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第二十五話 死線

 泉の園の内部ではホブゴブリンとファラの戦闘が巻き起こっていた。ホブゴブリンが続々と森の中から現れる。


『スカルプ・レン・クラフト[バンスピッド]!』


 ファラの手から水の槍が放たれ続けている。直撃したホブゴブリン達は次々と倒れていく。


「これが魔法か……圧巻だな……」


 エルムはファラと会話できないため連携を取ることができない。そのためただ魔法によってホブゴブリンが爆ぜていく光景を見守るしかできなかった。


『キリがない! このままじゃ持たないわ!』


 ファラが苦虫を潰したような表情を浮かべる。その顔を見たエルムは危機的状況下にいることを察し自身に何かできることがないか必死に考える。


「とりあえず、嬢ちゃんに連絡して外がどうなってるか確認するのが吉か……」


 エルムはオールに通話をかける。1コールもしないうちに通話が開始されオールの声が聞こえてくる。


『エルムさん? そっちは大丈夫ですか!?』


 その質問にエルムは周りを見渡し状況が芳しくないことを再度確認し返答する。


「嬢ちゃんすまねぇ、やばそうだ。水の嬢ちゃんがなんとかしてくれてるがゴブリンどもが何匹か入り込んできてやがる。なんとか応援を……」


 応援を頼もうとした時、ホブゴブリンが来ている方向の木が地響きを立てながら倒れ始める。


「おいありゃあなんだ!?」 


「ギャオォォォォオオ!!!」


 叫び声を上げながらエルムの前に粗雑な鉄の鎧を纏い巨大な大剣を持ったホブゴブリンとは比べ物にならないほど大きなゴブリンが現れる。


「水の嬢ちゃん危ねぇ!?……」


 そのゴブリンがファラに向かって大剣を振り下ろそうとしているのを見たエルムはとっさに盾を構えファラを庇おうと間に入った。

 エルムが盾で防いだ瞬間ものすごい衝撃と共にエルムの意識はこの世界から離れてしまうのだった。



 オールの目の前には醜悪な顔をしたゴブリンメイジがいる。外套の効果で気付かれていないはずだが、なぜかオールの方を見ているように感じる。

 オールはこのまま慎重にゴブリンメイジを避けて泉の園に入ろうと考える。


「ギギッ!」


 ゴブリンメイジは唐突に茂みに隠れていたオールに向かって火球を放つ。気付かれていないと思っていたオールはギリギリ回避する。


「バレた!?」


 オールはシルバーバーチロッドを構えてゴブリンメイジを見据えるが完全には見えていないようだ。キョロキョロと周囲を警戒しているがその視線はオールを捉えているわけではない。

「な、勘で撃ったの!?」


 オールの持つインビジブルフェアリークロークは気配を遮断し気配を感付かれていなければ目視することも叶わない。しかし、魔法やSkillには敵の位置を一時的に把握するものが存在する。


「ギギャッ、ギギッ!」


 またしてもオールがいる位置に向けて火球が放たれる。今度は身構えていたため容易に回避できるが、ゴブリンメイジを無視して泉の園に入ろうとしていたオールはそれが不可能であろうことに気付く。


「……だとしても……!」


 変異種と相対した時はその場で習得した渾身の[アクセラレートトラスト]を使ってもオールの力だけでは倒すことができなかった。だが、シルバーバーチロッドを使えば行けるかもしれない、とオールは全神経を集中させゴブリンメイジに杖のAssaultSkill[シャープネススラップ]を放とうとする。


「シッ!!」


 気付かれないよう背後に回り、後頭部を狙った一撃は見事にゴブリンメイジに命中する。


「よしっ!!」


 オールはこの一撃ならひとたまりもないだろうと歓喜の声を漏らす。


「ギギャァア……」


 しかし、ゴブリンメイジは激怒した表情でオールの方に振り返る。


「ギギャッ!!」


 ようやくオールの姿を視認できたゴブリンメイジは自身の杖でオールを振り払うように攻撃する。オールは不意を受け頰に一撃をもらい後ずさる。


「なっ!?」


 ゴブリンメイジはオールから距離を取るようにバックスッテップし、すかさず火球を放つ。オールは先ほどの一撃で頭がぼやけ回避しようとするも体が動かず火球が直撃する。


「ぐはっ……!」


 変異種ほどの威力はないもののゴブリンメイジはCランクの魔物だ。オールが受けたダメージは凄まじく思わず膝をついてしまい、それを見たゴブリンメイジは追い打ちをかける。


「ギッギャギャギャッ!!」


 今度は火球ではなく岩の塊がが出現しオールに向かって放たれる。咄嗟に[クイックチェンジ]でシルバーバーチロッドを願いの盾に入れ替え防ぐ。

 実質的に初めて願いの盾を使ったオールはゴブリンメイジの攻撃にではなく、願いの盾の性能に驚いた。


「なにこの盾? 攻撃を受けた時のノックバックを全く感じない……」


「ギャギャギャッ!」


 間髪入れずゴブリンメイジは先ほどと同じ魔法で攻撃してくるがオールは願いの盾で全て防いでしまう。

 オールは背負っていた弓を[クイックチェンジ]でブロンズハンマーに入れ替えながら立ち上がり、ゴブリンメイジの攻撃が一時途絶えたところで槌のAssaultSkill[グラウンドクエイク]を地面に放つ。ゴブリンメイジの足元が揺れバランスを崩したことを確認し再び[クイックチェンジ]でブロンズハンマーをシルバーバーチロッドに入れ替えゴブリンメイジに向かって走り出す。


「お願い、これで最後にして……!!」


 オールはゴブリンメイジに向かって[シャープネススラップ]を放とうと構える。すると左手に持っていた願いの盾が淡い光を帯び始め、やがてオールの全身を包む。


「身体が軽くなった!?」


 先程までの自身のものとは思えないほど軽く感じる身体に驚きつつもゴブリンメイジに肉薄し、準備していたAssaultSkillを放つ。ゴブリンメイジは杖でガードするもその杖は粉々に砕け自身の顔面にオールの攻撃が命中する。


「ギャギッ!?」


 驚愕の表情を浮かべながらゴブリンメイジの頭部が弾け飛び、首から鮮血を撒き散らすのだった。


「や、やった……?」


 血塗れになりながらオールは喜びの表情を浮かべるのだった。

読んでいただいてありがとうございます。

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