2-1
貴臣は頷いた。
「場所を変えましょうか」
貴臣は路地裏を出ようとするが、昴が貴臣の肩を掴んで引き留める。
「なあ、あいつは今どうしてるんだ? 元気にしてるか? 困ってることはないか? そもそも、お前は何で翔子と_____」
矢継ぎ早に質問を投げかけてくる昴に対し、貴臣は手を上げて制する。
「分かりました。そこで話しましょう」
二人は木箱の上に並んで座った。昴が期待の眼差しを向けているのを感じながら、どこから話を切り出すべきかを考える。
20年。昴が失踪してから経過した時間だ。
しかし、貴臣の隣にいる昴は若い顔立ちをしている。貴臣と年齢はそう離れて見えない。
「黒咲さんは、今おいくつなんですか?」
「別に何歳だって良いだろ。それより翔子のことを早く教えてくれよ」
「これから話すことに関係するかもしれないんです」
貴臣の質問に焦ったそうな反応をしつつも、昴は考える。
「何歳っつってもなぁ。カレンダーがあるってわけでもねぇしよ……でも、季節は2回くらい回ったか? だからハタチなんじゃねぇの」
予想通りの答えが返ってきたことに、貴臣は納得と困惑が入り混じったような感覚を覚える。
(20年と2年。僕達の世界で10年経つごとに、こっちの世界では1年が経過しているということになる……)
元の世界に戻れるようになるまで、貴臣はこちらの世界に留まらなければならない。
仮に1年後に戻れたとしても、向こうでは10年が経っているのだ。10年というのはそれなりに長い歳月である。文化も、日常生活も、貴臣が知るものとはかなり違ってしまっているだろう。
(漫画の完結を自分の目で見届けられないのは痛いな……いやしかし、僕が帰った頃には素晴らしいヤンキー漫画が大量に生み出されているかもしれない。まとめ読みするのも悪くないか)
自分の世界に入り込み始めた貴臣を、昴は苛立った様子で見ていた。
「そんで、この話が翔子にどう関係すんだよ」
「……」
「おい、聞いてんのか?」
「……ああ、すみません。向こうの世界に戻った時のことをつい考えてしまいました」
貴臣の心残りと言えばヤンキー漫画くらいしかなかったのだが、昴は貴臣の言葉を別の意味で受け取ったようだ。
「悪い。いや、そうだよな。お前も突然こんなところに飛ばされちまって、家族のことが心配にならないわけないよな」
昴は貴臣の肩を軽く叩く。
「分かるぜ、お前の気持ち。急かすようなこと言っちまって悪かったな」
「いえ、別に……黒咲さんが気にするようなことじゃありませんよ」
直球に優しくされることに慣れていない貴臣は、つい可愛くない反応を返してしまう。昴には貴臣のそんな態度さえも「気丈に振る舞っている」ように見えてしまい、ますます同情を募らせた。
「つれぇことがあったら俺に言えよ。何かできるってわけじゃねぇが、話すだけでも楽になるだろ」
ますます気まずい方向に会話が向かっていきそうな予感がして、貴臣は焦る。
「いや、ほんとに、お気持ちだけ受け取らせていただきますので。それより、僕のことは置いておいて、翔子さんの話をしましょうか」
元々あっさりした性格の昴は、貴臣の話題変換に対して疑問を抱くこともなく「おう、頼むわ」と返事をした。
少々思考が脱線してしまったが、貴臣は再びどうやって話を切り出すかを考えた。
どうすれば、昴は困惑せずに状況を理解できるだろうか。
一から全てを説明するよりは、重要な点だけを伝えた方が良いかもしれない。
そう結論づけ、
「黒咲さん」
と昴に向き直る。
「これから僕が言うことはにわかには信じがたいかもしれませんが、ひとまず話を聞いていただけますか」
貴臣の真剣な表情に釣られ、昴も思わず姿勢を正した。
「上等だ。どんな話だって受け止めてやる。かかってこいよ」
「分かりました。では、そもそも何故僕が翔子さんのことを知っているかについてですが_____」
貴臣は、軽く呼吸を整える。
「_____僕の兄の結婚相手が、翔子さんなんです」




