第二十七話 8時間
プロローグの内容を大幅に変更いたしました。
櫂花が意識を取り戻したのはGeofuの世界ではなく、Brave Spaceの中だった。カスタマイズした空間のソファーに座った状態だ。
「ん……ここはBrave Space ……!?」
何が起きたのか理解できぬまま、櫂花は素早くConsoleを操作しGeofuのアイコンをタップする。
【プレイヤー”オール”は死亡しました。ペナルティとして現実時間で8時間ログインすることができません】
画面に表示されたのは無慈悲な文章とログイン可能になるまでのカウントダウンだけだった。
「そんな……」
あまりにも多くのことが起きたため櫂花は混乱していた。自分があの世界で死んだことは理解したが、他のことを頭の中で整理する。
「ゴブリンが街を襲って、エルムさんから通話が来てそれからゴブリンメイジと戦った……」
その後はどうした。ファラはファラはどうなった。そうファラのことを思い出そうとした時、悲惨な光景と自分が何をしたのかが脳内にフラッシュバックする。
「ファラが……消えた……」
その言葉とともに櫂花の目から涙がこぼれ落ちてくる。
そして、ゴブリンが話していたことを思い出した。
「そんな……でも精霊は消えないって……精霊石……源ってなに……?」
櫂花の知らない情報ばかりをあの巨大なゴブリンは聞いてきた。そしてファラは消滅し宝石になった。
櫂花は今すぐGeofuにログインして現状がどうなっっているのか確認したいがそれはデスペナルティによって叶わず、もどかしさで胸が苦しくなる。
「街はエルムさんはあのゴブリンは一体どうなったんだろう……」
それを知る術はなく、櫂花は心にぽっかりと穴が空いたように感じ唯々無気力になった。
Brave Spaceからもログアウトし櫂花は精神的な疲労でそのまま眠りについた。
翌日目を覚ました櫂花は食事をしながら起きたことを考える。頭の中に色んな感情が押し寄せ苦しくなった櫂花は何も考えずにBrave Gearを被りBrave Spaceにログインする。
相変わらずGeofuのアイコンにはログインできるまでの時間が表示されている。
「あと1時間半か……」
Brave Spaceの中で何をすることもなく過ごしているうちにログイン可能になるが櫂花はログインする気になれない。
あれこれまた考えているうちに時間は過ぎ、突然ピコンとBrave.netに通知が着く。開くと鈴音からのBrave Linkの申請だった。
櫂花は誰かにGeofuで起きたことを話したいという感情と今は一人になりたいという感情の板挟みになるが、今は誰かに気持ちをぶつけたいと考え鈴音の申請を許可する。
Geofuを始める前の彼女であれば絶対にしないであろう行動に櫂花は気付いていない。
「やっほ〜おーちゃん」
いつもの調子で鈴音が現れる。しかし、櫂花の様子を見て心配そうな顔を浮かべる。
「おーちゃん? 何かあったの……?」
櫂花がGeofuであったことを話すと鈴音はCousoleを操作し始める。
「ほんとだ、SNSでエヴァンタイユの街のことが話題に上がってるよ」
櫂花は気にはなっていたが調べる気にならなかった。
「エヴァンタイユはどうなってるか書いてある?」
「うん、えーとなになに、ゴブリンの軍勢が襲撃して来たが半分ほど倒したところで撤退し始めた。らしいよ」
櫂花はゴブリンの軍勢が撤退したと聞き疑問に思う。
「え!? 撤退? 魔法を使うゴブリンとかでかいゴブリンとかが出て来たって情報はある?」
鈴音は櫂花の疑問に答えるため様々なワードを使って検索する。
「いや、そういう情報は出てこないなぁ……」
「そうか……妖精種の血を集め終わったから撤退したのか……」
櫂花は自分が立てた予想があながち間違っていなかったことにここで気付く。
「妖精種の血? なにそれ?」
鈴音は櫂花が呟いた事に興味を持ったのか櫂花に問いかける。櫂花は妖精種の血が何なのか鈴音に説明し、ゴブリンがなぜそれを求めていたのか自身の予想を鈴音に話した。
