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第四話 新たな世界

 扉をくぐった先は4畳半ほどの客室のような部屋だった。木製の壁に囲まれ簡素なベットとテーブルが配置されている。女神は飛空船の中からスタートすると言っていた。つまりここは飛空船の中の客室であろう。


【3種類以上の基本武器WeaponSkillを確認しました。AssaultSkill[クイックチェンジ]を習得しました】

【贈り物、ブロンズソード、ブロンズスピア、ブロンズシールド、ブロンズロッド、ブロンズハンマー、ブロンズボウを獲得しました。Inventoryに送られました。5000gifを獲得しました。】


 急に流れたアナウンスに着いていけず、オールはLogを開き確認する。新しいスキルとチュートリアルで使っていた武器、それからお金が貰えたようだ。

 新しい世界をいち早く見たいという欲求からオールはウィンドウを閉じて部屋から出る。通路に出ると自分が出てきた扉と同じものがいくつもあった。左を見ると奥に行くに連れ暗くなっている。右を見ると茜色の空が僅かに見えたのでそちらに進んだ。

 

 通路を抜けるとそこは甲板であった。夕日が海に沈む光景が広がっている。思わず船尾に走り出してしまう。目の前に広がる景色に胸が高鳴る。


「まるで本物(real)みたい……」


 オールは今まで現実離れした空間にいたためか、急に頰に当たる潮風となびく髪、ドクドクと高鳴る鼓動や肌が少し濡れている感覚などを鮮明に意識してしまい涙が出てしまう。


「なんだろう… こんな気持ちになるなんて……」


「すげぇよな、これがゲームだなんて俺ぁ信じられないぜ……」


 唐突に話しかけられ櫂花は振り向くと、そこには立派な髭を蓄えた厳つい雰囲気の男性が後ろで男泣きしていた。オールは思わず我に帰ってしまう。


「すまねぇ、邪魔しちまったよな……」


「い、いえ素晴らしい景色だから分かりますよ」


 苦笑いしながら誤魔化すオール。


「いやぁ、変なもん見せちまったな。俺ぁエルムってもんだよろしくな」


 そう言ってエルムと名乗った男は握手を求めてくる。オールは手を握り握手をする。


「オールです」


「こんな綺麗な景色UIがあったら気付けなかったかもなぁ」


「そういえばUIがないや、考えもしなかった」


 どんなゲームにも基本的には画面や視界にUIが表示されているものだ。オールはゲームをプレイする事自体がそこそこ久しぶりだったため気付かなかった。


「それにプレイヤーのネームタグも表示されねぇみたいだぜ。設定にもそれ関連のはなかったからな」


 チュートリアルの際、メニューウィンドウからSettingを確認したがゲームプレイにUI関連のものは無かったことを思い出す。


「ホントだ… わざわざ教えていただいてありがとうございます」


「いいってことよ。じゃあ、俺ぁ早いとこ街を見に行くわ。またどっかでな」


 後ろ手に右手を振って別れを言ったエルムにオールは軽くお辞儀をする。


「個性的な人だったな。そういえばまともに他人と話すの久しぶりだなぁ」


 仮想世界と分かっていてもリアルな世界でNPCを除き、恐怖心を覚えずに会話できたことが無性に嬉しく目頭が熱くなるのだった。




 オールは景色をたっぷり堪能した後飛空船を降りた。辺りは既に暗くなっている。


【エヴァンタイユの街を発見しましたMapに記録されます】


 アナウンスが流れたのでメニューウィンドウからマップを開く。エヴァンタイユの項目があったのでそれをタップする。おそらく目で見える範囲がマッピングされ地形情報を表示できるようになるらしく、まだマップのほとんどは黒く塗りつぶされている。


「マップ見る限りこの街だけでも相当広そうだなー」


 オールは周囲を確認し、現在地が港であると理解した。自分が降りてきた飛空船と同じ船が何十隻と並んでいる。人影は見えるが自分とは違う格好をしているためNPCだろう。プレイヤーはエルム以外まだみていない。


「1500人近いプレイヤーが来てるはずなのに見当たらないって事は、チュートリアルに時間かけすぎたのかな?」


 新作のゲームをサービス開始とともにプレイするプレイヤーは何かと先を急ぐものだ。Geofu~Awakening of talent~も例に漏れずそうなのであろう。と一人で納得しメニューウィンドウに表示されている現実時間(realtime)を見てオールは驚いた。


「スタートしてからもう2時間半も経ったのか。鈴音は今頃チュートリアルかな?」


 そう口にして女神の言葉を思い出してしまった。


「てか、60の都市からランダムでスタートするなら同じ街からスタートする確率かなり低いじゃん!!」


 実は鈴音はかなり前にチュートリアルを終わらせていた。チュートリアルでグダグダすると視聴者の中に不快感を覚えるものがいる可能性があるため、配信前に終わらせていたのである。


「ゲームの仕様ならどうすることもできないし、とりあえず進もう」


 人通りの多い通路を目指し歩き始める。レンガ造りの家が並ぶ街は不思議な色の街灯に照らされていて夜でも明るい。あたりを観察しているうちに露店街にたどり着いた。ようやくプレイヤーの姿もちらほら見え始め周囲はかなり賑わっている。露店では食料や水が売られているエリア。雑貨やアクセサリーなどが売られているエリアという風に分かれていた。

 やがて屋台が多いエリアに差し掛かり肉の焼けるいい匂いが漂ってくる。


「うーん、いい匂い。てか、匂いの再現がものすごく細かいな」


 現実世界ですら意識しないと分からない風が運んでくる様々な匂いが再現されている。


「嬢ちゃん一つ買ってくかい?」


 声がかけられた方を向くとフランクフルトを売っている屋台だった。オールは随分と現代的なものが出て来たなと思いつつ、情報収集ついでに買うことにする。


「いくらですか?」


「一つ100gifだよ。味には自信あるぜ!」


「じゃあ一つ下さい」


 ウィンドウが表示され5000gifから4900gifへ書き換わる。店主の方にもウィンドウが表示されている。てっきりインベントリから手渡しで通貨を渡すと思っていたオールは目を丸くする。

 食べているうちに空腹感は薄れていき、情報を聞き出すために櫂花は店主に話しかける。


「あのー、船から降りて来た人たちってどこに行ったか分かります?」


「船? あぁ、難民の人たちかい? 仕事を探してるみたいだったから冒険者ギルドにでも行ったんじゃないか」


 お金は最初に配られた5000gifと限りがあるのだ。仕事を探す事はかなり良い手だろう。それにこのゲームは冒険を楽しむことを一応は目的としているのだ。少し悩んでオールは冒険者ギルドへ行くことを決める。


「冒険者ギルド……それってどこにありますか?」


「この区画のギルドなら露店街抜けてすぐだぜ」


「ありがとうございます。ごちそうさまでした」


 オールは礼を言って冒険者ギルドの方へ歩き出した。





 

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