クモと流れ星
その森には、とても背の高い杉の木が二本、つっ立っていました。二本の杉のあいだに、今日もせっせとチビはあみをかけていました。
チビは、森で一番小さなクモでした。それなのに、高いところにばかり巣を作っていたのです。
チビの巣は、夕方になると、燃えるような夕日にてらされて、まるで赤く染めた絹糸のようでした。雨がふると、二本の杉に雨粒のネックレスを、たくさん下げたように見えるのです。
それほどまでに見事な巣でしたのに、チビの巣にはトンボも、セミも、チョウチョですらかかりません。なかまのクモたちは、そんなチビをからかうようにはやしたてます。
「やあ、見てごらんよ、またチビが、宝石店でお客を待ってるぞ」
宝石店とは、もちろんあの巣のことです。
チビは、そんないじわるにはまったく耳をかさずに、せっせと巣を広げていきます。もちろん高い木の、てっぺんにばかりです。
「チビ、おまえはどうしてそんなに、高いところにばかり巣を作るんだい? それじゃあ目立つばかりで、なんにもつかまえられないじゃないか。そんなにやせほそって、お母さんも心配してたぞ」
チビのお兄さんがいいました。
「ぼくのことは気にしないで。それに、早くしないと、もうすぐなんだ」
「もうすぐ? なんのことだい?」
チビは、目をかがやかせながら、こたえました。
「お空の星たちが、落ちてくるんだよ」
「まさか。そんなこと、あるはずないだろう」
「ほんとだよ。ずっと昔にそういうことがあったんだ。オオグモさまがそういっていたよ」
「えっ、オオグモさま?」
二本の杉が、まだ小さな赤ちゃん杉だったころから、オオグモさまはこの森にすんでいました。そのものしりなことといったら、ほかのクモたちはだれもかないませんでした。
オオグモさまは、かつて、チビに話してくれたことがありました。何年かにいちど、空中の星たちが落ちてくる夜があるというのです。その夜は、ひっきりなしに星が落ちて、まばたきするひまもないほど美しかったそうです。
それを聞いてから、チビはずっと、その星たちをつかまえたいと思っていたのです。
「そんなきれいなお星さまを、ひとかけらでもつかまえられたら、どんなにすてきなことだろう」
雨がふっても、風が強くても、チビはせっせと巣を広げました。ある日、ついにその夜がやってきたのです。
風のない静かな夜でした。
スーッ、スーッと、すんだ音が聞こえてきました。チビが目をさますと、空の星たちがつぎつぎと落ちてきていたのです。
赤い星も、青白い星も、空いっぱいに、ちかちかとまたたいています。そのまたたきがやむと、ひゅっと夜空に金色の尾をひくのです。
「うわあ、本当に星がふってきてる!」
オオグモさまがいったとおりでした。空をひっくりかえしたかのように、星がどんどん落ちてくるのです。
「あっ、あっちに落ちたぞ、今度はあそこにも。こうしちゃいられない」
チビは糸の上を、すべるように進んでいきました。星が落ちたところをくまなく見てまわったのです。
星はどこにもかかっていません。それどころか、チビの巣には、たくさんの星のかたちをしたあなが開いていたのです。
「そんなぁ、ぼくの巣じゃ、星をつかまえることはできないのかな」
けれどもチビは、あきらめませんでした。チビはあちらこちらに、八本のあしを動かして、星をおいかけつづけました。でも星はつかまりません。
「あっ!」
チビはうっかり、星の形のあなに、落ちてしまい、ひゅうっ、ぱさりと、夜の草むらに着地しました。
「ああ、ぼくにはやっぱり、むりだったんだ」
チビはがっかりして、上を見あげました。
二本の杉が、山のように高く見えます。ところどころ、きらっきらっと水てきが光って見えました。
「あれは……ぼくの巣だ。ああ、なんてキラキラしているんだろう」
チビは自分のつくった巣が、お星さまのようにきれいなものだと、はじめて気がついたのです。
チビの心は、ほこらしい気持ちでいっぱいでした。
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