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ある日魔法は唐突に  作者: 亜入
第一章
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第十八話 心霊現象 前編

「あぁ、今日も今日とて疲れたな……」


 すっかり自分が安らぐスポットとなった自室。誰にも邪魔されず、そして自分の身に起こる問題の数々を忘れることができる憩いの空間だ。

 未来と魔法の実習を見学して、二人で約束をした後のことは特段面白いことはなかった。

 あの後もいくつか魔法を見せてもらった。魔法で草木を刈っていたり、宙に舞う葉を静止させたり。

 どれもこれも期待以上のものだった。きっと今までの漂流者たちも魔法に混乱はすれど、感嘆したに違いない。

 ……でも、あの金髪の子以上の魔法はなかった。

 あれから彼女について未来に尋ねてみた。

 暁早苗、それがあの子の名前。

 暁早苗は自分と違うクラス、学園のエリートクラスに入っているとか。なので咲は彼女のことを知らず、あの本には記述がなかったと思われる。

 彼女の魔法は空間爆破、彼女の視界に入る場所は何処でも爆破できるらしい。

 至ってシンプルかつ強力な魔法。それゆえに魔法使いが集まる学園内でも自由に魔法を使うことができない。許可なく魔法を使うことは禁じられ、使ってしまったら重い罰があるとかないとか。

 その証拠に彼女が魔法を使う前に述べていたセリフ……、かっこよく言えば呪文の詠唱は彼女が魔法を使う合図。

 協力で周りに被害が出る可能性がある場合、同じように声高らかに自分が考えた呪文を唱えるのが一般常識らしい。決して厨二病とかではない。

 



 気がつけば夕食の時間三十分前。お腹も空き今日のメニューは何だろうと呑気に考えていると、コンコンと自室の扉にノックが。

「はいはーい、いますよー」

 ガチャリと扉を開ければ昨日と似た光景、翡翠ちゃんが部屋の前にいた。

「アリスちゃん! ちょっと時間あるかな? 話があるんだけど」

 わざわざここまで訪ねてきたなら、直接会って話さなきゃいけない大切な用事。

 部屋に翡翠ちゃんを招き入れ話を聞くことにする。

「それで話って?」

 回りくどい詮索は抜きにして用件を聞く。まさかこちらの正体について知るわけもないだろう……と思う。

 ちょっとだけ心臓がバクバクするも、落ち着いて対応しようと心がける。


「アリスちゃんって明日の放課後って予定空いてる? もしよかったら一緒に学園の外に出かけない?」

 こ、ここここれってまさか……、デートのお誘い!?

 いや、バカか? おバカなのか? 落ち着け、落ち着くんだ明。

 今の自分は有栖川咲。外見は正真正銘の女の子。下手な想像をするんじゃない。落ち着いて深呼吸。冷静になろうとする。

「え、えっと……、何処行く予定なの?」

 とりあえず一つ間を置く。何処に行くのかは結構重要。返事を出すのは話を聞いてからでも遅くはない。


「アリスちゃんはこの動画見た事ある?」

 そう言うと彼女はポケットからスマホを取り出して、とある動画を見せてくれた。

 それは元の世界と似たような動画投稿サイトにある一つの動画。

 

『心霊現象』


 動画のタイトルはあまりにも没個性的で数多ある動画の中に埋もれていそうなもの。

 翡翠ちゃんと一緒に小さいスマホで動画の視聴を始めた。




 大学生と思われる男女五人グループが心霊スポットに行ってワイワイ騒ぐ定番のパターンから動画は始まった。

 心霊スポットといえば墓場やトンネルをイメージする人が多いと思う。

 今回の場所は廃ビル。

 当然のように目的の廃ビル以外の風景はモザイクで加工されていて、場所の特定は困難だ。

 動画の導入部分では五人がビルの前で軽快なトークをし、中に入ると思われる男性二人が意気込みを語っていた。

 心霊スポットということもあってテンションがすごく高い五人組。

 残りの三人は外で待機し、中継されている映像と二人のリアクションを見て楽しむスタイル。

 選ばれた二人はグループでも一、二を争うくらいビビりとテロップも流れる。

 三人がした準備はそれだけ。実はあの廃ビルにホラー要素は全くなく、心霊スポットだと言い聞かせたドッキリというやつ。

 一見企画倒れに思われたこの企画、その予想に反して彼らは瓦礫が崩れた音や窓ガラスの音で良いリアクションをしてくれる。その様子を見て笑い転げる三人という構図。テレビのバラエティ番組でもよく見かけるし、見ていて退屈にはならなかった。

