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ある日魔法は唐突に  作者: 亜入
第一章
23/29

第二十二話 願いは唐突に 前編

「あぁ、最近ニュースで話題になっているやつですよね? 数十年に一度地球に接近してきて肉眼でも観測できる彗星とか何とか」

「そう! あの石は彗星の隕石だったの」

 

 確か話によると日本で数十年ぶりに観測できるから巷で話題になっているらしい。学園の閉鎖空間では流行と乖離しているのでクラスで話題にならないのも不思議ではないのかもしれない。……最近は心霊現象で話題にはなってけれども。


 でもただの隕石が魔法の光を放っているのは不思議なことだ。あの心霊現象の原因はあの隕石。

 となると誰かがあの隕石に魔法をかけたのだろうか?

 ……今下手に話を聞いても自分から墓穴を掘ってしまったら大変だ。後で未来から説明を聞こう。

「で、アレが隕石だとしても心霊現象が起こった理由は?」

 いい感じに気になっていたことを未来が先生に尋ねてくれた。

「それが私でもビックリ! あの隕石自体から魔力を持っているんだって!」

 それは予想通りというか見た通りというべきか。

 ただそれはわかっていても悲鳴と魔力を結びつける何かがない。未来も同じことを思っているみたいで腑に落ちていない様子。

 しかし一週間という短い期間で隕石ということまでわかるだけでも大きな一歩だ。これ以上は先生に聞いても情報がないと思ったのか未来は質問するのはやめてしまった。


 だが先生の話はこれだけでは終わらなかった。むしろここからが本題だった。

「ここからは私個人の考察。科学的根拠もない話だけど聞いてくれる?」

 未来と顔を見合わせ頷く。黙って先生の考察とやらを聞いてみることにした。

「あの魔力を持っている隕石は誰かの魔力に反応する……と思うの。最初に例の扉に手を付けたのはどっち?」

「それは私だけど」

 あの時は未来が扉を開けて自分が異変を探っていた。一週間前のあの瞬間は鮮明に覚えている。

「なら悲鳴は未来ちゃんの魔力に感知して聞こえたのかもね」

「でも先生、だとしたら話が変わってくる。と言うことはまさか動画に出ていた二人のうちのどちらかは魔法使い?」

「そのまさかよ。昨日私も動画を見返したわ。最初は気にもしなかったけど、二回悲鳴が聞こえた時に扉に触れていた人物は同じ人。つまりはその人は魔法使いと言う事になるね。動画の最後に聞こえた悲鳴は編集なのか本物なのかまではわからないけどね」

 自分はそこまで頭は回ることはなく気がつきもしなかった。動画越しでは誰一人光を発していなかったし、そもそもあの集団に魔法使いがいるという思考にすら至らなかった。俗に言うとあれが一般人に擬態している状態なのかもしれない。

「先生。だとするとわからないことが一つ出てくる。アリスがあの隕石を発見した時や私がこの学園に持ってきた時はあの隕石から悲鳴が聞こえることはなかった。それについてはどう説明を?」

 未来の疑問は魔法ひよっ子の私でも理解できること。あの隕石と私の魔法は同じような役割を持っているわけ。魔法使いが近くにいれば悲鳴が聞こえ、誰かが魔法を使えば私は光で見ることができる。探知機としての役割は共通しているわけだ。しかしそれが私たちには一切機能しなかった。それは不可解なことであることは誰でもお分かりだろう。

「あの隕石は相当古いものらしくてね。電池切れの状態に近いって研究の人に言われたわ。だからもう悲鳴を発する可能性はもうないって。だからね……」

 先生はコソコソと自分の机の引き出しから箱を取り出した。

「はいこれ。発見者のアリスちゃんに渡しておくね」

「えっ……!?」

 まさかと思い箱を開け中身を取り出した。それはあの時発見したままの隕石……、ではなくネックレスだった。

 いきなり記念日でもないのにアクセサリーのプレゼント? と疑問に思うがネックレスをよく観察してみるとその正体がわかった。

「隕石の……ネックレス?」

「アリスちゃん大正解! 私の知り合いに頼んで加工してもらったの! いいでしょうそれ!」

 先生はウキウキで正解を発表した。中身は男性である自分でもこれはオシャレだなと感じてしまった。歪な形だった石の礫が球体に加工され綺麗に磨かれていた。それに穴を開け紐を通した簡単な作りとなっているが、これはこれでシンプルオブザベストだと思う。

 本当にこんなものを貰ってしまっていいものなのかと目をキラキラ輝かしながらネックレスを手に取って見つめてしまっていると未来から一言ツッコミを入れられる。

「これって研究対象にならないの? 勝手に他の人に上げていいものなのか?」

「大丈夫大丈夫! その隕石の情報はあらかた手に入ったから必要ないって言われちゃった。このまま学園の倉庫に眠らせておくなら記念に発見者にプレゼントした方がいいって提案もされてね。学園の研究機関もそれを返せとも言わないだろうし私が独断で加工しちゃったの」

「独断って……。まぁ研究機関がそう言うなら別にいいか」

 未来も何とか納得してくれたご様子で。でも……、こんな大層なもの貰ってしまっていいのだろうか?

