第九話 変態の称号は唐突に
この世界で一番困ったことは元の世界に戻れないこと……ではなく下手したら犯罪になる可能性がある極めて深刻な今の状況ではないでしょうか。
まずい、非常にまずい状況。
百歩譲って女性と一緒に風呂に入る。この場合は別におかしいことでない。だって家族ならごく自然のことだから。
血のつながりがなくたってギリギリ許容される範囲でもある。恋人だってありえるし夫婦だってもちろん。
一番の問題は一緒に入るのが全くの赤の他人でしかも自分よりも年下で、おまけに未成年であることではなかろうか?
……どうする? どうしたらいいんだ?
時は無情にも刻一刻と過ぎていく。今から適当に言い訳をして部屋に戻るのも手だろう。だがしかし怪しまれるような動きはしたくはない気持ちもある。
如何に長考したところとて状況は何も変わらない。自分で行動しなければ良くも悪くも状況を動かせないのだと今更痛感した。
「アリスちゃん……、やっぱり顔色悪い、悪いよ! 無理やり連れだしてごめんね、部屋に戻ろう!」
「そ、そんなに!? でもそれなら部屋に戻ろうかな」
思わぬ流れに事態は転がった。これは好都合! 翡翠ちゃんのお言葉に甘えて部屋に戻ることにした。
――にしても心配されるほど顔色が悪くなるとは。よほど心の中でロリコンの称号を与えられることを拒絶していたのであろうか。
部屋に改めて戻りベットの上で悩みこむ。
そうか、そうだよな。今の今までずっと一つの観点でしか考えていなかったのだ。元の世界に戻れるまでこの世界とこの学園に馴染むことができるのか、疎かにしすぎていた。
これは第一優先事項に考えること。異世界に来てしまったことだけではなく自分は別人になっているのだ。しかも異性に。
有栖川咲として生活をしなければならない重圧を今更感じる。
それに……、城ケ崎明が有栖川咲になったのなら本物の有栖川咲は何処に行ったというのだ。
急激に考えることが怖くなってしまった。
『城ケ崎明が有栖川咲の身体を奪い取ってしまったから』
明日の検査で何がわかるというのだろう。検査といったところで知れることはたかが知れてるはずだ。
自分のことはどうだっていい。でも有栖川咲がどうなったのか気がかりになってしまった。
……こうしちゃいられない。時間はまだ六時を回ったところ。じっと考えるのはもう疲れた。
自分が頼れる場所はあそこしかない。未来と直接連絡を取って話を聞けるのならそれに越したことはないが。
急いでベットから飛び起きてあの場所に、つい一時間ほど前いた保健室へと戻った。
話の流れ的に短めです。