第二十六話 精霊石
深手を負いながらもなんとかゴブリンメイジを倒したオールはとてつもない疲労感と倦怠感に襲われその場に倒れこんだ。身体に帯びていた光は少しずつ薄れていき消えてしまう。その瞬間反動のように頭痛とめまいを感じる。今すぐに立ち上がり泉の園の中に入らなければと頭で分かっていても体が全く動かない。
「早く……行かなきゃ……」
震える指先でメニューウィンドウを操作し、Inventoryから回復草を取り出して口に含む。徐々に倦怠感が薄れていくのを感じ、持っていたシルバーバーチロッドを文字通り杖にしてなんとか立ち上がる。
「変異種と戦った時よりだいぶマシでしょ……」
オールは自分に言い聞かせるようにそう呟き一歩一歩泉の園へと足を動かす。
「ギギャァァアア!!」
泉の園の中から雄叫びのようなものが聞こえてくる。オールの表情はどんどん青褪めていく。
「動いて私の足!!」
力を振り絞り唇を噛み締めながら歩く。少しずつペースが上がっていき泉の園へと足を踏み入れる。
「な!? なにこれ!!??」
オールの目の前に広がっていたのは以前の泉の園の様相とは全く違うものだった。地面はひび割れ隆起し、泉は原形をとどめていない。
オールは辺りを見渡した。すると粗雑な鎧を纏った緑色の巨人の背中が目に入る。
「あ、あれはゴブリンなの!?」
今まで見てきたゴブリンとはまるで別物の外見と雰囲気にオールは気圧されてしまう。
目の前の巨大なゴブリンは体を揺らし何かをしているようだ。それを確認するため恐る恐る側面に回り込む。
「ファ、ファラ!!???」
目の前の光景にオールは目を見開く。なぜならゴブリンは右手に持った大剣でファラの胴を突き刺し弄んでいたのだ。
醜悪で卑しい目を向けながらファラの左腕をちぎる。なぜ死なないのか、そんな疑問の表情を浮かべながら今度は右足、左足ともぎ取り最後に右腕を左手で持ち大剣をファラの体から引き抜くと頭を大きな右手で掴む。
オールはその先を想像し耐えられなくなり敵わないと分かっていながら突撃する。
「離せぇぇええ!!」
ギロッとオールに目を向けたゴブリンは右手に持っていたファラをゴミを捨てるように投げ飛ばし、接近してきたオールを両手で掴む。
「なっ!?」
掴まれたオールはもがくもビクともしない。
「オマエヨウセイ?」
ゴブリンは自分の顔にオールを近付けまじまじと見つめ、人間の言葉でそう問いかける。オールは話しかけられたことに驚くもこの状況から抜け出すべく尚ももがき続ける。
「ヨウセイモウイラナイ、オレセイレイセキホシイ。アノセイレイ、ミナモトコワシタノニシナナイ。セイレイセキダサナイ、ナゼ?」
精霊石とは精霊が消滅すると得ることができるものだ。しかし、精霊は自身が守る空間にいれば消滅することはない。消滅させるには空間または精霊の源を破壊しなければならない。ゴブリンはそのどちらとも破壊することに成功しているのだ。だが、そんなことをオールは知る由もない。
「そんなこと私が知るわけないじゃない!」
ついにオールは耐えられなくなりゴブリンに向けて言葉を放つ。すると、ゴブリンはオールを持ったままファラに近付いていく。
「セイレイ、コイツコロサレタクナカッタラセイレイセキダス」
惨たらしい姿のファラに、見せつけるようにオールの体をギシギシと締め付ける。
「ぐあっ、く、苦しい……」
今までダメージを受けた時とは比べ物にならないほどの倦怠感がオールを襲う。
『ごめんなさい…………私はもうすぐ消えるから……それまで……もう少しだけ耐えて…………』
嗄れた声でファラが呟くと少しずつ体が水に戻っていく。ゴブリンはオールを締め付けるの一時的に止める。
「セイレイナンテイッタ? コトバワカラナイ」
ファラが少しずつ存在が希薄になっていくことを感じたゴブリンはオールを離すと、子供が興味を示したものの前で跪くようにしゃがみ込む。
「セイレイセキデテクル?」
オールに目の前でファラが消えていく。オールの中に様々な感情が湧き上がりゴブリンを無視してファラに寄り添う。
「ファラ、行かないで!! まだあなたとは何も……」
オールがファラと出会ってから日は浅い、でもこの世界で一番深く関わり合っているのはファラである。初めて会った時なんとなく気が合いそうだと感じオールは積極的に泉の園へと赴いていた。鈴音とは違う新しい親友になれそうな気がしていた。
この世界での関わりが目の前で消えそうになる光景を前にオールは涙を流す。
オールがファラに触れた瞬間弾けたようにファラの体を構成していたであろう水滴が空中に浮き上がる。ゴブリンは興味津々といった面持ちでそれを見つめている。
水滴はどんどん高く空へ昇っていく。あるところで上昇をやめ今度は水滴が一つに集まりこぶし大の大きさになる。
「セイレイセキガウマレル!!」
光を発しそれは透き通ったファラの瞳と同じ色の宝石になる。
「ファラ!!」
それを見たオールはファラから貰ったネックレスを思い出す。ファラの瞳と同じ色をした宝石が埋め込まれたネックレスを。
なぜかオールは何としても空に浮かぶ宝石をゴブリンに渡してはならないとそう思った。気だるい体に鞭を打ち、宝石に手を伸ばすゴブリンを踏み台にして宝石を掴み取る。
「オマエナニヲスル!!」
ゴブリンに右足を掴まれるも、宝石を守ろうと胸に引き寄せる。すると、光を帯びながら持っていたネックレスに吸い込まれるように宝石が消えていく。
「セイレイセキドコヤッタ!?」
ゴブリンは右足を持ち逆さ吊りにしているオールの顔を自分に近付け問いかける。
「あなたには渡さない……!」
その返答を聞いた瞬間ゴブリンは怒りの表情を見せ、地面にオールを叩きつける。
「ぐはっ……」
その衝撃にオールは嗚咽を漏らす。
「ダセッ!」
「い、嫌だ……」
ゴブリンは何度も何度もオールを地面に叩きつける。
オールの視界は真っ赤に染まっていき意識が遠のいていく。
ゴブリンはオールの死体が消えるまで何度も何度も叩きつけ、そして後悔する。
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