第八話 現実の時間
ログアウトするとBrave Spaceの中だった。ホロディスプレイを見るとチャットアプリに鈴音からの通知が来ている。
(どうだった?楽しかったでしょ?)
(今日時間あるとき話そ?)
(Breve.netのアカウント貼っとくからフレ申請してね!)
その下にリンクが貼られていた。それをタップするとBreave.netの鈴音のアカウントが表示される。そこからフレンド申請をタップしてBreve.netアプリを開くとRineにフレンド申請中ですの表示が出て来た。
「たぶん寝てるだろうし私も寝よう」
精神的疲労がピークにきているため櫂花はBrave Spaceからもログアウトして現実世界に戻り眠るのだった。
櫂花が自室で目を覚ますと時刻は16時を回っていた。少し遅い昼食を取った後、自室で仕事をしてからBrave Spaceにログインする。
Brave.netに通知が付いていたので開くと、RineからBrave Linkの開始申請が来ています。というウィンドウがポップする。許可すると扉が現れ開かれる。
「やっほ〜!」
扉から飛び出して来たのは真っ白なワンピースを着た少女だった。煌びやかな銀の髪にエルフのような長い耳、顔つきは鈴音を幼くしたような雰囲気だ。
「も、もしかして鈴音なの?」
「ん? そーだよおーちゃん」
普段から言動と顔つきで幼く見えるのに、なおさらそれが顕著に表れている気がする。
「すごいでしょ? Geofuの世界では私エルフなんだー」
「いや、まずどうやってここに来たの?」
「あー、Brave Linkだよ。申請したでしょ?」
鈴音からの申請だったので櫂花は考えなしに許可してしまったのだ。まさか自分のBrave Spaceに入ってくるとは思ってもいなかった。
「その顔は知らずに許可したなぁ〜」
「い、いや。ていうかその格好はどうしたのよ?」
「アバター変更だよ。設定いじってたら見つけたんだ。おーちゃんもやってみたら?」
言われた通り設定からアバター変更を探す。Geofu~Awakening of talent~と書かれたアバターを見つけ変更すると櫂花の身体が光に包まれオールの姿になった。
「うわぁ、綺麗……」
鈴音に真顔でそう言われ櫂花は照れてしまう。
「鈴音のアバターも綺麗でしょうが」
「なんていうかね、すごいリアルなのに非現実的な綺麗さというかなんというか……」
鈴音はあの女神様みたいな綺麗さだなと思うのであった。
立ったままはなんだということで二人ともソファーに腰を下ろし初日のプレイについて話す。
「ところで初日はどうだった、おーちゃん?」
「とにかく凄かったっていうのが感想かな。ただね……」
「なんかあった感じなわけね」
櫂花は起こったことを余すことなく鈴音に話した。
「それは災難だったね。現実世界にも仮想世界にもそういう人は必ず居るんだよね」
「ホント、せっかくいい気分だったのに台無しよ!」
素晴らしい景色を見て、白熱した戦闘をして最高の気分だった。だが、不当な理由で襲われた。Geofu~Awakening of talent~というゲームが悪いわけではなく人間が悪いのだ。
「ただね、おーちゃん。前にもギリシア・テイスト・オンラインで似たようなことあったでしょ?」
「まぁね、あれも向こうが一方的に悪かったじゃない」
「そーだけど、おーちゃんが煽らなければあんな風にはならなかったでしょ?」
ギリシア・テイスト・オンライン。それは鈴音に勧められて初めてプレイしたVRMMORPGだ。そこでも櫂花はしつこい男に言い寄られキッパリと突き放したことでいざこざが起きた。
「悪いことを悪いって言うのは正しいことかもしれないけど、自分が危ない目に遭わないように時には上手く言いくるめることも必要だよ」
「そんなこと言われても私にできるのかな……」
子供の頃から鈴音以外には一歩引いて接せられていた。それが羨望からくるのか嫉妬からくるのかに関わらず壁を作られていた櫂花はコミュニケーション能力を低下させるに至った。特に不測の事態に対する対応力は皆無に近い。
「まぁ、それはこれからどうにかしていけばいいでしょ! まずは現実で人と喋れるようにならなきゃね!」
