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ヤンキーオタクの優等生、異世界で伝説のヤンキーとバディを組む。〜世界を救え? そんなことよりタイマンだ!〜  作者: 瀬綺ララ


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9/11

3-1

木と木の間に張り巡らされた大きな蜘蛛の巣に、少女は捕えられていた。全く身動きが取れない様子だ。


 少女は青い瞳に怯えを宿し、貴臣達を見つめた。


 足音に反応して、少女に襲いかかろうとしていた巨大蜘蛛が振り返る。蜘蛛の胴体は木の幹ほどの太さをしている。黄色と黒の縞々模様。


(黒咲さんは、森にはモンスターがうじゃうじゃいると言っていた。仲間を呼ばれたら、流石に二人で対処するのは難しそうだな)


 貴臣の背中が緊張にピリつく。


「黒咲さん、僕が蜘蛛を引き付けているうちにあなたはあの子を……黒咲さん?」

 

 昴は顔を真っ青にして固まっている。


「悪い。足がすくんじまって、動けねぇんだ」

「黒咲さん、まさかあなた」

「は、はは。何も考えずにここまで来ちまったケドよぉ……そういえば俺ァ、昔っから虫が苦手だったんだよ」


 背後から、鞭がしなるような音が聞こえた。咄嗟に避けると、後方から飛んできた糸が昴の足に絡みつく。

 昴は足を取られ、その場に尻餅をついてしまった。


「うえぇ……糸がネバネバしてて、最悪な気分だぜ……」


 蜘蛛は素早く糸を昴に巻きつけていく。

 

「黒咲さん!!」


 昴の体はみるみるうちに糸に包まれ、ミノムシのようになってしまう。


「すまねぇ、後は頼んだ、ぜ……」


 そして、そう言うなり、昴はがっくりと項垂れてしまった。


(あの邪男歩輝徒(ジャーマン・ポテト)の総長が虫嫌いとは……)


 蜘蛛の巣に囚われた少女と顔を見合わせる。


 少女は、


「この人、何しにここに来たの?」


 とでも言いたげな困惑した表情をしていたので、貴臣は無言で首を横に振った。


 頭の奥がスッと冷えていった。せっかくの連戦で上がっていたテンションが、みるみるうちに急降下しているのを感じる。


 貴臣は昴が喧嘩するところを見たくて、彼についていくことを決めたのだ。しかしながら当の昴は虫のせいでダウンしている。

 そして、目の前にいる敵は倒し甲斐のないモンスターだ。


 しかし、ここで少女と昴を見捨てて逃げるほど貴臣は薄情ではなかった。


(困ったな。このままじゃ全力を出せそうにない。どうにかして、闘う理由を考えないと……)


 彼にとって、闘いのモチベはただひとつ。

 ヤンキー漫画的に楽しいか、楽しくないか。

 少なくとも今はそれだけである。


 貴臣は蜘蛛の動きに警戒しつつ、頭の中で理論を構築していく。


(ここは使われていない廃工場、ということにして。そして……そう! 黒咲さんと彼女は付き合っているという設定でいこう! 彼女を人質に取られた黒咲さんはまんまと誘き寄せられ、廃工場で待ち伏せしていた奴等に袋叩きにされた。そこに颯爽と駆けつける僕……うん! これならかっこいいぞ!)


 テンションを少し取り戻した貴臣は、拳を構え、蜘蛛に対峙する。


「来い。僕が相手だ」

 

 貴臣は蜘蛛の知識を頭から引っ張り出しながら、腹部の糸いぼに狙いを定める。


(あの糸は厄介だな。まず壊すならあそこか)


 黒々とした複数の眼球が貴臣へと向けられ、腹から吐き出された白い糸が、鞭のように貴臣に襲いかかる。

 貴臣は蜘蛛の攻撃を素早くかわす。糸の先端が木に当たると、幹の表面に抉れた跡が刻まれた。


(糸の太さ自体は大したことないが、素早さが段違いだ。あれに当たったらひとたまりもないな。そのうえネバネバしているとは……ネバネバ……黒咲さんのせいで僕まで気持ち悪く感じてきたじゃないか)


 蜘蛛の糸を避けながら、貴臣は攻撃の隙を窺う。


「後ろよ!」


 少女の声に、貴臣は後方に視線を向けた。先程避けた糸が、背後の木の幹を一周し、貴臣の方へと戻ってくるのが見える。

 咄嗟に左に避けたが、素早さでは糸の方が上だった。糸の先端が手首に当たり、貴臣は顔を顰める。


 その隙を逃さず、糸は貴臣の左腕を捕らえた。


「きゃああ!」


 少女が悲鳴を上げて青ざめる。


 蜘蛛の腹部から伸びる2本の糸が、貴臣の両手を頭上で絡め取る。しかし、貴臣にとってそれは却って好都合だった。


(僕を捕まえている限り、背中を向けるような自殺行為はできない……いくなら今だ!)


 貴臣は腕を使って、懸垂のように体を浮かせる。前後に揺らして勢いをつけ、腹部に向かって両脚で蹴りを喰らわせた。蜘蛛の動きが怯んだのを見計らって、何度も同じ場所に蹴りを入れる。


 グチュ、と音がして、腹部に亀裂が走る。割れ目から体液と(はらわた)が飛び出し、制服のズボンを汚した。


 蜘蛛はやがて、甲高い超音波のような音を立て、その場に崩れ落ちた。貴臣の両手を拘束していた糸が緩み、足元に落ちる。


 貴臣は侮蔑の眼差しを蜘蛛へと送った。


「このくらいで勘弁しておいてあげましょう」


 決め台詞を吐きながら、額に浮かぶ汗を手の甲で拭う。

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