3通目 幸せと言える場所へ
『「外」で会う度、俺は幸せだなって思う。
【つ】き合えて本当に幸せ。
本当の意味で外で会えたらもっといいのにって思う。
そのためには俺も頑張んないとね。
檻の中は退屈だけど、他の棟に君がいるって思ったら頑張れそうだよ。君も他の棟で頑張ってるもんね。
いつか君の書いた物語が読みたいな。とか言ってみたり。
あぁ、ほんと俺は幸せ者だな。
君のおかげでほんと幸せ。』
「君の隣にいるなんて夢みたいだなあ。」
タバコを揉み消しながら彼が言った。返事に詰まっていると、初めて会ったときの様に、ニィッと目を細めて笑った。
「俺さ、こんな病気だし、君の隣にいていいのかな。」
表情を変えず彼は私に問いかけた。だが、その声はどことなく震えていて。不安が伝わってきた。
「大丈夫ですよ。」
落ち着いてゆっくり語りかける。彼は目を開きながら私のことをまっすぐ見つめた。
「私があなたの居場所になります。幸せと言える場所になります。」
自分でも何言ってるんだろうって思う。でも、彼がくれた幸せという言葉。それに応えたいという思い。あんな突拍子もない告白に応えてくれた恩返しがしたかった。
しばらく彼はフリーズすると、プッと吹き出した。
「ははっ、君はほんと真っ直ぐだね。悩みごとも飛んでっちゃうよ。」
彼は彼なりに何か考えていたのだろうか。首を傾げていると、頭をぽんぽんと撫でられた。
「君が告白してくれなかったら、今こうしていられないんだもんね。」
「あの時は・・・。」
「ほんと、君が俺を選んでくれてよかった。」
新しいタバコに火をつけながら彼は言った。その姿に少しホッとしていると、ふと、この事を小説にしようと思った。
彼の一字一句を忘れないように。
あれ?なんで今そんなこと思ったのかなと悩んでいると、定刻通り彼の腕時計がなった。
今日何本目かのタバコを消しながら、彼はまた明日ねと笑う。
私も悩んでいたことを忘れ、彼に手を振った。
彼の隣にいれば不安なんてない。
そう思っていたのに。