 自分は何もしていないに等しいのに……。先生と未来の表情を伺うも二人とも黙って頷いていた。

 それなら……、と不慣れな手つきで自分の首にネックレスを着けてみた。

「ふふっ、似合っているよアリス」

「よかった! アリスちゃんに合うかちょっと心配したんですよね。ほら? アリスちゃんは可愛いから大人びたネックレスは似合うかなって」

 二人から感想を言われると少し照れてしまう。部屋にあった鏡で自分の姿を確認しても……うん、似合っている。可愛い女の子がちょっとしたアクセントのものを持っているとグッとくる。せっかく今の姿は可愛い女の子の姿、それなら少しくらいオシャレを楽しんでもバチは当たらないだろう。


 キーンコーンカーンコーン


 窓を眺めると日は落ち始め、図書館からは生徒たちが歩く音が聞こえ始める。図書館には勉学のためにやってくる生徒たちで忙しくなり始める。それにもういい時間なので寮に帰ることにした。

「先生。ネックレスありがとうございます。大切にしますね」

「私も一緒に帰ります。……あぁ、今日はすっごく疲れた」

 二人で先生の部屋から退出し、図書館を出た。いつもなら自分はまだ図書館に残る未来でも今日はすごくお疲れで。

 ……あの先生の迫力の前では未来も形無しだ。

「今日ばかりはアリスに助けられたな……、ありがとう」

「いやいや、いつも未来に助けられているんだもの。あれくらいフォローできないと!」

 ネックレスをプレゼントされたことのインパクトが強くて忘れていたが、思えば自分が行った時は軽く修羅場になっていた。もしあの場所で自分の能力を先生に明かしていたらどうなっていたんだろう……、考えたくもない。

 

 夕暮れ時の帰り道を二人でのんびりと歩く。未来に褒められたせいか自分の予想が的中したせいか今の気分はとてもよい。この世界に来てから初めて感じる充足感、今なら何だってできそうな感覚さえある。そう、漂流者の問題だって今の自分なら……。しかし残念ながら自分の気持ちだけの話であって簡単に解決できる問題ではないことは承知だ。

「それにしても隕石だとよくわかったな? 天文学を学習していたのか?」

 未来の方から自分に質問してくるのは珍しい気がした。いつもは自分が未来に訪ねてばかりいるし。それに未来は漂流者になった有栖川咲に興味があるのであって城ヶ崎明には全く関心がないと思っていたから。

「んー、そうだね。別に大学は理系の学部に通っていたわけでもないけれど。星に多少のロマンを感じるからかな?」

 懐かしい記憶となった城ヶ崎明のころの思い出。星にロマンを感じるのは幼い頃に一度だけ天体観測をしたからだと思う。あの天体観測の時は確か両親とそれから……、


 ——そうだ、アイツもいたんだ。


 木漏れ日のような僅かな記憶を思い出した。あれは城ヶ崎明だった頃の幼い記憶。アイツと一緒に星空を見に行ったこともあったけ。

「ん? どうした?」

 いつの間にか進めていた足を止め思い出を振り返ることに気をとられてしまっていた。急に黙って立ち止まったから未来が心配してしまった。問題ないと言いたいところだが、とても大切で懐かしい記憶を思い出そうとしていた。


『ボルファウス彗星』


 あの単語はこの世界で初めて聞いた単語ではない。この世界に来る前から……、いやもっと前に耳にした単語だ。


「……思い出した」

「思い出した……?」


 そう……、そうだ! 完全に思い出した!

 一度深呼吸をして気分を落ち着かせる。すーはースーハー……、うん大丈夫。

「俺が漂流者になった理由がわかった、かもしれない」

 唐突に過去の記憶と現状が点と点で結びついた。当然未来は驚くも一番驚愕しているのは何よりも自分自身。

 他愛もない記憶だと思っていたら、それがこの事態を招いた原因だったなんて。

 わけもわからず迷い込んだ魔法の世界、自分が全く知らない人物に移り変わっていたこと。あの時の出来事を未来に説明を、そして自分で改めて振り返るようにゆっくりと語り始めた。

 

 

 


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