吸血鬼の住む城
書けるときに書いとこうってことで。
「どうしてこんなに行方不明者が出ているのでしょうか?」
あの後、俺達は近くにあったベンチに座りあの黄色い紙を眺めていた。
「一人や二人ならまだしもこの人数は異常すぎるよな」
これだけの人数が行方不明になればそりゃ街中で騒ぎになるよな。それにこの行方不明者は現在進行形で発生しているようだし。
「あ、あの佐藤さん」
「ん? 何ですか?」
シェリルさんが何か言いたげにモジモジしている。何だ? トイレにでも行きたいのか? それともまさか・・・・
「どうしたんですかシェリルさん」
「そ、その・・・・もしよかったらなんですけど、この事件についてちょっと調べてみませんか?」
「・・・・やっぱりっすか」
なんとなく想像は出来ていた。シェリルさんならこの事件のこと調べてみようって言うだろうなぁーって。
「はぁ~・・・・そう言うと思いましたよ」
「え? な、何でですか?」
「シェリルさんは好奇心の塊ですからね」
「ええ!?」
驚いているあたり自覚がなかったらしい。全く無自覚というのは恐ろしいものだ。
「で、どうやって何を調べるんです?」
「あ、実はこの紙の裏にこのオーリエ新聞社というところの地図が載ってたんです。だから、まずはここで話を聞いてみようと思って」
言われて紙の裏側を見てみると確かに地図のようなものが書かれておりそこにオーリエ新聞社とマークもされていた。壁に貼られていた紙は裏側が見れないから気づかなかったな。
「じゃ、まずはここに行ってみるってことで」
「はい!!」
俺達は地図を頼りにオーリエ新聞社まで行ってみることにした。
途中周りの人に道を訪ねたりしながら俺達はオーリエ新聞社の前までたどり着いた。中心部から少し離れた場所にあるその建物は、こげ茶色のレンガで出来ており周りの建物よりも温かみを感じる色合いになっていた。大きさは大体三階建てのビルくらいだろうか。真ん中に‘オーリエ新聞社’と看板が掲げられていた。
「あれですね。場所もあってますし」
「よし、それじゃあ行きますか」
俺達は入口の玄関を開け新聞社の中に入った。中には数人の職員らしき人影がチラホラと見え、机の上で作業している人や黒板のような板に白い文字で何かを書いている人など色々忙しそうにしていた。
「あの~すいませ~ん」
シェリルさんと一緒におずおずと中に入っていくと、一人の職員がこちらに気づいてくれた。
「はいはい、どうかなされましたか?」
「あ、あの今この街で起こってる行方不明者のことについて教えていただけないかと思って来たんですが」
「ああ、あの事件についてですか。取材の約束はされてますか?」
「あ、いやなにもしてないです」
「そうですか。うーん、今ちょっと立て込んでてゆっくりはお話することができないんですが、それでもよければ」
「は、はい。ありがとうございます」
「それで、どんなことがお聞きになりたいいんですか?」
そうだな・・・・じゃあまずはこれから聞いてみるか。
「この行方不明者っていうのはいつくらいから出ているんですか?」
「最初の行方不明者が出たのは数ヶ月前だったな。それから徐々に行方不明者が出る頻度が早くなっていって、今ではご覧のとおりさ。たくさんの行方不明者が出ている」
「なるほど」
「行方不明になっている方の捜索とかはされているんでしょうか?」
「ああ、この街にある自警団の捜索隊メンバーが今も捜索を続けているよ。今のところ一人も見つかっていないけどね。それどころか捜索隊のメンバーにまで行方不明者がでている」
「捜索隊にもですか?」
「何でもある場所を調べに行ったきり帰ってきてないんだとか」
「ある場所?」
「この街のすこしはずれにある丘の上に大きな廃城があるんだ。かなり昔からあそこにあるみたいでね、見た目も不気味だし今じゃ誰も近づかないんだ」
「大きな廃城ねぇ・・・・」
いかにも怪しい感じがするけどな。そこで行方不明者も出ているわけだし。
「あ、一応言っておくけどあそこに行こうだなんて思わないほうがいいよ。あそこには変な言い伝えもあるしね」
「言い伝えですか」
「これは昔から言われてるんだけど、あの城には吸血鬼が住んでるって言われてるんだ」
「吸血鬼ってあの、人間の血を吸ったりするあれですか?」
「そう、それにその言い伝えを信じる訳じゃないけど今回の行方不明者にはある共通点があってね、何だと思う?」
「さ、さぁ?」
「実はね行方不明になってるのは人間だけなんだよ」
「人間だけ?」
「この街は他種族が共存して暮らしている街だ。もちろん人間じゃない種族もたくさんいる。そんな中、何故か行方不明になるのは人間だけなんだよ」
人間だけが行方不明になる? 一体なんで?
