? そう諦めの感情が心の中に出てきた時だった。
「お姉ちゃん!! 何してるの!!」
部屋の扉が勢いよく開いたかと思うとそこからアイナが入ってきた。慌てるように椅子に近づき俺の血を吸っているキャロルを引き剥がそうとする。
「お姉ちゃん!! 駄目、その人死んじゃう!! お姉ちゃん!!」
必死で腕を引っ張るアイナ。そのおかげでキャロルの体が後ろに引っ張られ徐々に血を吸う勢いが弱くなっていく。大勢が崩れ血が飲みにくくなったのかキャロルは俺の首筋から口を離した。
「あああああああああああああ!! 邪魔するなぁああああああ!!」
その瞬間アイナが引っ張っていた腕を思い切り振り払った。その勢いが強かったのかアイナの体は簡単に後ろの方えと吹き飛ばされ思い切り壁にぶつかった。
「うあっ!!」
鈍い音とアイナの痛々しい声が部屋に響く。
「何であんたはいつもそうやって邪魔するのよ。そんなんだからいつまでも吸血鬼として成長しないのよ!!」
声を荒げながらアイナに向かってキャロルは怒鳴り散らした。そんなキャロルを見てアイナはビクビクと震えながら涙目になっている。
「で、でもお姉ちゃん……」
「あーあーあーあーあーあーあああああああああああ!! うるさいうるさいうるさいうるさうるさい!! もういいわ、あんたみたいな出来損ないの妹、私はいらない。血を吸うのにも邪魔だしね」
「お、お姉……ちゃん?」
何だ、何を言ってるんだ? あの子は。
「あんた、ここで殺してあげる。そうすればあたしが血を吸うのに邪魔な奴はいなくなるし」
「え……」
アイナの目が大きく見開かれる。キャロルが何を言っているのかわからないといった表情だ。
そんなのお構いなしにキャロルはアイナに近づいた。あいつ、何をする気なんだ!
そう思ったとき、キャロルの指から突然長くて鋭く尖った刃物のようなものが生えてきた。
「私の爪で引き裂かれればあんたも本望でしょ?」
そんな勝手なことをキャロルは言っている。アイナはそれを震えながら聞いていることしかできないようだった。引き裂かれれば本望? ふざけるな仮にもあいつらは姉妹なんだぞ。そんなこと許されるわけがない。
「そんなに怖がらなくても大丈夫よ。一瞬で楽にしてあげる」
そう言ってキャロルはアイナの目の前でその腕を振り上げた。
「お姉ちゃん、お願いやめて……やめて!」
アイナの震えた声も今のキャロルには全く届いていないようだった。
くそっ!! 何とかできないか? このままじゃアイナが!
「それじゃあね、出来損ない」
「っ!!」
そう考えているうちにキャロルは思い切りアイナに向かって腕を振り下ろした。
くっそ!! もうどうにもできない……。
そう思った瞬間だった、‘ドクンッ’とまたいつかの時のように俺の心臓が一瞬大きく鳴りだした。
あれ? こんなこと前にもなかったっけ?
そう思った瞬間、腕を振り下ろしたキャロルとアイナの間にどこかで見覚えのあるあの白い遮蔽物のようなものが出来上がっていた。
「んなっ!!」
「……へ?」
あれは、あの森の中で見た……。その遮蔽物がキャロルの爪と腕を飲み込み動けなくしている。
「何よこれ!! このっ!! 抜けない!!」
キャロルは必死に引き抜こうとしているがびくともしない。そんな彼女を俺とアイナは呆然と見ていた。
はっ!! 見てる場合じゃない。今がチャンスだ。
「アイナ!! これを解いてくれ!!」
俺はアイナにそう叫ぶ。が、アイナはまだ何が起きているのか分からないようでその場にヘタレこんだままだった。
「え……あ……」
「アイナ!! 何してんだ、早くしてくれ!!」
もう一度叫ぶとアイナはやっと我に返ったのか、はっ! と体を起こし俺の座っている拘束椅子まで駆け寄ってきた。
「あああああああああ!! 私の血がああああああ!!」
それを見たキャロルは一心不乱に腕を引き抜こうとし、激しく暴れだした。
やばい、超怖い!! 何あれ、どこのホラー映画ですか?
何とかアイナに拘束を全て外してもらい、俺は椅子から立ち上がった。しかし、うまく足に力が入らずによろけてしまう。どうしよう、まともに歩くのは無理か。
「大丈夫ですか、お兄さん?」
「あんまり大丈夫じゃないかも……」
しかし、そんなことも言ってられない。とっととここから逃げ出さなければ。
俺はアイナに支えられながら扉まで向かった。
「血!! 血いいいいいいいいいいいい!!」
そう狂ったように叫ぶキャロル。俺の血が彼女をこんな風にしたのか? もしかしたらと考えが浮かんだのだがそれはすぐさま否定されることになった。
「あああああああああああああああああああ!!」
「な、何ですかあれ!?」
キャロルの背中から何かがメキメキと生え始めてきた。
「あれは……」
それは俺らがここに来るまでに散々見てきたもの。あの、大きな紫色の結晶の塊であった。
なるほど……奴らはここにまで来ていたってことか。恐らく彼女の豹変もあれのせいだろう。
「アイナひとまずここから出るぞ。話はそれからだ」
「え、でもお姉ちゃんが」
「大丈夫、きっと何とかなるから」
俺はアイナの頭をぽんぽんと叩くとこの部屋から脱出した。
早いとこシェリルさんと合流しないとな。