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眠い。

 仮眠を取る前に仕掛けておいた目覚ましの音に目を覚まさせられる。

 目をこすりながら欠伸をし、伸びをして体のこわばりを取りながらモニターを確認する。モニターの左下の方に表示させた航法マップを見る限り、ちゃんと後5分ほどでスターゲートに到着するらしい。


 のどが渇いたのでコックピートシートを右に回転させ、階段を数段降りて廊下を歩き、隣の部屋に入る。保管庫から水に合成着色料と香料と合成甘味料とを入れて作られたジュースを出して、アンチグラビティマグの中に―アンチグラビティーと御大層な名前がつけられているが、ただ単に半球状をした容器の下部にローターを取り付け、空を飛ばしているだけであるが―注ぎ込む。脳内チップからマグに対して追従モードに移行するように指令を飛ばしてからシートに戻る。


 因みにコックピットのある部屋は艦橋と呼ばれているが、別に艦の上部の塔や建物みたいなところにあるわけではなく、艦中央部より少し前あたりに設置されている。また、パイロットを守るため、艦橋は異様なほどにまで固く作られている。

 昔、知り合いから聞いた小話の中で、


「今艦橋と呼ばれているものは数百年ほど前には、船の上部構造物のことを指していて、そこの小さいスペースに地球人(アーサー)の艦長や航海士、操縦主とか見張り員達10人ぐらいがぎゅうぎゅう詰めになって艦の指揮を執ってたらしいぜ。」


ということを聞いたことがあったが、そう考えるとたった一人でだだっ広い宇宙の中を漂うということはなんと寂しいことか。と思いつつアンチグラビティマグを伴い、コックピットシートに着き、左に回転させる。

 

 航法マップを確認すると、あと2分ほどでスターゲートに到着するようなので手動航行に切り替える。

 更に減速を開始し、スロットルを引き下げ、右手側のレバーを使って、スラスターを操作し逆噴射を開始させる。発艦時のように急ではないものの多少の慣性によりゆるくシートに押し付けられるのを感じる。

 数百キロ彼方という遠距離にあっても―宇宙空間ではかなり至近距離といえるが―はっきりと視認できる大きさのスターゲートがモニター内で徐々に大きくなってゆく。

 

 そこから1分少々をかけて秒速5キロメートルまで速度を落とす過程で、ハイパーレーンに突入しても問題がないかセルフチェックプログラムを走らせる。このような確認は神経質なほどにまで確認をしておいたほうが良いと思っている。

 ハイパーレーン内で何らかのトラブルが発生したら目も当てられない惨状になるのだから。宇宙空間というどんな些細なミスでも命取りになる可能性がある以上、臆病なくらいがちょうどいい。むしろほかの傭兵たちがなぜそこまでしないのかと、とても不思議に思うぐらいだ。

 おそらく彼らに言わせれば

「お前は何百年前の人間だよ。そう簡単に戦闘用航宙艦(せんかん)が沈むか!」となるのだろう。

 確かにこの数百年で飛躍的に航宙艦の性能は上がり、そうめったなことで事故は起こらないが、怖いものは怖いのである。

 

 なぜ自分のような臆病者が傭兵なんかやっているのかと仲間の傭兵に聞かれたこともある。別に悪意があってのことではなく、純粋な疑問のようであったため、その時は肩をすくめるだけでスルーしたが、そいつはお星さまとなり、自分はまだ太陽のもと(現世)で傭兵を続けている。ただそれだけの違いだ。

 

 唸り声をあげながら頭を振って過去の幻影を振り払い、スターゲートの正面70キロの位置につける。

 スターゲートに突入しようとするほかの艦艇や、外縁部にて、不審な挙動をする艦艇がいないかと目を光らせている警備艦隊もいるため、あたりの宙域には数千隻単位の船がいるはずだが、スターゲートは直径50キロ以上あるので密度自体はスッカスカである。

 ほぼずっと途切れることなく、スターゲートの何処かで艦艇がスターゲート内に飛び込みまくっているため、艦艇がゲートに触れると水面に水滴を垂らしたような波紋が発生する、という性質があるゲートの表面は、さながら軽く沸騰したお湯のようである。


