きっかけ
俺は頭が混乱していた。
「マネージャー?」
「はい、マネージャーです」
マネージャーというのはいわゆるあのマネージャーだろうか。
芸能人やらアイドルやらの活動をサポートするやつ。
もしそうだとするならば何故俺に話を持ちかけたのだろう。俺と彼女は初対面なはず。
俺は作家をしていること以外、普通の一般人だ。
このことは優芽や家族しか知らないはずなのに。
「話がよく分からないんだけど…… 」
「私、嫉妬しているんですよ。シャーベットの方々とあなたの関係」
ぎくッ。なぜ俺とシャーベットの関係を知っているんだ。優芽と義兄妹関係であることはこの学校中に広まっているはずだから知られているのは当たり前だ。
「優芽さんのお兄様なんですよね。非常に羨ましいです」
「あぁ…はい」
心配は杞憂だったようで、俺が葉月ちゃんに直接会ったことは知られていないようだ。
俺は心の中で胸をなでおろし、ひと安心する。
そもそも彼女が俺と葉月ちゃんが会ったことを知る術がない。
最初から心配する必要なんてなかったのだ。
いつもの冷静な俺ならこんな間違いするはず無かったのだが……最近色々と周りの状況が変化してきて頭がおかしくなっているのかもしれない。
久しぶりに帰ってからは原稿を書いてみるか。ここ数日どうもやる気が湧かないで書いていなかったが、編集さんにも急かされているし頑張れなければならない。
「そして○○の作者である結城先生でもありますよね?」
俺は誤魔化すことを考えたが彼女の瞳は完全に確信している様子である。
下手に演技するよりも楽な道を歩める気がする。
「うーん、まぁそうだけど。よくわかったね」
「あれ、驚かないんですね。その反応は想定外です」
「うん、逆に強く否定しても本人です、って言ってるものだからね」
俺はあくまで平然を装っている。俺があの結城先生だということは本当に周りにバレたくない。
自分で言うのもなんだが、きっと正体がバレてしまったら俺は学校中の人という人から密集してくるに違いない。
それほどに俺の作品の影響力は強いのだ。それに加えて、今の具合ではシャーベットのことに関しても色々と問題が発生するに違いない。
警戒するものが増えるだけである。
「結城さんの影響力とプロデュース力に期待してお願いです。私のマネージャーになって貰えないですか?」
「あの、奏さんはアイドル活動を営んでいらっしゃって?」
「いえ、今はまだ」
「では何故マネージャーを?」
俺にプロデュース力があるとは到底思えないのだが、彼女は一体何を思って?
「つい昨日の話です。私は数少ない友人たちとショッピングを楽しんでいました」
数少ないって……わざわざ言う必要あるか。数少ないと言っても俺よりは100%多いのだから自分の存在が本当に虚しくなるな。
「その帰り道です。怪しい視線を感じ始めたのは」
何やら不穏な空気だが、怪しい勧誘とかではないんだよな。
「そして突然その視線の持ち主が私に話しかけてきたんです!」




