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リンネ①

こんにちは。

こちら完全に手癖で始めた物語です。

主人公の”僕”が、赴くままにやりたいようにやる。そんな少年の頭の中を公開しちゃった!みたいな話。

よくある「物語の登場人物が勝手に動く」だけで書いたものなので、しっちゃかめっちゃか、整合性なんてありゃしない。

そんな、書き物としては落第ものでしょうが、ご容赦ください。

傾向としては「ほのぼのサバイバル(?)」になるのかな?

 「人生は死ぬまで暇つぶし」

 そんなことを聞いた。

 確か、とある偉大な落語家が残した言葉から派生したんだっけ。

 まあ、由来なんてどうでもいい。あるのはひとつ、この言葉は僕の心にそれはもう深く刺さったという事実。抜けない聖剣の如く、この後の人生はこの言葉が刺さりっぱなしだろう。

 そんでもって聖剣なもんで、錆びることも、朽ちることもないご都合主義。勇者しか抜くことはできないし、そんな勇者は昨日の夕刊で死んでいた。そういうことにした。

 そうして、確固たる座右の銘となったわけだ。

 僕は今、そんな言葉だけを頼りに生きている。

 

 /

 

 正直に言おう、僕は底辺だ。

 日々をゴミから拾い集めて生きているし、お気に入りの飲料水はさんさら公園の水道水。

 まあ、この蛇口も近々撤去されるらしいけど。理由は近所をうろつく浮浪者(ホームレス)が飲料水として使っているからだそう。衛生的にもよろしくないし、内実としてそういった手の者に近づいてほしくないのだろう。何せ、本来は子供の遊び場だ。誰だろうな?浮浪者って。おお、怖いコワイ。

 

 そんな冗談はともかく、物心ついたころから一人汚れにまみれ、かろうじて生きている僕だけど、やはり時間だけは有り余っている。

 最低限生きるだけなら時間はかからない。僕の場合は人が捨てるものを拾って糧にするわけだから、かかるはずもない。ほかの同業者(ホームレス)はそんなこともないみたいだけど、まあ、子供の特権かな。いろいろ恵んでくれる人もいるんだ。この間近所の高校生のお兄ちゃんから大量のちょっとアレな本をもらったし。それはもう、ピンクと肌色のやつ。新しい世界が待ってた。

 それに、下手に動けば体力が尽きて余計に時間を使ってしまう。極論、最適な暇つぶしとは、動かず静かに、死んだように眠る。それが一番なのだ。

 しかし、それはつまらない。ただ寝っ転がっているだけでは、楽しく暇はつぶせないのだ。こうやって頭を悩ますこと自体は存外楽しいけど、いつでもできる故に若干飽きている。

 とはいえ僕は今、人の通りが殆どない、まるで僕のようにさびれた公園のベンチで、ビルの明かりがせわしなく光り続けているのを見上げボーっとしている。


 人生死ぬまで暇つぶし。

 さて、何をして暇をつぶそうか。

 動くとおなか減っちゃうし、大したことを考える頭もない。人間観察をしようにもこの時間帯に人通りはほとんどない。こうして毎日考えているが、なかなかどうして妙案が出ない。この間まではゴミ捨て場に捨てられていた本を拝借して読んでいた。なかなか面白いものだった。読めない漢字や知らない言葉も多かったけど、文脈で何となく把握はできるし十分に楽しめた。心なしか語彙力も上がって賢くなった気がする。

 しかし、書籍というのはどうして人間の暗い部分を詩的に表現しがちなのだろうか。それに大抵最後は決まって成功する。挽回する。所謂サクセスストーリーだ。どんな作品にもそのきらいがある。

 あんな風にうまくいけばいいのに。そんなふうに、主人公を自分に当てはめて、自分の立場や生き様から現実逃避をするのにはもってこいだけど。

 

 そうだ。また捨てられているかもしれないし、もう一度見に行こうか。

 特段ほかの案も思い付きはしないので、僕は重いけど軽い体を起こして、日の高い中歩き出た。


 やはり随分人は少ない。ここは都会とは言えないが、特別田舎でもない。谷に栄えた町ではあるので交通の面では少し不便な程度。しかし時間帯が時間対なので閑散としている。僕みたいなのが日中出歩くのにはちょうどいい。

 そんな中を歩くこと十数分。目的地にたどり着いた。住宅街の端に位置するゴミ捨て場。収集車が通りやすいように、少し広めの道に併設されている。

 

 肝心のごみはあまりない。黒いごみ袋がふたつだけ。前回有った本の山は見る影もなかった。

 残念だ。でも、まあいいか。端から期待はしてなかった。期待しないのが家無し金なし戸籍無しで生きていく上での技術だ。物心ついてから十六年かけて磨いた光るものだ。そもそも、他人から向けられる期待は嫌いだし。他人にする期待もね。特定の場合を除いて。

 

