1通目 誠実な人
「はい、これ。手紙書いてみたんだ。」
次の日、外出時間に「外」に出ると、彼が白い封筒をもって待っていた。
相変わらず手にはメンソールのタバコ。パーカーのポケットにはチョコレートが見え隠れしていた。
思わぬプレゼントにフリーズする。
「そんなかしこまるようなものでもないよ。ね、受け取って?」
「はい。」
両手で宝物をもらうように受け取ると、彼はクククと可笑しそうに笑った。
「また明日。」
タバコを吸い終えると、灰皿に捨てる。
そのまま、私の頭をポンポンとなでると病棟に帰っていこうとした。
「あ、あの!」
私が思わず呼び止めると、不思議そうな顔で振り向く。
「・・・また明日。」
言いたい言葉が出てこない。付き合って二日目だ。正直顔も見れない。
そんな私を知ってか知らずか、ふっと笑うと、彼は手をひらひらと振って帰っていった。
病棟で、もらった手紙の封を切る。
『初めて手紙書くね。
告白嬉しかった。ありがとう。
正直入院中にこんな事起きるなんて思ってなかったから驚いてる。
本当に俺でいいのかな。
俺のこと書いとくね。
昭和✕✕年✕月✕日生まれのA型。
趣味はカラオケ。歌はうまくないけど歌うのは好きだよ。
いつか一緒にカラオケ行けたらいいね。
君の趣味は何?よかったら教えてくれたら嬉しいな。
本当、俺を選んでくれてありがと【う】。
大事にするよ。』
いつも「外」で会う優しい彼がそこにはいた。
封筒をぎゅうっと握りしめる。
そうだお返事を書かなければ。
友達に相談すると快くレターセットを貸してくれた。
「ええ人やね。でも、気をつけるんよ。」
少し真剣な眼差しで言われる。付き合ったきっかけを知ってる友達だからこその忠告だ。
そうだ、相手のこと何も知らない。これからゆっくりわかり合っていこう。
便箋に、手紙をくれたお礼、自分のこと、それから周りの忠告を少々。これを書いたのは彼の反応を見るためだった。これでやっぱ無理だとなれば私達がお付き合いを続けるのは到底不可能だし、彼の本心が気になった。
便箋2枚くらいに簡単にまとめると、私は封をした。
ちょこっとハートマークなんて書いてみたりして。
明日渡すのが少し楽しみになっていた。