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エレメント ウィザード  作者: あさぎ
第2章
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033 小さな鼓動

第2章始めます。

  「こ、怖いよ、怖いよ芹禾ちゃん・・・。もう降りられないよ・・・。グス、グス、えぇ~~ん──」

 「ユイ君、大丈夫だよ、そんなに高くないから。エイッってジャンプするだけ!」

 「やだぁ~!やっぱり怖いよ~えぇ~ん、えぇ~~ん・・・」

 「頑張れユイ君!私が受け止めてあげるから!!ね!私を信じて!」

 「グス・・・、本当に受け止めてくれる?」

 「うん!だから安心して飛び降りておいで!ほら!」


 芹禾は両手を広げニッコリと笑った。

 赤と白のストライプのワンピースに麦わら帽子をかぶり、長い髪をツインテールにして、膝には数日前にケガをした時に使った絆創膏が貼られていた。

 クスノキの枝で動けなくなっていたのはメガネをかけた黒髪の男の子だった。白いTシャツに青いショートパンツ。首には虫眼鏡をぶら下げている。


 数十メートルに伸びる大きなクスノキに登りたいと言ったのは芹禾だった。高い所から見下ろす景色が見たかったのだ。

 幹回りが3メートル以上あり樹皮が茶褐色をしているクスノキを子猿のようにスイスイと登っていった芹禾は、その様子を下から眺めていた少年を上から呼んだ。

 木登りに消極的だった少年は、数分間の押し問答の後、ぎこちなくゆっくりと芹禾の手を借りながらクスノキを登ったのだった。

 安定した太い幹に到達した2人はそこからの景色に声を上げた。田舎の山の中なので、見渡すは田んぼや畑ばかりだったが遠くには海が見える。

 海面に太陽が反射しキラキラと輝いていた。


 「スゴイね、芹禾ちゃん!!」

 「うんうん、キレイだね、ユイ君!!」


 2人のおでこや脇にかいた汗を爽やかな風が乾かしていく。

 2人はしばらくその景色に見入っていた。

 そして、汗も引き景色に満足した芹禾は危なげなく木から降りてゆく。着地した芹禾は服の汚れをパンパンと叩いた。

 それに倣って少年も恐る恐る降りようとしたが、思いのほか高く登った木に足が竦んでしまったのだ。

 地上から3,4メートルぐらいだろう。そこまで降りてきた少年の手足は疲労で力が入らなくなっていた。


 「うん!だから安心して飛び降りておいで!ほら!」


 手を広げ笑う芹禾に不安な眼差しはない。芹禾が大丈夫といえば本当に大丈夫と思えてしまうのはなぜだろう。

 少年は意を決し、芹禾をめがけてジャンプした。

 恐怖ゆえに自然と目を瞑り衝撃に備える。柔らかい感触が触れたと同時に芹禾とぶつかったはずみで2人はそのまま転げ倒れてしまった。

 それでも芹禾の腕は、しっかりと少年の体を掴んでいた。

 少年がゆっくり目を開けると芹禾の笑い声が聞こえてきた。


 「あはははは。ね、大丈夫って言ったでしょ!」

 「いったたた・・・。あぁ、怖かった。芹禾ちゃん、ありがとう。」


 ゆっくりと体を起こし、自分を抱きしめて支えてくれた女の子の顔をのぞく。芹禾が満足そうに笑っている。

 その笑顔にドクっと心臓が鳴った。まぶしい笑顔に吸い寄せられるように、芹禾の顔に触れようとした時だった。


 「せり、かちゃ・・・」

 「あぁぁぁ!!!ユイ君、ケガしてる!!」


 急な大声にビクンと体が揺れる。

 芹禾は少年の腕に擦り傷を見つけたのだ。傷からはじんわりと血が滲んでいる。


 「大丈夫だよ、これぐらい・・・。」


 今までは痛くなかったのに、傷を見た途端に痛みが疼きだしてくる。


 「ダメよ!ばい菌が入ったら大変よ。私に任せて!」


 そう言うと芹禾は大きく深呼吸をした。


 「ALL Element 水精霊うんでぃーね


 少年の傷に手のひらをかざし、たどたどしく詠唱を口にする。


 「癒潤ひーりんぐ!」


 手のひらから滴が落ちるとその滴は少年の傷ついた腕を濡らし、ゆっくりとケガを治癒させていった。


 「ふぅ、これでもう大丈夫ね!」

 「すごいや芹禾ちゃん!!もう回復魔法を使えるようになったの!?」


 少年の尊敬の眼差しに芹禾は鼻を高くする。


 「ふふ~ん!パパの書庫にあった本を読んで勉強したの。物は試しにと思ったら使えちゃった!」

 「すごーい!!本当に芹禾ちゃんは天才だね!」


 少年の言った事は決して大げさなことではない。

 芹禾の年齢では、初めてエレメントの発現を経験し自分の属性を知る時期と言える。 エレメント発現には個人差もあるので、まだ属性を知らないという子も珍しくなかった。

 そんな中、すでに精霊を使役し魔法が使えている芹禾は周りから神童とも呼ばれていた。本人もまんざらでもないのだろう。


 「僕なんて自分の属性すらまだ分からないし、木の上から飛び降りられない。力だって弱いし・・・。」


 いじけた様子の少年の頭に、ポンと手を置いた芹禾は笑った。