「なるほどね、エルフの血に精霊石か……興味深いね……」
鈴音は櫂花が未だ浮かない顔をしていることを気にかける。
「おーちゃん、ファラちゃんていう子が消えちゃったのは残念だけどゲームの中でNPCが死んじゃうのはよくある話だからね」
「そうかもしれないけど、目の前で親しくしてた人が消えていくのはゲームの中だとしても苦しいよ……もっと色々話したり仲良くできたかもしれないのに……」
鈴音は櫂花の気持ちが痛いほどわかった。鈴音は鈴音でGeofuの世界で多くのNPCと仲良くなりそれなりの関係を築いているからだ。
「おーちゃんログインしないの?」
「うん、なんかする気になれない……」
「だったらGeofuの情報調べてみたら? 少しは気が紛れるかもよ」
櫂花は確かにこのもどかしい気持ちをごまかすのにはうってつけかとブラウザを開いて情報集めをすることにした。
鈴音は配信の予定があるらしく、しばらくしてすぐに櫂花のBrave Spaceから出て行った。
「えーと、Geofuっと」
櫂花が打ち込むとブラウザのトップにはルー文字の紹介が表示される。スクロールしていくと少し下にGeofu〜Awakening of talent〜の公式ホームページが出てくる。
「そういえばホームページすらまだ見たことないや」
タップするとプロモーションビデをが流れ始める。櫂花が初めて見たコマーシャルとは違いゲーム内の景色や戦闘シーンが映し出される。
「うわっ、絶対まだ誰もこんな戦いかたできないじゃん」
戦闘シーンではかなりアクロバットな動きをしているのだ。しかし、不思議と違和感は無かった。
「私ももっとSkillのランクを上げたり覚えたりすればあんなことができるのかな……」
そのシーンは櫂花が求める飛び抜けた才能と言えないこともない。だからこそ、ああいう風になれたらと期待に心を躍らせる。
「うーん、あとはイベントで言ってたこととあんまり変わらないか……」
櫂花はホームページから離れプレイヤーからの情報を集めるべく昔作ったSNSのアカウントでログインしサーチする。
「意外と厳しい評価が多いな……」
まず目に止まったのはGeofuに対する評価の話題だ。
Geofu〜Awakening of talent〜のサービス開始から3日たった今、多くの評価がSNS上に投稿されている。多くは仮想世界のリアリティの高さについてのものだが中には辛口なものも存在する。初期位置やキャラクターがランダムで作成されるのはどうかと思う、や友人と一緒に始めたかったのにバラバラじゃつまらないと言った投稿、チュートリアルがSkillのことだけで街に降り立ってから右往左往したなどという投稿である。
「確かにGeofuはかなり放任主義っぽいよね。エヴァンタイユのイベントもネット上では一切告知されていないし。キャラクターは才能がコンセプトだからな気もするけど初期位置は確かに疑問だったわ」
これは一つのサーバーに10万人のプレイヤーを入れるためなのだが、納得いかないプレイヤーも多いようだ。
「お、魔法の情報がある」
評価の話題に一通り目を通したオールは別の情報がないか探し、魔法について書かれたものを発見する。
「なになに、デスペナから復帰したら場所が神殿でそこで魔法適性の診断ができるだって!?」
櫂花は魔法のことは後回しにしようと考えていたのだが復活場所が神殿なら自分も試してみようかと考える。
「魔法は大まかに7種類あってどれに適性があるかはSkillと同じでプレイヤーの才能次第、か」
その先にはもっと詳しい内容が書かれていたが櫂花は見るのをやめる。
「これは自分自身で体験したいもんね……」
それ以外にも櫂花はGeofuについて書かれた投稿に目を通すが、特筆した情報はなくSNSのページを閉じた。
「Geofuの世界にはまだ色んなことが待ってるのにうだうだしてても仕方ないよね」
櫂花はゆっくりとGeofuのアイコンに手を伸ばすのだった。
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