第2章 突拍子のない連行
1週間が経った日、とつぜん捜索が入った。理由は、非合法政府の設立。トム・アストロスとジアス・アストロスは、なぜか二人とも連行された。
「この子は関係ないだろ!」
トムが公安の人に対して言った。
「うるさい!だまれ!さっさと乗れ!」
無理やり金網付の護送車にトムとジアスは、手錠と足枷をつけられて横隣りに座らされていた。車内には運転手に聞こえないように完全に溶接された小さな窓がついている程度で、こちら側には二人以外誰もいなかった。トムの横で、ジアスが泣いていた。
「うぅ、ヒッく……え〜ん」
号泣だった。トムは、そんな娘を手を重ねて言った。
「大丈夫。ほら、ここにお父さんがいるからね。大丈夫。何にも起きないよ」
そっと抱きしめようとしたが、できなかったので、手を重ねるだけだった。
「出ろ!」
二人が連れてこられたのは、表の世界の多党連盟総本部だった。
「ここでお前達は待たされる。お前達の選び方によっては、何事もなかったかのように、目覚める事ができる。しかし、冒険をしたいなら、お前達はここで待つ事になる」
そこは総本部の中央集会議場だった。数百人の多党連盟幹部の後姿を見る事が出来た。一番前にはプロジェクターがおかれており、誰かの顔が映されていた。
「ここで、待て」
そして二人は、その通路のようなところで、周りに誰もいない状況で取り残された。
「…ねえ、お父さん。これから私達、どうなるの?」
「大丈夫。ほら、殺されちゃいないだろ?だから、大丈夫」
「…慰めになってないんですが…」
「大丈夫!何事も怖くないと思えば、何も恐れる事はないって、誰かが言っていた」
「お父さん、やっぱり怖いよ〜」
ジアスはトムに引っ付いた。
「大丈夫、お父さんがいるから」
その時、誰かがこちらに向かってきた。
「おやおや。やはり、あなた達は仲良しですね」
見覚えがある顔だった。
「貴様は、行政長官だな」
「よく、憶えておいてくださいましたね。元司法長官さん」
「え〜!お父さんって、こっちの司法長官をしていたの〜?」
「ずっと昔の話だ。その時は、野党はまだ、司法制度が確立されていなかった。そんな時、包括的に人々に対する司法制度を作る必要を感じたんだ。そうしたら、野党連合は政府を作ったと発表した。今から20年以上も昔の話だ。ジアス、お前のお母さんと出会ったのも、それがきっかけだった」
「司法制度を作る事が?」
「ああ、なにせ、その司法制度を作ろうと躍起になっていた20代。その補佐をしてくれたのが、当時の副司法長官であった妻だったんだ」
「え〜!」
娘がとても驚いた。
「当時はこっち側の方が繁栄を極めていた。今じゃ、どっちも変わらないように見えるけども、15年前、野党連合の党首、つまり向こう側の大統領に当たる人が、経済振興策を次々とだし、そうして今のようになったんだ。それでも、こっち側の方が経済的にも豊かだし、そのせいで、次々と第2世代は表側の世界に出て行った。その流れの中に、自分の妻もいる。今は、どこにいるやら…」
「トム・アストロスの妻なら、今、この党の幹部をしている。3人いる副書記長の内の一人だ」
「そうか…じゃあ、こっち側で暮らしているんだな」
「ああ、お前が心配することはない。ただ、これからのことはファーザートム以外、どうするかは知らない。お前が、この世界を去った後、司法長官は置かれなかった。なぜかは、本人のみぞ知る。結果、お前の後の司法制度はことごとく崩壊した。不幸な時代と呼ばれている、そして、お前を無理やり連行したのは、これをお前に渡すためなんだ」
行政長官は何かの茶封筒を渡した。
「これは…?」
「お前の復職命令書だ。ファーザートム直々にお前に出した。どうする?お前には、選択肢がいくつかある。だが、どうしようともファーザートムに連れてくるように言われている以上、一回は、お前をファーザートムの前に引っ張り出す必要がある」
「そうかい。でも、娘は何の関係がある?」
「俺に聞くな。ファーザートム本人に聞いてくれ」
3人は、トムとジアスは手かせ足かせをつけられたまま、ファーザートムの前に連れてこられた。ファーザートムは顔が分からないように、ちょうど顔の真後ろから強力な光を当て、顔が見えないようになっていた。
「トム・アストロスとジアス・アストロスだな」
「そうです」
まったく、表情が見えなかった。
「お前達は、この1万年間、誰も行かなかった世界へ向かう…」
「誰も行ったことがない世界って、この世界だけじゃないのか?」
「違う。この第3空間は1万年前に第1空間から派生してできた…いや、分離してできたと言うほうが適切だろう…とにかくは、この世界が、ここが全てではないという事だ。世界は9つあり、お前達はこの世界の代表として、第1空間へ送られる…」
「第1空間ってどこだ?」
「行けば分かる…往けば変わる…いけば知る…」
「ちょっと…!」
その時、白い光が彼ら二人を包み、次の瞬間は足かせと手かせをその場に残して二人は消えていた。