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ユータ先輩

 ん?3人?何で?


 不意に疑問に思ったので、縁に聞いてみた。


「縁、何で一緒に付いてくるの?」


 縁は、少し上目遣いに、微笑みながら、


「何でって、私、軽音部の部員だよ。」


「ちょっと待って、俺達、ここ何日かは練習場所変えて屋上に顔出して無いけど、その前は皆勤賞だったが、縁の顔見た事ないぞ。」


「だって、私が入部したの先週だもん。

 最初は文芸部に入ったんだけどね、部員数が足らなくて、漫研と合併して、何か私がオタサーの姫みたいにされそうで、ユータ先輩に相談したら『じゃあ、辞めちゃえば?』って簡単に結論出しちゃったの、でも、やっぱり放送部以外に何かしたかったから、ユータ先輩に相談したら『じゃあ軽音部に入れば?』って言うから、軽い気持ちで軽音部に入ったの。」


「成る程、俺達が見た事無いわけだ(笑)

 それにしても、縁ってそんな軽い性格だったか?

 オデコ全開の中学の頃は、もっと大人しくて、あまりアクティブじゃなかった様な………」


 と言いながら、縁の方を見ると、少し雰囲気が怪しい。


「いくら、大好きな紫君でも、私のオデコの話しをするなら、蹴り入れるわよ(笑)」


 何か縁の笑顔が怖い!そう言えば、中学の頃、縁は、地味な見た目に反して、かなり身体能力が高かった、女子の中では断トツで、男子の上位と比べても遜色の無い数値だったので、聞いて見ると空手の有段者だった。

 ガキの頃から、名前のせいで、よくからかわれていた俺は、頻繁に喧嘩をしていたので、荒事には、そこそこの自信が有ったけど、縁とだけは喧嘩したくないと思っていた中2の頃を思い出した。


 現在は、三つ編みをほどき、セミロングのボブヘアにしてキュートな御嬢様風の見た目にすっかり忘れていたが、怒らせてはいけない人だった。


 しかし髪型1つでこうも雰囲気が変わるものなのかと思う、確かにあの頃も、顔立ちは良かったけど、男子にモテるかと言えば、そうではなかった。

 しかし今は、難攻不落の天使と言われる程に、男子から、告白されている。

 でも、縁がオデコ丸出しの中学の頃の髪型を、忘れてしまいたい程の嫌な思い出として記憶しているとは思わなかった。

 あの頃を知っている俺としては、オデコ丸出しの縁も、オデコを隠して魅力的な女の子に変貌を遂げた今の縁も、同じ縁と認識している。

 ならば、縁のコンプレックスを解消してやりたくなった。


「縁、お前は、気にしていたのかも知れないが、俺は、お前のオデコも含めて、交際を前向きに考えているんだ、お前がそのパーツをきらいでも、俺は、そのパーツを好きでいるから、蹴りを入れるなんて言わないで欲しい。」


 そう言って右手で、縁の前髪をかき上げて、オデコにキスした。

 縁は、大きく目を見開いて、俺の胸に身体を預けながら、


「もう、格好いいんだから♡」


 と顔を真っ赤にしていた、隣でその様子を見ていた泰士は、


「頼むから、俺の前でいちゃ着かないでくれ、俺は、モテたくて楽器を始めたのに全然モテないんだから、縁ちゃん誰か紹介してぇ~!」


 泰士の魂の叫びに、


「泰士、お前って結構モテそうだけどなぁ、今、紹介して貰わなくても、文化祭で、格好いいところ見せれば、何人か寄って来ると思うぞ。」


「縁、本当に本当か?」


「ああ、だってお前、見た目も悪くないし、俺より背も高いし、性格も悪く無いじゃん!」


「でも、いざ女の子と喋ったり、2人っきりになると、緊張して駄目なんだよ。」


「じゃあ明日から暫く、屋上で練習しなから、女子部員と喋ったりして馴らしていけばよくないか?」


「そうか、身近な所で馴れてしまえば、克服出来るかもな!」


「縁も、そう思うだろ。」


 と縁を見ると、俺の左腕を抱き締めて、まだ真っ赤になっていた。


 屋上に到着しても、俺の左腕を離さないので、部員達に見られて、変な噂に成らないか心配していると、縁は、ポケットからスマホを取り出し、ユータ先輩に電話を掛けて、


「ユータ先輩、紫君と泰士君を屋上に連行しました!」


 と言って俺の顔を見て、ニッコリと笑い、さも嫌がる俺達を連れて来た風を装った。

 こいつ、中々の策士かも、と思っていると、屋上のスピーカーから、ユータ先輩の声が流れ始めた。


「詳しい話しは、僕がそっちに行ってからするけど、先ずは昼の放送で流れた曲を、もう一度かけるので、聞いて欲しい。

 1曲目が終る頃には屋上に行けると思うから、話しは、それからね、ではミュージックスタート!」


 そして、今日2回目になる俺の作った曲が流れ始める。

 ワンコーラス目が終わりギターソロが始まった頃にユータ先輩が息を切らせながら、屋上に到着した。

 ユータ先輩ドンだけ足速いんですか?


