天と地のふたり ~ 放課後は僕とあいつのふたりきりの時間なので邪魔しないで下さい ~
「おーっす!」
ガラッと教室のドアが開き、同時にあいつの声が流れ込んでくる。天使 翼だ。あいつが来ると、いつも教室の雰囲気が変わる。あいつの声や存在だけで、教室内が明るくなる。
「よー!翼!」
「きゃー!天使君おはよう!」
「おはよう、天使君!」
「なーなー天使ぁ!今日もカラオケ行こうぜ!」
天使が教室に来ると、男も女もわっ!と天使のところに集まる。
天使は顔も良くて背も高くて、その上勉強もできるしスポーツもできるし。性格も気さくで明るくて、全く嫌みの無いやつだし。そんなだから、天使は老若男女に好かれてる。
僕は、教室の一番後ろの席で本を読みながら、時々チラチラと天使を見る。楽しそうにクラスメートたちと話す天使。それを僕は遠くから見つめている…だけ。みんなの前で、天使と僕はほとんど話したことがない。話したとしても、ほんの数秒数分程度の業務連絡的会話だけ。
陽キャの天使と陰キャの僕…天と地の僕たち。
クラスのみんなはきっと、僕たちの関係を知らない。知らなくていい。僕たちだけの…ヒミツ。
男に肩を組まれたり、女に腕に抱きつかれたりする天使。本当は誰にも天使に触れてほしくないけど…仕方ない。天使は人気者だから。
「今は…許してあげる」
ぽつりと僕はそう言いながら、あいつにLINEを送った。
▲▼▲
「な~翼ぁ、お前もカラオケ行こうぜってば!」
「だから、俺は約束があるから行けないんだよ」
「ちぇ~…分かったよ、じゃあまた明日な」
「おう!また明日」
俺は友達に言って、さっさと教室を出た。あまり教室に長居すると、色んなやつらに遊びに行こうと誘われるから厄介だ。
遅くなったらあいつネチネチ言うからな。早く行かねえと。
そう心で言いながら、俺は急いで階段を上がる。階段を上がる途中でも、年上のお姉さんが遊びに行こうって誘ってきたが、俺はそのお姉さんたちを通りすぎながら断った。
「ふ~…人気者も楽じゃないねぇ、なんつって…いや、そんなこと言ってる場合じゃねえな。早く比呂矢んとこに行かねえと!」
俺は急いで3階の奥にある社会の資料室に急ぐ。そして。
「わりぃ比呂矢!待たせたな!」
ガラッ!と、資料室の扉を勢いよく開き、中に入る。奥に行くと、カーテンの閉まる窓際に比呂矢が佇んでいた。
「…遅い。帰りのホームルームが終わってもう15分経ってるよ。僕はホームルーム終わって5分くらいしてここに来れたのに」
でた、比呂矢のイヤミ。
「ご、ごめんって。『遊びに行こう』って色んなやつらに誘われるから、それを断ってたら遅くなったんだよ」
「…ほんと、翼は人気者だよね。いつもひとりぼっちの僕と違って大変だね。羨ましいよ」
「も~…怒るなって!」
そう言って俺は、ドンッと窓に手を突きそして─
「んっ…」
「……」
俺は比呂矢の唇を唇で塞いだ。キス、した。
「んっ…ふぅッ!んぅっ……」
すると比呂矢はキスしながら俺の肩を掴み、俺の体を窓にどんっと押し付けると、舌で俺の口を無理矢理こじ開け、濡れた舌を俺の口内に押し込んだ。
閉めきったカーテンの向こう。
部活動生の声や走る音などが、遠くから聞こえてくる。
俺は同じクラスの地神 比呂矢と…深くふかくキス、してる。
俺は男だけど、男の比呂矢と付き合っている。
きっと、俺と比呂矢だけしか知らない…ヒミツの関係だ。
「はぁ…あっ…待て…って。もういいだろ!ここ学校だぜ!これ以上は…まずい…」
比呂矢のキスが気持ちよくて、頭も心もとろとろになる。めまいが、してくる。息が、あがる。
比呂矢の体を引き離そうとするけど、力が強くて引き離せない。俺より背が低いくせに、比呂矢の方が力が強い。比呂矢の濡れた舌が俺の舌から離れようとしない。
「…るさいよ、黙って」
「っ!うっ…」
そう言って比呂矢は、濃厚なキスをしながら俺のシャツの中に手を入れてきた。
「……ぁ…」
「…っ…」
薄暗くて埃臭い資料室。
閉じたカーテンの隙間から零れる、夕日の朱。
俺と比呂矢は…声を殺しながら、ヒミツの甘い時間を過ごす─…