第二十三話 War Event
このアナウンスはオールだけでなく、エヴァンタイユからスタートしたプレイヤー全てに聞こえている。各々Questをこなしたり道場で指南を受けていたりNPCと会話したりと自由にこの世界を謳歌していた。その手を止め今は唯々、女神エルギネスの声に耳を傾ける。
【現在ノービスの森にてゴブリンが軍勢を築き、エヴァンタイユに攻め込もうとしています。まもなく大規模な戦闘が開始されるでしょう。プレイヤーの皆々様、ゴブリン達の中でも上位のものは特殊な武器や装備を身につけています。この戦闘、War Eventに参加していただければその装備が手に入る可能性がございます。振るってご参加ください】
エヴァンタイユに居るやく1500人のプレイヤー達は一喜一憂する。ゴブリンを倒して装備をグレードアップさせようと張り切る者。デスを恐れ街の中に篭ろうとする者。NPC達を守るために戦おうと一致団結する者達と様々である。
【それではあなた方に新たな才能と良き冒険を】
そのセリフを最後にアナウンスが終了する。
オールは今の出来事を考察する。イベントというには事前情報は今のアナウンスだけでLogにも女神が話した内容しか記載されていない。さらに、ゴブリンの件は告知される以前から兆候があった。ゴブリンメイジのこともそうであるし、上位種が目撃されて居るという情報もそうだ。オールの中に一つの答えが浮かぶ。ストーリー性のある突発イベント、これである。
実はこのオールの予想は半分正解で半分不正解である。そもそも、このゲームにストーリーはないのだ。決められたあらすじを満たしたから発生したものではない。特定の事象が折り重なり偶発的に発生したイベントなのである。
しかし、オールはそのことに気付くはずもなくストーリー性があるなら何か鍵になるものがあるのではとまた思考の渦に意識を落とす。
「オールさん……オールさん!?」
オールの思考はライラに肩を揺さぶられたことで中断させられる。
「オールさん大丈夫ですか? 上の空でしたけど……」
「だ、大丈夫です。何か進展があったんですか?」
ライラが話しかけてきたということはキャメルの判断が下されたのだろうとオールは確認する。
「い、いえ……ただですね、なぜか難民の方達が急に北の森にゴブリン狩りに行くと騒ぎ出したものですから心当たりがないかなと思いまして……」
ああなるほど、とオールは心の中で納得する。ライラはゴブリンのことを知っていてさらに助けを求めているオールが件のことをプレイヤー達に話したのではと思っていたのだろう。だが、NPCであるライラにどう先程のことを伝えようかとオールは悩んでしまう。
「ええと、あれです。女神様からお告げがあったんです……」
嘘はついていないが苦しい言い訳のようになってしまい、オールは若干の焦りを覚えるがライラはオールの言葉を信じたようだ。
「難民の方全員にですか?」
「多分そうだと思います……」
信じられないといった顔をライラはするがこれ以上どう言えばいいかわからなくなりオールは口ごもってしまう。
「難民の方皆元神官様か何かですか?」
いたって真面目な表情でライラがそう聞いてくる。神官ならお告げが聞けるんだとオールは思いつつなんて答えればいいんだよと叫びたくなる。
「え、えーと、あれです。ぷ、ぷれ、あ、難民の人たちは皆んな加護を貰ってるんですよ……」
オールの答えにライラは顎に手を当てて真剣に考え始める。流石に適当言い過ぎたかとオールは諦めてしまう。
「なるほど……確かにそれならば……」
ライラの反応を見る限りオールが言ったことは偶然にもこの世界で起こりうることだったようだ。
「そもそも、魔族が跳梁跋扈している南の大陸から無傷でくるなんて加護ぐらいないと不可能ですもんね」
オールはそもそもそんな設定聞いたことないし加護ってそんなコンスタントにもらえるものなの、とツッコミを入れたくなるがここは素直に情報としてライラの言葉を受け取った。
「そ、そうですよ……」
「神のお告げなら止める訳にはいかないか……オールさん変に疑ってすいません……」
深々と頭を下げるライラになぜかオールは罪悪感を感じてしまう。
しかし、この状況はむしろチャンスなのではとオールは考える。キャメルの判断に時間がかかるのであればやる気になっているプレイヤー達にエルムの救助を頼んでしまえばいいのではないかと。
オールが冒険者ギルド内にいるプレイヤーに話しかけようと決意した時突然警報が鳴り始める。
「なにこれ!?」
警報とともに避難を呼びかける警告が街の至る所から聞こえてくる。
『エヴァンタイユの市民の皆様。私は市長のイーブンです。ゴブリンの大群が北の外壁に押し寄せています。一般市民の皆様は直ちに港まで避難してください。繰り返します…………』
「な、もうWar Eventが始まったの!?」
イベントの告知からあまりにも事が起きるのが早すぎる。そうオールが思っているとキャメルがギルドのメインホールに出てくる。
「冒険者の諸君、緊急事態だ!! 聞いてもらった通りゴブリンが押し寄せてきている。Eランク以上のものはすぐに北門へ向かって欲しい! Fランクのものは市民の誘導とここにいない冒険者を見かけたら私の言ったことを伝えて欲しい」
声を上げるもギルド内にいる大半のものが困惑し、冒険者同士でひそひそと話をしている。
「君たちに義務は無い。だがお願いだ、この街を守るために協力してくれ!」
普段とは違うキャメルの態度にオールは驚く。しかし、急にそんなことを言われてすぐに行動できる人間が何人いるのだろうか。キャメルは必死に助けを求めているが、ほとんど者はその場から動けずにいる。NPCの冒険者は幾人か行動を開始しているがプレイヤーは踏鞴を踏んでいる。
「お前達なにをしている!? 街の危機なんだから働くぞ!」
いかついNPC冒険者にそう喝を入れられても、最初からゴブリンを狩るつもりだった者は動き出すがそうでは無い者達は知らん振りである。
オールは色々と思うところはあるがもともとエルムを助けるために戦うつもりだったので残った者を横目に北門に向かうのだった。
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