4通目 俺にとっての存在
日記のような小説は、その週のうちに書き上がった。
彼宛ての封筒に同封する。誰かのために小説を書き下ろすのは初めてだった。どんな反応をするんだろう。期待と不安で胸がいっぱいだった。
彼は一緒にいるときその話をしなかった。
感想がないのか、興味がないのか。興味がなければわざわざ手紙に読みたいなんて書かないだろうし、私自身に関心がないわけでもなさそうだった。その答えはその日の手紙に書かれていた。
『俺がモデルの小説書いてくれてありがとう。
あんなラブラブな物語の主人公が俺でいいのかな。
ちょっと恥ずかしいけど、君ともっとラブラブになりたい。なんてね。
一人だとつら【い】けど、君がいてくれるから大丈夫。
今の俺にとって君の存在が大切なものになってるんだ。
まだ出会って間も無いのにね。
きっと君が先に退院してしまうから、少し淋しい。
でも俺も早く外に出られるようになるから。
少し待たせちゃうけどごめんね。好きだよ。』
彼はちゃんと読んでくれていた。
会う度に少しずつ目を合わせられるようになってきて、話をして、お互いのことわかってきたつもり。
彼にとって私は大切な存在になり始めているのだ。
同時に、私にとって彼は大切な存在になり始めていた。
友達にそのことを話す。
檻の外の人間に言ってもわからないと思ったからだ。
「じっくり時間かけて見極め。そしたらわかるんとちゃう?」
友達の意見はいつでも的確だった。
そうだ、付き合ってまだ一週間もたってない。
会える時間だけで言えば3時間半といったところだ。
そのことを書いておこう。
レターセットをいつも通り取り出しながら、私は深呼吸をひとつした。