 1曲目が終ると、一旦放送が止まり、


「えー、昼の放送でも流したので、みんな聞いたと思うんだけど、この曲は、深町のが作曲した曲なんですが、まだまだ歌詞がありません。

 今回、部内コンペとして、希望する参加者に作詞を担当して貰おうと思ってます。

 希望する人には、2~3日内に全ての曲の入った音源を渡すので、申し出て下さい。

 なお、参加者には、音源をプレゼントして、優秀な人には、深町君の私物を何か賞品としてプレゼントするので、奮って参加して欲しいです。

 完成度の高いモノは、秋の文化祭で、深町君が演奏してその歌詞を歌う事になるし、もしも深町君がプロデビューして、その曲が、アルバムに収録されたら、印税が入る可能性もありますからね。」


「いや、先輩、プロデビューって………」


「謙遜しなくても、君達の演奏水準は、プロのレベルにあると思うよ、あくまでも、演奏のレベルだけどね、だから、いい曲と歌さえ揃えば、僕は、君達ならメジャーデビューしてもおかしくないと思ってるんだ。」


 ユータ先輩の言葉を聞いた部員達が、口々に、


「確かに、深町達って3年の先輩より上手いよな!」


「今の内にサイン貰っとこう!」


「もしかしたら、印税貰えるかも!」


 なんて言葉が耳を過る、(うち)の親父も上を目指すなら協力するって言ってたし、ギターが弾けて、それで良かった頃と、今は状況が違う、泰士に出会って、政宗と出会い、ライブハウスで奏りたいって話しになった。

 でも、ライブハウスで満足するのか?その先を目指さなくていいのか?


 否!


 昔、親父達が目指した高みを、俺も目指してもいい筈だ、漠然とした想いが、今、確かな目標になった。


「泰士、プロに成りたいか?」


「当たり前、楽器弾いてるからには、ダメ元でも、憧れる世界だよな!」


「じゃあ目指すんじゃない、なろうぜプロに!」


 と言って周りを見回すと、ユータ先輩は、コンペの参加者の受付をしている手を止めて、


「折角だから、また何か弾いてくれないか?」


 と言ってきたが、生憎、ギター持って来てないので、断ろうとしたら、


「僕のギターとベースで良かったら使っていいよ。」


 とギターケースを持って来た。

 御言葉に甘えて、ギターケースを開くと、何とヘイマーのギター、しかも古いG·ティプトンモデル!

 チョット血が騒ぎました。

 続いてベースを持って来たけど、ESPのレス・ポールベース!あんた、何て凄い楽器持ってるの!


 高価過ぎて、手が震えそうだった。

 泰士にジューダース·プリースト弾けるか聞くと何曲か弾けると言うので、ペイン·キラーを選んだ、G·ティプトンモデル握ったら、これしか無いでしょとばかりに、気が付くと、ユータ先輩、誰かのギターを奪い取って一緒に弾いてた(笑)


「俺も、この曲大好き!(笑)」


「ギター見りゃ分かります(笑)」


 しかもユータ先輩、無茶苦茶上手い!


「ユータ先輩、何で、誰とも組んで無いんですか?」


「ヘビメタ奏るやつが居ないんだよ(笑)」


「じゃあ、俺達と組みますか?」


「願ってもない事だね(笑)」


 ユータ先輩が入れば、更に音の厚みが増して、スリーピースじゃ、出来なかった事が出来る。

 俺は、喜んでユータ先輩をメンバーに加える事にした。

 ペイン·キラーのアルバムの中から、3曲程奏って、最後にもう一度ユータ先輩が奏りたいというので、ペイン·キラーをもう一回奏った。

 ユータ先輩、俺の立ち位置(フレーズ)を理解したのか、1回目よりも凄みを増した演奏をしていた。

 こんな凄い人が、誰とも組まずに居たなんてと、俺のテンションが爆上がりしたので、ソロは、MAXで攻めた。

 演奏が終わって、


「深町、お前凄過ぎ!まさかあんな攻撃的にソロを決めるなんて思わなかったよ。」


「何言うんですか、ユータ先輩こそ、無茶苦茶上手いじゃないですか!」


 泰士もユータ先輩の参加に対して、諸手を上げて喜んだ、政宗にも連絡しないといけない、帰って電話する事にした。

 明日から、ギター持って来るから、と泰士と屋上を後にしたが、ユータ先輩の連絡先を聞いて無いので、1人で引き返し、電話番号を交換して、土日は政宗の家で練習しているので、ユータ先輩に参加出来るか聞くと、是非参加させて欲しいとの事で、一緒に行く事にした。


 もう一度、屋上から出ようとすると、


「ユータ先輩!私も紫君と一緒に帰ります。」


 と縁が腕を組んできた、軽音の連中には、これで完全にバレたと確信して、縁を見ると、


「私なら、紫君との仲、バレても構わないよ。」


 と可愛く言ってくるので、俺も覚悟を決めて、


「それなら、誰かにコクられたら、俺と付き合ってるって言っても良いぞ。」


 嬉しいと抱き付いてきた、縁の柔らかな膨らみに理性が飛びそうになりながら、「帰るか?」と言って2人で手を繋いで帰る事にした。

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