転生
ドン!
どこかで、ものすごいでかい音がした。
そのおかげで、私は目を覚ました。
「よいしょっと……」
体を起こす。私はどうやら寝ていたようだ。寝て……いた?
「て事は、助かったって事?え?あの状況で?」
少し考えて、部屋の辺りをぐるっと見渡して、いやないない、と思った。あの状況で助かるわけないし、第一ここ病院じゃなさそうだ。こんな汚いベッドに寝かせる病院なんて、日本にあるわけない。
いやだったら何なんだ。少なくとも、これだけは言える。
「ここは日本じゃない」
という事。
じゃあ、本当に神様が転生させてくれたのだろうか。
窓の外はどうなっているんだろう、と思い、ベッドから降りる。と、床が埃っぽいのに気づいた。
「そういえば、外国って土足の習慣があったんだっけ」
でも自分の靴が見当たらない。どこかにあるのだろうか。それとも失くしてしまったのだろうか。
仕方ないので素足で歩く。足の裏が汚れそうだ。
窓をのぞこうとする。と、窓に自分の顔が映った。
髪はオレンジで、瞳は青く、そして、耳が。
「エ、エルフ……?」
私は、エルフに転生した。……らしい。
私の頭はもう、興奮状態に陥っていた。
「えええー!エルフ!?エルフってあれでしょ、長く生きるんでしょ!?もしかしたら魔法が使えるかも!じゃあさっきのでかい音は魔法を発動して撃った音だったり!?」
その声で私が起きたと感じたのか、大体三十歳くらいの女性が出てきた。
「レイラ?大丈夫?」
レイラ、と呼ばれても、自分なのか分からなかった。興奮状態だったし、私はレイラという名前じゃないし。
何度名前を呼んでも中々反応してくれない私に心配したのか、女性が肩を叩いて、「レイラ?」と言った。
「あ」
私はやっと、今更だけど、レイラって自分の名前か、と気づいた。
「レイラ、大丈夫?気分はどう?」
「え?あ、うん、元気だよ」
「そう。元気なら朝ごはんを作るから、待ってて」
「うん」
あの人、誰だろ?
私は記憶を探る。どうやら私がレイラという少女に転生する前の記憶が脳に残っているらしい。が……
な、なんと、記憶がほとんどない。あるのは、ドサッ、と倒れる瞬間だけ。
「え……まじか。これ、記憶喪失ってやつかなあ。どうしよう……」
と困っていると、女性が言った。
「レイラ、ご飯できたわよ」
お母さんがそう言う。「はーい」と言ってリビングに行く。
机にはパンと牛乳があった。簡素な食事だ。この食事に後一品付け足すとしたら、ヨーグルトを付け足したい。ヨーグルト欲しかった。
私は「いただきます」と言って食べた。もぐもぐと食べていた。魔法、見たいなあ。私も使えるかなあ。でも、そのためには外に行かなきゃだけど。この女性に外に行っていいか訊きたいけど、女性の事、なんと呼べばいい?いっそ記憶喪失な事を正直に打ち明ける?でもそうすると余計に心配かけそうだし、外に行きづらくなりそうだしなぁ。
正直に記憶喪失だという事を打ち明けるのはやめた。
うーん、この女性はお母さん、かな?間違っていたらどうしよう。
「ねえ、お母さん」
「ん?なあに?」
「外に行っていい?」
「……え、まだ病み上がりでしょう?今日は家に居なさい」
「はあい……」
やはり病み上がりではダメだそうだ。はあ、明日が待ち遠しいよ。