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ヤンキーオタクの優等生、異世界で伝説のヤンキーとバディを組む。〜世界を救え? そんなことよりタイマンだ!〜  作者: 瀬綺ララ


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4-2

少女の悲鳴が聞こえた。ルクレツィアの悲鳴だ、と記憶力の良い貴臣は即座に悟る。


 振り返ると、ルクレツィアの姿は忽然と消えていた。すぐそばには路地裏へと続く道があり、そこから言い争うような声が聞こえてくる。


「今の声……」

「ルクレツィアさんですね。恐らくですが、捕まったのは_____」

「おい、ルクレツィアには護衛がいるんじゃなかったのかよ!」


 貴臣が止める間もなく、昴は走り出していた。


「黒咲さん! 待ってください!」


 貴臣も急いで後を追う。

 ルクレツィアはずっと二人の後を追っていたため、それほど距離は離れていない。そのため、すぐに見つかった。


 ルクレツィアは、路地裏で一人の男に片腕を掴まれていた。


「離して! 離してよバカ!」


 ルクレツィアは必死になってもがくが、屈強な男を振り払うことはできなかった。

 昴の顔に青筋が浮かぶ。


「テメェ……俺のルクレツィアに何してんだ!」


 昴は男に掴みかかると、貴臣が止める間もなく、渾身の力を込めて男をブン殴った。まともに拳を喰らった男は後方に吹っ飛んでいき、積み重なった木箱に倒れかかる。


 一発KO。男は白目を剥いて倒れてしまった。ルクレツィアは口元に手を当て、真っ青な顔をして男を見下ろす。

 

「……悪く思うなよ。女に手を出したテメェが悪いんだからな」


 昴はルクレツィアに向き直り、キメ顔を作る。


「もう大丈夫だぜ、ルクレツィア。これからは何があろうとも俺が守って_____」

「ピエール!」


 ルクレツィアは昴のアピールを無視して、男に駆け寄った。


「ねぇ、ピエール、大丈夫!? しっかりして!」

「……へ?」


 昴は困惑して、貴臣の方を向いた。


「恐らく、この方がルクレツィアさんの護衛なんですよ」


 貴臣もまた、ルクレツィアの隣にしゃがみ込んで男の様子を確認する。


「完全に気絶してるな……黒咲さん、早急に手当てをお願いできますか?」


 呆然としていた昴だったが、貴臣に言われて我に返り、慌てて男に駆け寄る。


「カミノゴカゴ」


 昴の言葉と共に、男の顔にできた傷が、みるみるうちに塞がっていく。数秒と経たないうちに、顔面には額にできた古傷だけが残った。


 すっかり頭に血が上っていた昴は、護衛の男が、この辺りのゴロツキにしては仕立ての良い服を身につけていたことに全く気が付かなかった。


「わ、悪ぃ! 俺、てっきりお前が襲われてんだと思って……」


 昴が弱々しく声を上げると、ルクレツィアは顔を上げた。目に涙をいっぱいに溜め、昴を睨む。


「いきなり殴りかかるなんて、どうしてそんなに酷いことができるんですの! この野蛮男!」

 

 野蛮男。言葉の刃が、昴の心にグサグサと突き刺さる。元々堪え性のない昴の怒りは、即座に沸点に達した。


「んだこのアマ! テメェが紛らわしい悲鳴を上げるから、助けてやろうと思ったんだろうが!」


 同性のヤンキーをもビビらせる昴のメンチに対して、ルクレツィアも負けじと喰ってかかる。

 

「昨日の蜘蛛だってあなたは後ろで勝手に怯えてただけで、倒したのはチーノ様じゃない! それに不意打ちで殴りかかるだなんて、卑怯だと思わないの?」


 路地裏に二人の声が響き渡る。


(ヤンキーと互角に張り合う少女……やはりこの人、ただ者ではないな)


