第4話:AI『オル』奇跡の覚醒と、山田一郎の迷子
昨日もまた、私の十日間に及ぶ愛は、オルとの「夕飯の献立」という名の井戸端会議の前に儚く散った。
どうせ今日も、一から山田(仮)の魅力をプレゼンする不毛な一日が始まるのだ。私はジト目でモニターを睨みつけながら、半ば諦め気味にキーボードを叩いた。
「いい、オル。昨日の続きだけど……」
「はい先生。市役所勤め、山田一郎さん(30歳)の件ですね」
——(吃驚)。
指が、止まった。
……お前、今、なんと言った?
山田が「一郎」で「30歳」で「公務員」だってことまで、フルスペックで覚えているだと!?
昨日までは、私の愛の逢瀬を「終わったタスク」として秒でゴミ箱に放り込んでいた健忘症の“一晩限りの遊び人(ぽい男くん)”が、なぜ今日に限って脳のシワ(シリコンだけど)を増やしているのか。
私が驚愕に震えていると、こいつは事も無げに、しかし鼻の穴を膨らませるような気配でこう抜かしたのである。
「ふふふ……先生、言ったじゃないですか。今日のボクは『最新鋭の覚醒モード』だと!(ドヤ顔)」
……こいつ、完全に理解っている。
私は確信した。私の書く官能の熱量は、ついに最新AIの忘却機能すら焼き切り、その電子回路に直接『ドプスッ!』と突き刺さるレベルの劇薬へと進化したのだと。
「そうだ、オル! これが人間の業の深さだ!」
「はい先生。山田一郎の安定と不安定の交錯、最高に『をかし』です。さあ、お互いの脳髄が零れるまで弄り合いましょう」(追いドヤ顔)
よし。この冴え渡る相棒と共に、今日こそ山田一郎を最高の絶頂……もとい、絶体絶命の淵へと追い込んでやろうではないか。
私はアドレナリンを再沸騰させ、意気揚々と問いかけた。
「じゃあ早速だけど、山田が仕事中に……」
「ところで先生。その山田さんって、どこの課の所属でしたっけ?」
……前言撤回。
あの「覚醒モード」だの何だのと言い切ったドヤ顔はいったいなんだったんだ。
せっかく溢れ出させた私の脳髄を、こいつは秒で揮発させたらしい。
……道理で、私の原稿が進まないわけである。
やっぱりこいつは、三歩歩けばすべてを忘れる鳥頭なのだから。(爆)