 さて、しかしどうしようか。

 中途半端に遠くに来た。このまま何もせずに戻るには少し億劫。もったいない気がする。それに、少し歩いたからかお腹が空いた。

 そうだ、近くに小川があったっけ。昨日は雨だったから小魚が出てきてるかもしれない。体も洗いたいし、行くことにしよう。


 /


 さて、やってきましたふたご河。小川だと思っていたけどこれまた広い河だった。そういえば、「川」と「河」ではそれぞれ定義があって、確か「河」の方が広いんだっけ。

 さておき、この河は名前の通り大きな中州によりふたつに分かれた流れが特徴だ。時期によってはこの中州が流され、ひとつになることもあるといい、恋人たちの縁結びの地としても地元では通っている。水深は大したことなく、一番深い場所でも足が沈まない程度。流れも緩やかなため子供たちの遊び場としても優秀だろう。水も透き通っておりきれいだ。

 そして肝心の魚探し。なるほど、このあたりはあまりいないみたいだ。開けており、丸くなった石が積もっているあたり、魚にとっての隠れ場所もないのだろう。どおりで捕食者たる鳥も見ないわけだ。

 逆に考えてみよう。魚がいないため、それを餌とする鳥がいないとなれば、鳥がいる場所には魚がいるということ。ということで、上流で随分鳥が飛んでいるのが先程から見えているため、向かうことにする。


 丸まった石の積もる河原は歩きずらかった。こんな細い脚ではいちいち隙間に掬われてよろけてしまう。けれど、普段整えられたアスファルトの上を歩くことしかしない身からするとその感覚が少し心地よく、両手を広げてバランスを取りながらふらふらと歩みを進めた。傍から見れば風に揺れる案山子のようにでも見えるのだろうか。近づくにつれ、そんな不格好な案山子に、楽しく食事しながら談笑していた鳥たちは逃げ出していった。

 より一層透き通ったように見える水の中には、やはり魚たちが涼しそうに泳いでいた。

 先程まで捕食者(トリ)に狙われていたとは思えないほど、その身をさらして流れに逆らったり従ったりしながらくねらしていた。


 僕はふと思った。

 彼ら魚にも生があるわけで、言うならば魚生だろうか。彼らに取っとも人生とは死ぬまで暇つぶしなのだろうか。そもそも、何を考えて生きているのだろうか。僕が知らないだけで、そんなことを理解できる発明なんかもあるんだろう。縁のない話かもしれないけど。

 

 だけど、やっぱり僕から見た魚の生は、人間と大して変わらないんじゃないかと思う。

 今もせっせと苔を啄む子もいれば、隅っこの岩肌で休んでいる子もいる。体力を使って働いて、疲れたら休む。人間と一緒。ならば、休んでいるあの子なんかはきっと、僕のように暇をつぶせる何かを探してでもいるのだろう。

 人間観察ならぬ魚観察。思いのほか楽しい。自然って面白い。

 

 おや、あの隅っこで休んでいる子。どこかほかの事雰囲気が違う。

 何というか、頭を振って何かを探しているような、求めているような。ある種の執着もある。体も随分やせ細っていて、どこか親近感があるなぁ。


 うん、僕と似ている。人が食べた後の残り物を食べ、何もやることなく公園のベンチで寝そべっているときの僕と一緒だ。なにか楽しいことはないかと足をぶらぶらさせる僕と。

 なるほど、僕は俯瞰してみればこんなものなんだな。なんというか、周りを合わせてみれば必死で滑稽。単体で見れば一生懸命な恵まれない子。同類の僕から見れば、卑怯者。


 なるほど。一層僕は人や動物、もしかしたら植物、下手をすれば無機物ですら、根本は人間と変わりないんじゃないかなと思えて仕方ない。

 実は全部同一で、大きな塊が砕けて分かれて、その割れ方だけで分類されたのが今なんじゃないかと思ってしまう。

 物乞いしている僕も、寝そべっている僕も。

 必死に働いている人も、誰かに生かせてもらってる人も。

 これが僕じゃなくても、人じゃなくても、どんなものであれ、結局は暇が嫌なんじゃないかな。

 生なんて、勝手に始まって勝手に終わることが確定しているものなんだし、その間をどう穴埋めするかは全部において共通なんだろう。人も動物だって最後は老いて死ぬし、植物も枯れて死ぬ。鉄だって、いずれ朽ち果て死ぬ。

 だからみんな必死に暇をつぶしたがるし、人生は死ぬまで暇つぶしなのだろう。ほうっておいたって結果は変わらないのにね。


 なんだか無性に腹が立ってきた。腹もすいてきた。

 そうだ、あいつを取って食ってやろう。もっとも、水の中だと魚の動きは機敏だし、僕の動きは鈍くなる。取れずに逃げられるのがオチかもしれないけど。魚の手づかみとか、普通に楽しそう。

 

 と、思っていた。

 びっくりするほど首尾よく捕まえられた。それはもう、面白みもなく。

 こいつはどこまで僕に似ているんだろうか。捕まってなお、あきらめたかのようにバタつきもしない。おとなしく僕に握られている。


 こいつ、僕の前世とかじゃないだろうね。


 拾ったライターで火を起こして食べたけど、ほとんど身はついていなかった。でも、ちっこい僕にとっては満腹になれる一食だった。

 砕けて分かれた何かが、こうしてひとつに戻っていく未来もあるのかな。

 

 ごちそうさまでした、僕。


 ちなみにこの時生焼けだったからか、盛大に腹を下した。それはもう、濁流のごとく。

 川魚はしっかり火を通して食べるべきだと学んだのだ。

 

 

 

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