 貴臣は、騒ぎを聞きつけたゴロツキ達がやってきて乱闘が始まる可能性をわずかに期待したが、今はそれよりもルクレツィアの目的を知ることを先決すべきだと考え、二人を止めることにした。


 しかし。


「ルクレツィアさん、黒咲さんに悪意はありませんよ。誰だってミスは起こすものなんです。ドジっ子属性のキャラは人気が根強くて_____」


 と言おうとすると、

 

「チーノ様には申し訳ないですけれど、大切な人を傷つけられて黙ってはいられませんわ」


 と遮られ、


「黒咲さん、ルクレツィアさんは身内が怪我をしてしまって気が動転してるんですよ。ちょっとツンの割合が多めなツンデレキャラだと考えれば、とても素敵だと思いませんか?」


 と言おうとすると、


「弌ノ瀬、少し黙っててくれ。せっかく助けてやろうとしたのにこの態度、流石に俺にゃ我慢ならねぇんだ」


 と、指の関節を鳴らして臨戦態勢に入られる。


 貴臣は完全に蚊帳の外だった。こういう時は互いの熱が冷めるのを待つべきだと、貴臣は経験則として理解している。


 理解してはいるが……。


(もしこれが男同士なら、殴り合いの末に「お前、なかなかやるな」「ふっ、お前こそ」と言って仲良くなるパターンなんだろうけど……)


 貴臣は二人の様子を観察する。


「女だからって優しくしてたけど、もうやめだ。オメエのことはもう二度と助けてやんねぇよ」

「私の方こそ御免よ。下心満載の人に助けられても嬉しくないですわ!」

「何だと! 下心があろうとなかろうと、優しさは優しさだろうが!」


 腕っぷしは強い昴だが、舌戦ではルクレツィアも互角なようだ。

 

(予想はしていたが、一向に仲良くなる兆しが見えないぞ)


 貴臣は焦っていた。


(このままでは、なんやかんやあって全てが有耶無耶に終わるかもしれない。護衛が起きる前に、ルクレツィアさんから目的を聞かなければ!)


 その焦りが、貴臣を突き動かした。


 貴臣は二人の間に割って入る。


「落ち着いてください、アニキ!」


 貴臣がそう言った瞬間、辺りはしんと静まり返った。


「……アニキ?」


 先に口を開いたのは昴だった。貴臣は羞恥心から顔を赤くさせる。


「あ、すみません、つい弾みで……とにかく落ち着いてください。今は言い争いなんてしてる場合じゃないんです」


 貴臣に「アニキ」呼びをされたことに驚いた昴は、口をポカンと開けたまま黙り込んだ。


 その代わりに、顔を青くさせたルクレツィアが「あの……」とか弱く声を上げる。


「この方って、チーノ様のお兄様ですの……?」

「え?……ああ、一応僕の義兄(あに)ですよ。プライバシーですので、詳細な説明は省きますが」


 そう言った途端、ルクレツィアは挙動不審になった。貴臣と昴を交互に見遣り、昴の両手をギュッと握りしめ、ぎこちなく笑みを浮かべる。


「な、仲良くしましょ? お兄様?」

「お、おお……」


 女好きの昴の怒りは、少女に手を握られるという、それだけの行為で収まってしまった。

 

 かくして、二人は休戦した。



 

 


_____数分後。

 


「ところで、ルクレツィアさん。そろそろあなたの目的を聞かせてもらっても良いですか?」


 ルクレツィアは小さく驚きの声を上げると、恥ずかしそうに両頬に手を当てがう。


「目的だなんて。そんなの決まってるじゃありませんの。もちろん、チーノ様にお会いするために_____」

「会って、何をするつもりだったんですか?」

「な、何って! やだ、チーノ様ったら! 乙女の口から何を言わせるおつもりなんですの?」


 顔を真っ赤に茹で上がらせているルクレツィアを尻目に、貴臣は実に冷静だった。

 二人のやり取りを、昴は心配そうに見守る。

 

「単刀直入に聞きます。あなたは何者なんですか?」


 

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