表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

十年前、確かに私はあなたを愛しておりました。

作者: 棘 瑞貴


「さよなら殿下──」

「まっ……待て、止めろ……!!」


 かつてプレイした乙女ゲームの攻略対象かつ、現在私の夫でもあるこの国の王クイネル・ゲルニウスを、今まさに毒殺しようとしている所だった。


 ──私には前世の記憶なるものが存在する。

 それは十年前突如として蘇り、この世界がゲームの世界である事を私に思い出させた。


 思えば、短いけど思い出の多い人生だった。

 苦い思い出ばかりのね。


 親には虐待され、学生時代はいじめられ、社会に出てようやく出来た彼氏がDV男で、しかも浮気されて口論中に──あぁ思い出したら鬱ってきた。

 ともかく、そんな嫌な事だらけの人生の中で唯一の私の心の救いが乙女ゲームだった。

 ゲームに出て来る彼らはいつだって私を愛し、甘い言葉をくれる。

 人には言えなかったけれど、私は本気で画面の中の彼らに恋してた。

 

 それだけに死後、私が一番好きだったこのゲームの世界で意識を取り戻したのは、神様が私にくれたご褒美だと思ったわ。

 そう、十年前までは。


 初めは順調だったわよ?

 だって何度もプレイしたから攻略法は知ってるし、一番好きだったクイネル殿下と結ばれるのも容易かった。あぁ、今は殿下じゃなくて陛下か。

 でもね、私の思い出にある彼はいつだって殿下だったから、ついそう呼んじゃうの。

 ずっとずっと、現実でそう呼べたらって何度も思ってた。


 なのに──。


「待て?何故私がそんな事をしなくちゃならないのですか?あなたが私を裏切ったのでしょう?」

「そ、それはっ……!」

「言い訳は結構ですわ。証拠はいくらでもありますもの」


 そう、クイネルは私に黙って幾人もの女と関係を持っていたのだ。

 それだけじゃない。囲った女には敵国の者も含まれており、あまつさえ国政をペラペラと語っている始末。

 現代で言うハニートラップに、まんまと引っ掛かってしまっていた。

 こんな事、家臣はもちろん、国民に伝わってしまえばこの国は終わりだ。

 内乱が始まり、その隙を狙った敵国の襲来を防げる筈もない。

 だから、今ここで私が終わらせるしかない。

 

 これは私が招いた結末でもあるのかもしれない。

 ゲームの知識で悠々暮らそう──そんな甘い考えを持っていなかった言えば嘘になる。

 だけど、それは殿下と結ばれてからすぐに捨て去った。

 なんせゲームは結ばれてしまえばエンディングに入ってしまう。

 エンディングのその後なんて知ってるわけがない。

 十年前から今日までは必死で、誇張ではなく、死に物狂いで努力してきたと思う。

 なんせただの一般人が王妃になってしまったのだから。


 ……だからこれは私の責任だ。


「クイネル陛下……この国は私に任せて下さい。きちんと安定させてから私も責任を取りますから」

「なっ、何を言っている!?今でも我が国は──」

「はぁ……本当に先の視えない人ですね」


 長く共にしなかった寝室の中、寝静まったクイネルに仕掛けた麻痺毒のせいで、彼は自由に身体を動かせない。

 その時に致死性の毒を盛れば良かったのだけど……この時間は私のわがままだ。

 だから、今から贈る言葉は王妃としてではなく、報われない日々を送った私の言葉を──。


「私、あなたが居てくれて本当に救われたの。大好きだった……!心から感謝してる……!」

「……な、なにを……」

「きっと伝わらないよね……。ごめんなさい、でも嘘はついてないから」


 一筋の涙が溢れた。

 私はそれを拭う事はしなかった。


「だったら──」


 驚愕で目を見開いて私を見つめる彼は、救いを求めるような言葉を呟こうと口をキリキリと開いた。

 私はそこへ、蓋を開けた瓶の中身を流し込む。


「!?」

「……許す訳ないでしょう」


 ごくん、と吐き出さずに無事、液体を胃に送り込ませた。

 

「あなたは私を裏切った。国王としての自覚もない。今の私(・・・)はあなたへの気持ちなんて──」

「がごごっ……ごふっ……!」

「……」


 首元に手をあて、苦しそうにもがきだした彼を冷ややかに見下ろす。


「……おおお、おマエは……俺ヲッ……!!」

「……」

「……っ……」


 続きを口にする事なく、クイネルは息を引き取った。

 そう言えば前世で聞いた事がある。

 人は脈が止まって死へと向かう最中、最後まで残るのは聴覚だとか。

 ならば本当に最期、彼にこう言葉を遺そう。


「──十年前、確かに私はあなたを愛しておりました」

お読み下さりありがとうございます!


少しでも面白い!

そう思って頂ける方がおられれば、ぜひスクロールバーを下げていった先にある広告下の☆☆☆☆☆に評価やブックマーク、いいね感想等ぜひ願いします!!


よろしければこちらも合わせてお楽しみ下さいませ!

【1日1ざまぁ。~乙女ゲームで浮気王子達を断罪しないと明日が来なくなりました~】↓

https://ncode.syosetu.com/n6622ig/

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] ヒロインに転生して浮かれてたから仕方ないんだ、と言えばそうなのかもですが…… でも、やっぱり不思議なんですよね。 そんなに攻略した後のこと考えないものなのか、といつも思ってしまう。 結ばれた…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