「うん……」
「ごめんね、なんか暗い雰囲気にしちゃって。明るい話しよ明るい話!!」
「そうだね、私こそごめん!」
櫂花は今回のことで反省すべき点がいくつもあったなと思い返すのだった。
話を変えようと鈴音はチュートリアルについて話し始める。
「そーいえば、基本武器のWeponSkillはなんだった? 私は剣と杖だったけど」
「全部」
「え?」
「だから全部」
鈴音は驚きの表情でソファーから立ち上がり、ありえないという顔をする。
「嘘でしょ!?私が聞いた話じゃ多くても3つだったよ?」
「女神様が言うには私だけらしいよ。てか、他のプレイヤーのWeaponSkillなんてどうやって知ったの? 普通簡単には話してくれないでしょう?」
多くのプレイヤーは自分が不利にならないように情報を秘匿することが多い。特にまだ始まったばかりのゲームなのだからなおさらだ。
「それは……まぁ…… 私のファンの人達がね……」
櫂花は蔑みの目を向ける。しかし、本当に軽蔑して居るわけではない。鈴音には鈴音なりの苦労と事情があるのだから。
「別に私から話してって言ったわけじゃないからしょうがないじゃ〜ん……」
「その話で思い出したけど配信はどうだったの?」
「ログイン中はコメントとか一切見れないんだけど、後から見たらピーク時で30万人言ってたらしい……」
「30万人か……それってすごいの?」
櫂花は普段ゲーム配信を見ない。それにもかかわらず配信について聞いたのはただの興味本位だ。
「今までの最高が約3万人だからめちゃくちゃすごいよ… まぁGeofu~Awakening of talent~の配信ライセンスを持ってるのまだ二人だけだから納得もできるけどね」
Geofu~Awakening of talent~の利用規約によりライセンスを申請して認められなければ配信しることができない。そもそもライセンスがなければ外部に出力する項目が無いためできないのだ。
「へぇ、そのもう一人って誰なの?」
「えーと、GunsGunsGunsっていうVRFPSの元プロゲーマーでNo4hって人だよ」
「ふ〜ん」
正直ゲームのプロの世界は全くわからない。今ではオリンピック競技のスポーツとしてかなり盛り上がっているらしいが、櫂花はテレビを一切見ないのでそう言った情報には疎いのだ。
「といっても、SNSもやってないおーちゃんは絶対知らないでしょ?」
「まぁね」
雑談をした後、Geofuの世界で合流するために情報交換を行うことになった。
「まずは合流するためにもお互いどこに居るか知らなきゃね。ちなみに私はモヤンペイってでっかい街だったよ」
「私はエヴァンタイユって街だった」
「うーん、一応NPCから周辺にある街について聞いたけどその中にエヴァンタイユはなかったなぁ」
鈴音は持ち前のコミュニケーション能力と人当たりの良さを使って主にNPCから情報を集めていた。RPGの基本である。
「どうやってお互いの位置を確認するかが今のところの問題点ね」
「一応世界地図があるらしいんだけど、ギルドに所属してランクをCまで上げないと閲覧権限が貰えないらしんだよねー」
「じゃあ当面の目標はランクをCまで上げるってことでいいかな?」
「私はイベントとかもあるから毎日ログインできるとは言えないんだよねー」
鈴音は多忙である。GunsGunsGuns日本リーグのリポーターにゲームショウのMCなど配信以外にも仕事がいくつもあるのだ。
「私は数日間仕事しなくてもどうにでもなるから頑張るよ」
「さっすがおーちゃん! 私はまだ冒険者登録してないし戦闘もまだだから期待しないでね」
「わかったわかった、すぐCランクになって迎えに行くから!」
「おけ、とりあえず方針も固まったことだし配信しなきゃいけないからお暇するね!」
「うん、またね」
櫂花はきた時と同じ扉をくぐって帰って行く鈴音を見送ってからGeofu~Awakening of talent~のアイコンをタップしてログインするのだった。
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