第0話「銀色の翼」
急降下。いわゆる、機首を地上へと向け飛行している状態。
けど私が機首を向けているのは地上ではなく、地よりも高く飛び続ける数匹の巨大な竜。
奴らの進行方向の少し先、数十メートル先へ照準器の中心を合わせた。
加速していく機体が振動する中でまだだ、まだだと撃ちたくなる衝動を抑えながら飛行を続ける。やがて照準器の円から奴らの体の一部がはみ出た。
「今だ」
小さく呟き、私は操縦桿に取り付けられた引金を引いた。連続した小さな爆発音と共に機関砲弾が竜へ向けて放たれていく。アスタリカから贈与されたAN/M2 20mm機関砲の威力はかなりの物で、竜へ命中するなり小さく火花を散らして肉を抉った。
竜を掠めるようにギリギリの所を飛び、落ちていく竜の死にゆく所を見届ける。
1体の撃墜のみに留まったけど、これで帰還しよう。
理由は4基の機関砲のうち2つが故障したからだ。これでは火力は半減し、落とせる物も落とせない。
けどそんな私の背後に、高速飛行が可能な小型の竜人が今襲い掛からんと迫っていた。
咄嗟に操縦桿を引き出力を最大まで上げ、そこから更に右へ操縦桿を倒して機体を右へ傾ける。
竜人は速いが、生身故にこの高速機動にはついてこれない。そのまま速度を上げて基地のある方向へ飛び続けた。
この作戦の最中、私は仲間とはぐれてしまった。無線で呼びかけられる範囲から脱してしまい、周辺を探していた時にあの竜の集団と遭遇。そして戦闘を仕掛けた。
搭載されているガンカメラが壊れていなければ、私の公式撃墜数は40体に達する。
1948年、世界大戦が始まろうかというご時世。そんな所へゲルマニア国に現れた黒い霧。
ゲルマニア国を全て飲み込んだその黒い霧は竜や竜人を放ち、瞬く間にゲルマニアを占領。
世界は大戦ムードから一気に表替わりし、それら人類への脅威から国を守るべく結束を始めた。
それから5年。
幸いにも私の住まうアスタリカはその軍事力を以て侵略を防いではいるが、このままではいずれ世界は竜に支配される。
基地へ着陸すれば、機体に取り付けられたガンカメラが外されて検証所へと運ばれる。
横目で銀色に輝く愛機のP-51Dを見て、馬を撫でるように機体を撫でた。コイツがいるから私がいて、生き延びている。
「イリス・サガミ2等空兵、基地司令がお怒りだ」
「は?」
思い当たる点はいくつかある。仲間とはぐれた事か、撃墜数が1しかカウントされなかった事か。
はたまたその両方か。どちらにせよお怒りの基地司令の所へ行くのは億劫だ。
「命からがら生きて帰ってきた所にお言葉を頂くのは勘弁してくれ。ひと眠りしてからならいくらでも」
私はそのままジャケットを脱ぎ、背伸びをしながら宿舎へと歩いていく。
ぐっすり眠れる予感はしていない。どうせまた、出撃の警報で叩き起こされるんだから。
貴重な睡眠時間をそんな事で持っていかれたくないし、今回の件に関しては機材の故障故に起きた事。もっといい機材を寄越してくれればはぐれる事も1体の撃墜に留める事も無い。
この世界を救ってくれる救世主でも現れてくれればなと、小さく願いながら私はベッドへと潜りこんだ。
名前:イリス・サガミ
年齢:19歳
身長:162cm
体重:非公開
所属:アスタリカ空軍第4戦闘飛行隊
使用機材:ノースアスタリカン P-51D
飛行機乗りの両親の元に生まれ、自身も飛行機乗りとなるべく勉強に励んでいた。
1938年から始まった竜との戦争をきっかけに新設されたアスタリカ空軍に入隊。
性格は自己中心的でありながらも、空戦中には味方の生存を最優先させる一面もある。
名前からわかるように、扶桑人とブリタニア人のハーフ。
はい。群青の空へがそろそろ終わりに近づいているので、新作を書き始めました。
突発的に思いついたが故に至らぬ点も多いかと思いますが、今作も何卒よろしくお願い申し上げます。