「どうして人間だけが行方不明になるんですか?」
「さぁね、どうしてそうなっているのかは誰にもわからないんだ」
「そうですか・・・・」
「さてと、悪いけどそろそろ仕事に戻らなくちゃいけなんだ。すまないけど今回はこれで」
「あ、はい! お時間とらせてしまってすいませんでした」
職員の人は自分のデスクまで戻って行った。
することが無くなったので俺達も外に出た。どうやらこの事件にはたくさん謎がありそうだ。
「佐藤さん」
「ん? なんですか?」
シェリルさんはまたモジモジしている。まぁ大方、言いたいことは予想できるけど。
「あ、あの・・・・私!!」
「その廃城に行ってみたい。ですか?」
「え?」
「シェリルさんのことだからどうせそう言うと思ってましたよ」
「じゃ、じゃあ!!」
俺は半ば諦め気味に頭を掻いた。はぁ~どうせ断っても聞かないんだろうしなこの魔王様は。
「ただし入口の所までですよ。見たら直ぐに戻りますからね」
「はい!!」
という訳で丘の上にあるという廃城とやらまで向かうことになった。
この廃城は街の人なら誰でも知っているらしく聞いてみたらすぐにある場所が分かった。街から出て少し西に進んだところにその城はあった。遠くからでもその城は廃れてしまっているのが分かるくらいボロボロになっていた。大きさは俺が始めてこの世界に来た時に見た城よりも少し小さいくらいだと思う。まぁ、それでもかなりでかいんだが。
「あれがそうですね」
近づいてみるとこの城のデカさがさらによく分かる。
「でけぇ・・・・」
確かにこんな不気味でデカい城には誰も近づこうだなんて思わないだろうな。俺も既に引き返したくなってきてるし。
「こ、ここで捜索隊のメンバーは行方不明になったんだよな」
「みたいですね・・・・」
「そ、それじゃあシェリルさん帰りましょうか」
来た道を引き返そうと踵を返す。が、それを逃さないとばかりにシェリルさんが腕にしがみついてきた。
「え!! ちょ、ちょっと佐藤さん!! 何言ってるんですか!! まだ中に入ってないですよ!!」
「はぁ!? 中に入るなんて一言も言ってないですよ!!」
「入口までって言ったじゃないですか!!」
「あれは入口の外までって意味で入口の中に入るなんて一言も言ってないです!!」
「そ、そんな!! 佐藤さん待ってください!! 少しだけ覗くだけでいいですから!!」
「嫌ですよ!! こんな気色の悪い城に入るなんてまっぴらゴメンです!!」
引っ張ってくる腕を引き剥がそうと力を込めるがシェリルさんはさらに力を込めてきて中々引き剥がせない。
「お願いです!! 佐藤さん少しだけ!!」
「いーーーーやーーーーーでーーーすーーーーー!!」
意地でも入らないと抵抗するもシェリルさんも中々諦めてくれない。
しばらくして、数十分に渡って行われた二人の攻防戦に終止符が打たれた。
「ぜー・・・・ぜー・・・・わ、わかりましたよ。じゃあ入口のところを覗くだけですからね」
「はぁ・・・・はぁ・・・・あ、ありがとうございます~」
結局俺がシェリルさんに根負けし折れることになった。なんだか無駄に疲れてしまった気がする。
「そ、それじゃあ開けますよ」
俺達は大きな鉄でできた扉の前に立っていた。見るからに不気味なオーラを醸し出している。
「は、はい」
俺は覚悟を決めその大きな扉を力一杯体で押した。すると、見た目に反して意外にも扉はすんなりと開き薄暗い城内を外の光が照らしだした。
「やっぱり誰もいませんよね」
少しずつ中に入りあたりを見回すが特に変わったものは見当たらない。中は物音一つ聞こえないほどシーンとしており光が届いていないところは暗くてよく見えない。
「廃城なんですから誰も住んでませんって」
「そう、ですよね・・・・」
それにしても何だここ。なんかすごい寒気がするしどうにも嫌な予感がする。正直に言うとさっさと外に出てしまいたかった。
「シ、シェリルさん。そろそろ外に出ましょう。ここにいたって何もわからないですよ」
「そ、そうですね。わかりました」
よしそうとなればさっさと出・・・・・・
その時、
‘バンッ!!!’
俺の後ろで大きな音がしたと思ったら急に辺りが真っ暗になった。
「え・・・・・・え!?」
ま、まさか!! 慌てて振り返るとさっきまで開けっ放しにしていたはずの扉が閉められていた。
「おいおいおいおいおい!! まさか、嘘だろ!!」
慌てて扉まで駆け寄り開けようとするが、先程のことが嘘のようにいくら力を入れてもビクともしない。
「さ、佐藤さん!! どうしたんですか!?」
「扉が開かないんです!! くそっ!!」
駄目だ、全然動かない!! 一体どうなってるんだ!?
「も、もしかして私達閉じ込められた・・・・」
「う、嘘だろ・・・・」
薄暗い城内の中で俺達はただ立ち尽くすことしかできなかった。