 「ユイ君だってこれからすぐに魔法が使えるようになるよ!それに、ユイ君は私が守ってあげるから!」


 ねっ!と言って笑う少女の顔に、また心臓がうるさく鳴りはじめる。

 きっと自分の顔は赤いだろう。だってこんなにも顔が熱いのだから。


 「・・・うん。でもね!」


 頭に置かれた手を取り、握りしめた少年は芹禾の目をじっと見た。


 「いつか僕が芹禾ちゃんを守るから!絶対僕の方が強くなってみせるから!!」


 少年の真っすぐな決意に芹禾は目尻を下げて頷いた。


 「うん!でも、まずは私より木登りが早くなったらね!あと降りられるようにならないとね。」

 「う、うん、がんばるよ・・・。」

 「あとね~私より、水に潜る時間が長くならないとね。」

 「う、うん・・・。」

 「それに、私より多く虫を見つけられるようにならないといけないし、あと、食事も私より早く食べ終わらないと。」

 「・・・。」

 「あとね~」


 西の空に茜色が潤んでいる。熱を帯びていた空気にほんの少しだけ柔らかな微風が混じりはじめていた。

 細い小道には手を繋いだ2つの影が長く頼りなく伸びていた。


 


 見慣れない天井に消毒液の匂い。固く軋むベッドとそっけないシーツに体が馴染むことはなかった。


 (久しぶりに昔の夢をみたな・・・。)


 夢で見たクスノキから見える景色が頭の中を占領している。勘違いな筈なのに、あの時に吹いた、風に乗る潮の香りでさえ匂ってきそうだ。

 そういえば、最近もハッキリと情景を思い出したことがあったと眉をひそめる。


 (あぁ、そうだ。あの積乱雲を見て夏休みの事を思い出しのだ。夏に田舎に帰った時だったかな。毎日遊んでいたような気がする。

 そうだ、あの子。ユイ君という名前だった。植物に詳しくていつも虫眼鏡を首からかけていた。

 いつも一緒に森を探検して・・・。でも、何でいまさらユイ君の夢を・・・。)


 スライド式のドアが開いた音がしたので、セリカの思考は中断する。


 「やぁ。退院する準備はできているかな。といっても、ここも学園の中だけど。」


 部屋に入ってきたのは医者のクロウだった。今回、セリカの主治医を務めた人物だ。

 クセのある明るい色の髪を無造作に分け、伊達メガネをかけている。緩く着こなすグレイのシャツに黒のスラックスで身を包んでいるが、白衣を着ていないと学生に間違われるのではと心配になるほど若く見える。実際年齢不詳だ。


 「うん。顔色も良さそうだ。じゃあ最後に音だけ診せてもらおうか。」


 肩にかけてある聴診器を出しセリカを座らせると、耳に集中しながらセリカの肺や心臓の音を診ていく。


 「うん、問題なさそうだ。明日から普通の生活に戻れるよ。」

 「ありがとうございました、医師せんせい。」

 「いやぁ、君が運ばれてきた時はもう手遅れだと思っちゃったよ。真っ白い顔で血も全然足りてなかったし。」


 実際にセリカが意識を取り戻したのはここに運ばれて丸1日経過した時だった。

 見慣れない天井と消毒液の匂い、体の自由を奪う点滴のチューブ、心拍の機械音が定期的にこだまする薄暗い部屋で目覚めたセリカは、しばらく回顧に時間を要した。

 最後の記憶は暖かな毛布の感触とローブの男の眼。怒りと寂しさが一緒になっていたその眼差しは、思い出す度にセリカの心に静かな波を作り出す。


 「応急処置が良かったおかげで回復も早かったんだよ。回復してくれた子にお礼を言うんだよ。」

 「・・・はい。」


 誰が回復してくれたのかセリカには分からなかった。シリアに聞けば分かるだろうか。


 「いやぁ、でも残念だな。君とこうやって会えなくなるのか。」

 「?」


 気が付けば、セリカの隣に寄り添うようにクロウが腰かけている。その近さに距離を取ろうとしたセリカの肩をクロウはグッと引き寄せた。そして、肩にあった手を少しずつ下げ優しく腰を抱く。


 「オイッ、何をする!」


 セリカの怒鳴り声にクロウは怯まない。さらにセリカの耳元で囁く。


 「君の肌はとてもキレイだ。白くてきめ細かくて。その服に隠された体も大変興味深い・・・。」


 力強く抱く腰に細長い指が這う。それはゆっくりと衣服の中に入ってこようとした。


 「いい加減に・・・!」


 体を捩じり殴ろうとしたセリカの腕をクロウは掴み、そのままベッドに組み敷いた。身動きが取れなくなったセリカの服をさらに捲ろうとしている。

 あと数センチで顔と顔が触れてしまうだろう。目の前のクロウは小さく微笑んでいた。


 「一体何を考えているっ!」

 「今は君のことしか考えていないよ。君に興味があるんだ。」

 「黙れ、この変態医師っ!」


 セリカの素肌がゆっくりと露になる。その肌にクロウはさらに指を這わせていった。

 セリカの渾身の力はびくともせず、肌には鳥肌が立っている。

 そしてある箇所で指が止まると、セリカはフッと力を抜いた。


 「そう。この魔障痕にね。」

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