いずれ神話の神殺し
「よ、よせっ、我はこの地を収める格式高い神であるぞ――」
と、馬鹿みたく宣うその頭に剣を突き刺してやった。
力なく腕が地面を打ち、命無き躯と化したその身体。
ボロボロと崩れ落ちていき、塵となって消えていった。
「……はあ」
その場にドッと座り、大きく息を吐いた。
この地を文字通り支配する神。
総勢十一柱の内、三柱をこの世から葬った。
その度に、支配されていた地域が逆に活性化し、活気を取り戻していくのだからこれほど愉快なことはない。
「よくぞまたも偉業を成したな、衛門」
「……クソ神」
「クソ神ではなく、タケミカヅチという立派な名があるのだ。敬意を持ち、崇め奉られよ」
「うるせえよクソ神が。まだ神と呼ばれるだけマシだと思いやがれ」
息を吐いて立ち上がり、地面に転がった鞘へと剣を戻す。
「ふつのみたまの剣をよくぞそこまで使いこなせるものだな」
キンと軽快な音が山中に響いた。
「俺は剣豪だ。この程度の剣を扱えなくてどうする」
塵と消えた灰を、俺は蹴飛ばす。
まだその場にあったはずの神の、悪神の姿は影も形も無くなってしまった。
痕跡もなく、跡形もなく。
「その剣を『この程度』と申すかっ。それは愉快だなっ」
宙に浮くクソ神。
胡坐をかくその膝をバシバシ叩いて笑っていた。
「貴様に力を寄越したことを、僕は誇りに思うぞっ」
「うるせえよ、その甲高い笑い声。斬るぞ」
柄に手を添えて、刀身を僅かばかり露にする。
「おお~、怖い怖い」
そう言ってクルリと上下反転して、ケラケラ笑う。
剣を抜き、抜刀術。
首を狙う。
「甘い甘い。その程度の力で剣豪と呼ぶには実力不足さ」
人差し指と中指で白羽取り。
剣を構えようにもピクリとも動かなかった。
「ちっ!」
「この地で悪さする神どもは、正直我よりも圧倒的に弱い」
「だったらてめえがそいつらを滅ぼせよ。神なんだろ?」
放された剣を、俺は鞘に収めた。
「それがダメなんだよねえ。審判によって死罪になった神以外を私的に殺してはならない。そんなどうでもよいルールが僕等を縛っている。破れば神格を失う」
「はっ、何とも腰抜けな神様どもだな」
鼻で笑う。
だがクソ神は陽気なまま。
「それは思うよ。神は基本高みの見物の腰抜けさ。だから僕は違うやり方で悪神を討つ方法を考えた」
指を差して。
「君さ。神を殺しうる力を持つ人間。この世のどの剣をも一振りで破壊してしまうほどの実力者。どうだいその剣は、なかなかの使い心地だろう?」
「ああ、愉快極まりない。その上神をも殺させてくれるなんて、反吐が出る優しさだ」
「優しさじゃあない。僕はこの地が好きだ。けれどそれを壊そうとするどうしようもない神がいる。邪魔なんだよ。少なくとも、他の神も彼等を厄介に思っていてね。君と言う神殺しがいることがむしろ都合がいいんだよ」
トンと着地して、奴は腰に手を当てた。
「しかも僕の評価も上がる。そんな人間を選んだ僕の株が上がるんだよねえ」
「都合のいい駒かよ。ほんと神ってのはイかれてる」
「そうだよ、神はイかれてる。善神であろうと、考え方は人とは桁外れにズれているからね」
「だから神は嫌いなんだよ、クソが」
踵を返し、山を下りる。
「あらら、拗ねちゃった」
そして俺の後ろに付いてくるクソ神。
不快で仕方がない。
「次は何処へ行く? 河内か? 筑波か?」
「何処でも。この国の神を全て狩る」
「おおっ!? それは素晴らしい。お上もさぞ喜ばれることだろうなッ」
クソ神は楽し気にそう言った。
俺は何も楽しくはない。
ただ神を殺すだけだ。
家族を、村の皆を殺した奴を、そして今も他の奴らを苦しめる神どもを。
「俺はただ神を殺すだけだ」
「ヒヒッ、それは楽しみだ。この地もいずれは平和になるだろう。そして語りつがれるだろう、お前の伝説を」
「どうでもいい。伝説だろうが起伝だろうが、俺の知ったことじゃない」
目の前の崖。
躊躇なくそこから飛び降りる。
重力に沿って、俺は地面へと急速に落下していった。
そして地面へと大きくヒビを入れながら着地。
身体のどこにも損傷はない。足に痛みすらない。
森の先を進んでいく。
まだ殺すべき神は多いのだ。
やることは多い。
俺を垂らす太陽の光が、鬱陶しかった。
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【集】我が家の隣には神様が居る
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