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クモと流れ星

作者: 小畠愛子
掲載日:2021/05/02

 その森には、とても背の高い杉の木が二本、つっ立っていました。二本の杉のあいだに、今日もせっせとチビはあみをかけていました。


 チビは、森で一番小さなクモでした。それなのに、高いところにばかり巣を作っていたのです。


 チビの巣は、夕方になると、燃えるような夕日にてらされて、まるで赤く染めた絹糸のようでした。雨がふると、二本の杉に雨粒のネックレスを、たくさん下げたように見えるのです。


 それほどまでに見事な巣でしたのに、チビの巣にはトンボも、セミも、チョウチョですらかかりません。なかまのクモたちは、そんなチビをからかうようにはやしたてます。


「やあ、見てごらんよ、またチビが、宝石店でお客を待ってるぞ」


 宝石店とは、もちろんあの巣のことです。


 チビは、そんないじわるにはまったく耳をかさずに、せっせと巣を広げていきます。もちろん高い木の、てっぺんにばかりです。


「チビ、おまえはどうしてそんなに、高いところにばかり巣を作るんだい? それじゃあ目立つばかりで、なんにもつかまえられないじゃないか。そんなにやせほそって、お母さんも心配してたぞ」


 チビのお兄さんがいいました。


「ぼくのことは気にしないで。それに、早くしないと、もうすぐなんだ」

「もうすぐ? なんのことだい?」


 チビは、目をかがやかせながら、こたえました。


「お空の星たちが、落ちてくるんだよ」

「まさか。そんなこと、あるはずないだろう」

「ほんとだよ。ずっと昔にそういうことがあったんだ。オオグモさまがそういっていたよ」

「えっ、オオグモさま?」


 二本の杉が、まだ小さな赤ちゃん杉だったころから、オオグモさまはこの森にすんでいました。そのものしりなことといったら、ほかのクモたちはだれもかないませんでした。


 オオグモさまは、かつて、チビに話してくれたことがありました。何年かにいちど、空中の星たちが落ちてくる夜があるというのです。その夜は、ひっきりなしに星が落ちて、まばたきするひまもないほど美しかったそうです。


 それを聞いてから、チビはずっと、その星たちをつかまえたいと思っていたのです。


「そんなきれいなお星さまを、ひとかけらでもつかまえられたら、どんなにすてきなことだろう」


 雨がふっても、風が強くても、チビはせっせと巣を広げました。ある日、ついにその夜がやってきたのです。


 風のない静かな夜でした。


 スーッ、スーッと、すんだ音が聞こえてきました。チビが目をさますと、空の星たちがつぎつぎと落ちてきていたのです。


 赤い星も、青白い星も、空いっぱいに、ちかちかとまたたいています。そのまたたきがやむと、ひゅっと夜空に金色の尾をひくのです。


「うわあ、本当に星がふってきてる!」


 オオグモさまがいったとおりでした。空をひっくりかえしたかのように、星がどんどん落ちてくるのです。


「あっ、あっちに落ちたぞ、今度はあそこにも。こうしちゃいられない」


 チビは糸の上を、すべるように進んでいきました。星が落ちたところをくまなく見てまわったのです。

星はどこにもかかっていません。それどころか、チビの巣には、たくさんの星のかたちをしたあなが開いていたのです。


「そんなぁ、ぼくの巣じゃ、星をつかまえることはできないのかな」


 けれどもチビは、あきらめませんでした。チビはあちらこちらに、八本のあしを動かして、星をおいかけつづけました。でも星はつかまりません。


「あっ!」


 チビはうっかり、星の形のあなに、落ちてしまい、ひゅうっ、ぱさりと、夜の草むらに着地しました。


「ああ、ぼくにはやっぱり、むりだったんだ」


 チビはがっかりして、上を見あげました。


 二本の杉が、山のように高く見えます。ところどころ、きらっきらっと水てきが光って見えました。


「あれは……ぼくの巣だ。ああ、なんてキラキラしているんだろう」


 チビは自分のつくった巣が、お星さまのようにきれいなものだと、はじめて気がついたのです。


 チビの心は、ほこらしい気持ちでいっぱいでした。

お読みくださいましてありがとうございます(^^♪

ご意見、ご感想などお待ちしておりますm(__)m

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― 新着の感想 ―
[良い点] 自分の作ったものに感心できるって、素敵な事です。 チビの心も、星のように輝いています。
[一言] 星は捕まえられなかったけど、立派な星を作り上げていたんだね! 例えそれが無謀な事でも、いつか必ずそれは報われる……それも、思いもよらない素晴らしい形で……うんうん、良い話やったあ……。・゜・…
[良い点] とっても素敵なお話でした(*´▽`*)途中どうなるんだろうとハラハラしましたが、自分の巣の美しさに気づいてハッピーエンドになったところがとても良かったです。こういうほっこりとしたお話大好き…
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