【短編】バレンタインにチョコを貰うやつが創作すると死ぬ呪いを振りまいた
夜にジャズ聞きながら勢いで書きました。皆さんに良いバレンタインの思い出ができますように。
私は小説に魂を売ったおっさんだ。
あらゆる新人賞に応募して、審査員の時間を浪費させている。
むろん、独身で童貞だ。気にしているが、だんだんどうでもよくなってきた。たまに風呂に入っているときに死にたくなる程度である。
童貞で死のうが、良い小説がかければそれでいい。
こんな痛い私には一つ能力がある。
リア充たちが小説を書いたら数年以内に不幸になるという呪を振りまくことができるのだ。
具体的にはバレンタインチョコをもらった(ことのある)人間が不幸ぶって小説を書いて売れても、芥◯賞をとっても、数年以内に不幸になるというものだ。
もっともバレンタインなど特に気にしてはいないし、チョコよりカスタードクリームが好きだし、卵が値上がりしたせいでカスタードクリームも値上がりして落ち込んでいたら、来年からチョコの原料が爆上がりするときいてリア充ざまあ、と暗い部屋の片隅で言っている程度である。全然気にしていない。
ーーただ、呪いは本物である。
というより、もともと存在していた。私はそれを具現化したのだ。
心の底から苦しみや哀しみを体験していない人間は、ほんとうの意味での創作などできはしない。それがわかっていない人間が増えた。
わからない人間(リア充)同士でドラマや映画を作り始め、人びとに飽きられた。もはやエンターテイメント業界は童貞力不足とでも言うべきありさまである。
まあただ、女子のほうの創作事情は知らない。ただ創作している孤独な男子にチョコをあげるようなことはしてくれるな。チョコレートもらったにもかかわらず、創作をやめねば、呪いにかかってしまう。
若き創作家志望は僕のように孤独なまま、冴えないおっさんにさせてくれ。
ーーいや、違うか。創作こそが呪いだ。創作に命を捧げてしまう呪いだ。もはや化け物になり、現実の幸福など望むべくもなくなる……。
バレンタインの日、この呪いはチョコレートで解ける。
と、くだらないことを考えていた俺は、トラックにはねられて死んだ。
**
転生後。
私はチョコレートになっていた。
最悪だ。
しかも転生先もバレンタインの風習があるようだ。
奇しくも今日はバレンタインデー。
美少女に抱えられ、高身長イケメンに渡される。
「転生者のお兄さん、これ……!」
(や、やめてくれーー!)
「ありがとう!」
(いやああああ!)
見つめ合う二人。
予想通り、私を挟んで、熱い接吻がかわされる。
(誰か援護射撃をしてくれーー!)
私はなぜか目も瞑れずに、彼らの接吻を見せつけられる。
永遠とも思える接吻が終わったときにはHPがマイナスになっていた。
私の体は溶けかけていた。
現実の、長い長い孤独な人生でも一度たりとも経験したこともない接吻を間近で見てしまった。
異世界の現実に精神を殺される。
しかも私は、その後イケメンに食べられた。
いくらイケメンでも口の中はあまりにも汚く、私は最悪な拷問を受けているように感じた。
ーーそこで意識が途絶えーー。
**
目を覚ますと、悪魔が立っていた。転生先の地獄のようだ。転生後最短で死んだんじゃないのだろうか。
「これが呪いだ。バレンタインに孤独な創作家には、毎年この呪いをかけることにしたよ」
「そ、そんな……!」
「すべてのバレンタインチョコレートは異世界からのモテないこじらせ転生者の魂が入っている」
「一生食べられないではないか!」
「お前は一生誰からももらわないから大丈夫だ」
「」
【完】
少しでもイケメンがチョコを食べにくいようにしました。(イケメンはこんなもの読まないでしょうが)皆さんそれでは良きバレンタインの夜を。