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侵入

「推しかー、推しはなぁ」


 普段会話をほぼすることがない妹との会話とシンプルな推しから「推しいるの?」発言によって俺はテンションが爆上がりしていた。


 ここはやはり正直に答えるべきだろう。推しにファンです、ということを伝えることの出来る貴重な機会なんだ。


 と言っても優芽はきっと既に言われ慣れているだろうが。

 だが、やはりこの状況というのはテンションが上がってしまう。


 これがアイドルオタクの気持ちなのか。今まで正直気持ち悪いなんて思ってしまっていたが訂正する。


 俺も立派なアイドルオタクだぜ。全国のオタクのみんな、もう安心だ。君たちが責められる必要は無い。これは正義だ。


 …冷静に考えてどうだろう。


 たとえ血は繋がっていないと言えど、家族から君が好きなんだー、なんて言われたら気持ち悪いのではないだろうか。


 優芽は一体どっち派だろう。

 ファンだと言われて素直に喜んでくれるのか。それとも家族なのに気持ち悪い、と言われてしまうのだろうか。


 いや気にしてもしょうがない。1ファンとして優芽に伝えるべきだろう。


「別にいないなら言わなくてもいい」


「優芽だ」


 言った。言ってしまったー。


「へ、あー、そうなんだ。義兄さんは私が推しなんだね」


 優芽は感情の籠っていない声音で俺にそう言う。それに対し、俺は自信ありげに優芽にこう答えた。


「そうだな。シャーベットのことをつい最近調べてみてな。勢いで曲も聞いたら思いの外素晴らしい曲ばっかでな。その中で1番好きな歌声の持ち主が優芽なんだよな」


 我ながら言っていて恥ずかしいと思いながらも、嘘偽りのないことだと優芽に伝える。


「なんで今までシャーベットの曲を聞かなかったんだろうって、損した気分になっちゃってさ」


「ど……て!」


「これからも優芽のことを中心にシャーベットを全力で応援していくつもりだ。だからもしドームコンサートとか決まったら、俺のために特別な席を用意してくれよな」


「どう…て!」


「ん?」


 優芽が突然大きな声を上げたので質問し返す。


「…なんでもない」


 話をはぐらかされる。


 ふと優芽の顔を見ると頬が赤くなっていたのを俺は見逃していなかった。








 下校中、突然優芽が頬を赤くしていたので俺は心配して優芽に体調を尋ねたが大きな声で「なんでもない!」と叫ばれてしまった。


 それでも俺は不安を隠しきれず晩御飯に隠れて風邪に効く食べ物を入れておいた。


 普通に元気よく食べていたし、心配は杞憂だったようだ。



 既に夜の11時ということで流石に優芽も歌う練習をしていないが、家に帰ってきてからというものずっと練習をしていた。


 土日は仕事でいっぱいだと言うのに本当に身体は大丈夫なのだろうか。


 平日優芽は学校に行くためにアイドルの仕事は基本休んでいる。


 明日は通常通り学校登校だ。


 俺も明日は早い事だし寝るとしようかな。






「ねぇ…」


 ふと物音が聞こえて俺は夜中に目を開ける。電気は全て消えていて、まだ目がなれないせいか何も見えない。


「ねぇ、義兄さん」


「わぁっ!」


 耳元から突然聞き覚えのある声が聞こえて俺は驚きの声を上げる。


「優芽、いるのか?」

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