 付近数キロ以内に接触しそうなほかの艦艇がいないことを確認し、星々が、水面に映った夜空のように、少し歪み、瞬いているように見えるゲートに突入する。

 ゲートを潜り、ハイパーレーンの流れに乗ると同時に左手側のスロットルを一気に押し込み加速させる。すると普段の比にならない程の慣性が自らの体にのしかかり、一気にシートに押し付けられる。

 目指す開発中の辺境宙域はすぐそこまで! と言いたいところだが、ハイパーレーンに乗ったことで普段の巡航速度の5倍近い速度が出ているが、紫雲の普段の巡航速度が秒速500キロほどであり、現在の速度が秒速2470キロメートルと少しである。つまり光速の120分の1に過ぎないわけであり、目指す辺境の宙域近くのスターゲートまでは2週間ほどかかるわけである。


 さらにこれはハイパーレーン内から出る際の減速を考えない場合であり、スターゲートから出たとして、加速度が平常通りになったとしても、慣性の法則は働き屋さんなので、もれなく慣性により、光速の120分の1の速度でスターゲートから数万トンにもなる鉄塊が数千隻単位の艦船が浮かぶ宙域にすっ飛んでくるわけである。もちろん、大惨事になることはAIではない限り、容易に想像できることである。

 そのため、今回の旅路では1週間近い減速期間が必要となり、計3週間ほど掛けて、ようやくの事で目的地の目と鼻の先にまでたどり着くことができるのだ。

 

 ここで小説や映画に出てくるような超光速ワープやジャンプドライブができないかとぼやいたところで今ここでワープしたり、目的地まで3週間かかるという事実がどっかに逝ってくれるわけでもないため、おとなしくタッチパネルでハイパーレーン内での航路を設定してからオートパイロットに艦をお任せすることにした。

 

 

次話で戦闘があるって言ったな。あれは嘘だ!期待してた人はすまんやで。

tips.スターゲート これは単純に言えばハイパーレーンという宇宙空間内を流れる3次元的に動く潮の流れのようなものに乗せてくれる機械。ハイパーレーン自体は太さが約数千キロメートルあるがスターゲートが50キロメートルほどの大きさなのは、建設段階でそれだけあれば大きさ的に十分でしょ。って考えられたから。スターゲートはその性質上軍事的にも、物流的にも非常に重要な拠点なのでいつでも警備艦隊が常駐している。ただしほとんど圧力をかけるために存在しているだけ。理由は簡単。高速の駆逐艦などでスターゲート本体に突っ込まれたら、だれにも止められないから。同じ理由で税関的なものも設置されていない。

 ハイパーレーンは強力な潮の流れのようなものなので別に亜空間に入ってるとかそういうわけではない。つまりスターレーンを通らずにハイパーレーンを突っ切ろうとすると、艦のどてっぱらをとんでもない速度で突っ込んできた艦艇によって粉砕されるやべー場所ともなりうる。そのためふつうは突っ切らずに数千キロを迂回する。ちなみにスターレーンをくぐってハイパーレーンに乗っている艦艇も同様であり、宇宙空間に漂っているデブリや小さめの小惑星がハイパーレーン内に突入すると、普段の数倍の速度でデブリに衝突する羽目になる。そして極めつけはある一定以下の重量の物体ならごくまれにスターゲートを通らずにハイパーレーンに乗ることができる、ということである。つまりごく稀に、ハイパーレーンを航行中に、普段の数倍の速度で迫ってくるデブリと地獄の追いかけっこが始まる可能性がある。ということである。作中では紫雲は通常の約5倍近い速度で巡航していたが、それは紫雲が高速航宙駆逐という高速航行をすることで瞬時に即応部隊を派遣することを目的とし、開発されている艦種だったためであり、鈍重で高速航行が苦手な大型、超大型の輸送船は最高でも普段の3倍以下しか出せず、このようなデブリと衝突することもしばしばあったため装甲がかなり分厚くされている。

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