 動画はカットを多用してテンポよく進み、ビルの一階と二階を順調に探索していく。

 動画の残り時間が半分になると、ビルの三階の大きな部屋を残すだけになった。

 動画を〆る最後のクライマックス。そんなシーンから動画の流れが少しずつ変わり始める。


 大きな部屋に突入しようと二人は扉に手をかけると、


「きゃあぁああああぁぁあああ」


 という悲鳴のような爆音が周りに響き渡る。

 それを直接聞いてしまった二人は同じような悲鳴をあげてビックリする。ビビっている二人とは対照的に大笑いする外の三人。

 大爆笑の中、メンバーの一人が奇妙なことに気づく。

 廃ビルの窓ガラスは割れている箇所もあり、度々驚く二人の声は外にも漏れていた。

 おかしい。

 それならこの謎の声も廃ビルから聞こえるはずなのに、全く外には聞こえなかったのだ。

「うーん、多分マイクが原因じゃない? きっと小さな音をマイクが拾っちゃったんだよ。あの二人は小さな音に驚いただけだって」

 残りのメンバーがそう説明する。その可能性も無きにしも非ず、特に対応することをしなかった。

 三階を探索中の二人は悲鳴に屈することもなく、負けじと大部屋の探索を試みる。

 しかし、扉に手をかけると再び聞こえる悲鳴。身体は反射的にビクッと反応していたが、二度目はオーバーリアクションすることもなく扉を開けた。


 ようやく扉が開くとそこは会議室だった。

 長い間放置されボロボロの長机と無造作に置かれた椅子。そして部屋の奥にはお偉いさんが座っていそうな立派な木造のデスクがある。

 この廃ビルが元は何のビルだったのかわからない、でもきっとこの場所で大切な会議が開かれていたかもしれない。

 二人は早くこの企画を終わらせようと必死になって探索をする。

 長机やら椅子やら窓ガラス、壁にかかっていた絵も隈なく探すも何の発見もない。

 二人は何かを懸命に探している。

「これ絶対あいつらのドッキリだろ! 証拠見つけてあいつらに見せつけよう!」

 あの悲鳴は三人が仕掛けたドッキリ、だからどこかにスピーカーがあると思っているのだろう。

 ヤッケになって探すもやっぱり何も見つからない。

 それもそのはずだ。だって仕掛けも何もないのだから。

 動画ではダイジェストとなって僅か数十秒のことになっているが、彼らの様子から察するにそれなりの時間が経っていると予想がつく。

 探せ度探せど瓦礫しか見つからない。彼らもようやく諦め撤収準備をする。

 さぁ、下で待つ三人と合流だ、その時だ。


「きゃあぁああああぁぁあああ」


 三度目の悲鳴が前触れもなく突然聞こえる。

 飛び上がるようにビックリし、その場から一目散に逃げ、あっという間にビルから脱出した。

 その慌てぶりに三人は爆笑。この時は明るい笑顔で迎え入れていた。


 呼吸が落ち着き、息も絶え絶えだった二人が回復して感想のコーナーに入る。

 第一声は怖かった、死ぬかと思ったとコメントする。これは予想の範疇、予想通りすぎてクスクスと笑う待機組。

 廃ビル探索の二人は三人が仕掛けたドッキリだと思っている。もちろん三階で聞こえた二回の悲鳴も含めて。

 でも実際のところ三人は外でずっと待機しているだけで何もドッキリを仕掛けていない。


 動画も終盤に入りいよいよネタ明かし! 実は何にもドッキリは仕掛けていませんでした! ……と答え合わせをするも納得しない二人組。

 諦めが悪いと思っている三人組は「じゃあ私たちも入ってみる」と言って廃ビルに侵入する。一階、二階を探索。

 同じ様な流れで三階に入り、あの部屋の扉に手を掛けると同じ様な悲鳴が聞こえ、慌ててビルから脱出する。

 ここで動画は終わっている。




 動画時間は驚異の三十分! 

 このグループが日常的に投稿している動画の中で最も長い、そして視聴回数も圧倒的だった。

 ネット上ではこれが本物か偽物かで日夜討論されていると翡翠ちゃんは興奮気味に語る。

「面白かったよ。でもこの動画と明日の外出と関係が?」

「実はね……、この場所学園の近くにあるんだって! 明日行ってみない?」

「えぇ!?」

 思わずビックリする。あの動画はモザイク加工もあったし容易に特定できるものではないと思っていたから。

「他にもクラスの子も何人か一緒なんだ。アリスちゃんはどうする?」

「じ、自分は……」

 もしこれが咲本人だったらどう答えるだろう。

 城ケ崎明なら答えは即決でイエスと答える。好奇心は人を動かすのに十分な動機だから。

 でも、この時翡翠ちゃんにした答えは明の意志とは正反対のものだった。


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