第六話 初Quest
オールは野犬10頭の討伐Questをクリアするため北門に向かっていた。途中露店で果物をいくつかと2Lの水を買い、矢を持っていないことに気付き武器屋で一番安い木の矢を20本買って、残りの所持金は2200gifになってしまった。
Inventoryを確認してみると最初にもらったブロンズシリーズの武器が圧迫していて、かなり空き容量が限られてしまっている。おそらくInventoryは元々入る量がかなり小さいのだろう。なぜなら、武器屋に売っていたマジックバッグはInventoryの倍は入ると説明書きにあったからだ。
冒険者ギルドから歩いておよそ十分、ようやく門らしきものが視界に入った。門の脇にはNPCの衛兵が居たが検問などは無く、すんなり通してくれた。門を出ると目の前に森が広がっており、夜ということもあってかなり怪しい雰囲気を醸し出している。
「真っ暗だけど月が出てるからなんとかなるか」
そんな甘い考えでオールは森に入ったが、当然木々に月明かりを遮られて目の前はほとんど何も見えない。もはや森の出方もわからなくなってきた頃、ようやく目が慣れてきたのかうっすらと視界が明るくなってくると同時にアナウンスが流れる。
【SupportSkill[暗視]を獲得しました】
どうやら目が慣れたのではなくSkillを獲得したおかげで見えるようになったようだ。
「森に入った時はどうなるかと思ったけど、Skillのおかげでなんとかなりそう」
視界が明るくなってもオールは夜の森に考えなしに入ったことを反省し、暗闇に包まれていたときより周囲の気配を探りながら慎重に歩く。
やがて、20mほど先に動きがある。目を凝らすとQuest対象である野犬が3頭何かを貪っていた。オールは茂みに隠れ、先ずはとブロンズボウを取り出し矢を番える。異様に緊張感を持ってしまう。フッと息を止め頭が狙いやすい位置にいる野犬に狙いを定め射る。矢は少しそれ野犬の足に命中する。ギャンッと悲痛な鳴き声が上がり、他の2頭が周囲を警戒し始める。再び矢を番えて素早く射るも今度は避けられ居場所がばれてしまい2頭がこちらに駆け出す。
「よし!」
オールはあらかじめ腰に差していたブロンズソードを抜き身構える。アドレナリンが分泌されるのを確かに感じる。
「はぁあっ! [バーティカルスラッシュ]そいやぁっ!!」
AssaultSkillを使って正面から襲いかかってきた1頭を真っ二つにする。あまりにも斬った感触がリアルで更に血飛沫が上がりオールはゾッとし一瞬硬直する。その間にもう1頭が右横から太腿に噛み付いてくる。
「う゛っ」
痛みはあまり感じないが物凄い不快感がオールを襲う。
噛み付いている野犬の頭を肘打ちで引き離し左足で蹴りを入れる。野犬が転倒したので間合いを詰めブロンズソードで突き刺す。少し様子を見て動かなくなったのを確認しブロンズソードを引き抜く。
「あと、1頭……」
最後の1頭が足を引きずりながらも激しく威嚇し襲いかかってこようとするがあまりにも遅い。オールは右にサイドステップして回避し首を刎ねて終わらせた。
「野犬相手にするのでこんなにキツイのかぁ……」
【SupportSkill[体術(F)]を取得しました。WeaponSkill[剣(F)]が[剣(E)]にランクアップしました】
アナウンスが鳴ったがメニューウィンドウを開くことすら億劫で地面に倒れ込む。疲れからか乾きのパラメータが減少したからなのかは分からないが、喉が乾いたような気がしてInventoryから水を取り出し乾きが収まるまで水を飲む。
「死体が消えてない……消えない仕様なのか?」
かなりグロテスクな見た目をしているため、オールは正直消えて欲しいと心の中で思うのであった。
少し休憩してから立ち上がり、一旦街に戻るかどうか悩んでいると遠くからバタバタと走る音が聞こえてくる。その音は少しづつオールの方に近づいてくる。
「おぉぉい!! 誰かぁああ!! 助けてくれぇぇええ!!!」
野犬を7頭引き連れたプレイヤーらしき男が助けを求めている。オールは逃げようと考え、身を隠そうとしたがなぜか隠れた場所に方向転換してくる。
「うわっ、こっち来てるし」
しょうがない、とオールは木の陰に移動し接近するのを待つ。プレイヤーが目の前を通ったところで横っ腹から野犬に[バーティカルスラッシュ]を打ち込み1頭の胴体を真っ二つにする。野犬はすぐさま追うことをやめ、臨戦態勢に入り睨み合いになる。追われていた男へ視線を向けるとオールが急に出て来たことに驚いたのか腰を抜かしている。
「あなた、戦える?」
「あ、あぁぁああ! 体に力が入らない!」
戦力になるとは思わなかったがオールはあからさまにがっかりした表情を浮かべる。しかし、男はそれどころではないようでじりじりと近づいてくる野犬を見て、持っていた剣を振り回しながら必死に後退りする。
「やるしかない! [クイックチェンジ]」
オールがそう唱えると背中に背負っていたブロンズボウが消え、左手にブロンズシールドが現れそれをしっかり正面に構える。
先に動いたのは野犬だった。オールに向かって2頭が同時に飛びかかってくる。それをオールは左から来た野犬は盾で弾き、左から来た野犬は剣で水平に斬りつける。
「浅いかっ! [クイックチェンジ]」
再びクイックチェンジを唱えると今度はブロンズソードがブロンズスピアに変わる。
「[ラフスタブ]!!」
盾で弾いた野犬に向かって槍で突きを放つ。槍を手放しそのままの勢いで斬りつけた野犬に右足で後ろ回し蹴りをし吹き飛ばす。その間に後方にいた1頭が迂回して右横から奇襲してくる。
「っくぅ! [クイックチェンジ]」
今度はブロンズシールドがブロンズソードに変わり、それを両手で持ち左上から右下に向かって斜め斬りを放ち斬り捨てる。
「あ……あと、4匹……」
肩で息をしながらそう呟く。
AssaultSkillの連続使用でSPが残り少ないのかひどい頭痛がする。かなり分が悪い。おそらくAssaultSkillはあと一度使えるかどうか、槍を手放したことで剣のみで戦わなければならない。だが、そんな状況になってもオールは無性に楽しかった。ぶっつけ本番で使った[クイックチェンジ](実はSkillの効果はメニューウィンドウで確認していた。)はかなり効果的に作用していたし、とにかく戦うことが楽しかったのだ。
「かかって来い!!!」
オールは叫んだ。
その先は自身でもあまり覚えていない。必死に剣を振り、殴り、蹴り、最後に立っていた。数十分なのか、ほんの数分なのかどれだけ戦っていたのか分からないが立っていた、それだけである。
最後まで読んで頂きましてありがとうございます。
多くの方に読んで頂くためブックマーク、評価をお願い致します。
また、作者が成長するために感想をお願いします。どんなことでも構いません。




