第二十一話 調査と検証
冒険者ギルドに着くと既にライラがいつもの受付に居た。
「こんにちはライラさん、例の件でお伺いしました」
「こんにちは、その方がそうですか?」
「そうです。エルムさんといいます」
「分かりました。では、お二人ともこちらへお願いします」
二人はライラに案内され、いつもの応接室に通される。
いつもキャメルが座っているソファーにライラが座り、オールとエルムは反対側に座るよう促される。
「ではエルムさん、これからお話しすることは機密事項ですので口外されぬようお約束頂けますか?」
「おいおい、嬢ちゃんの血液を運ぶことがそんなに重要なのかよ?」
オールはエルムにゴブリンの上位種の件に関して話していない。それは、キャメルから口外してはいけないと言われていたからである。
エルムはオールに視線を向けるが、オールは頷くだけである。
「御覚悟が無いのであれば辞退していただいても構いません」
ライラがそう言うとエルムは逡巡し答える。
「いや、一度聞いた頼みだからな。聞こう」
ライラはキャメルが以前オールに話した内容と同じものをエルムに話した。
「なるほどな、嬢ちゃんがハンマ師範代を倒したのも納得できるぜ。だがよ、この話を俺にする必要は無かったんじゃあねぇか?」
エルムの言い分はもっともである。言わば今回の依頼は運搬だ。ゴブリンが怪しい動きをしているなど知らなくても遂行できるはずだ。
「それがですね、多くの冒険者から報告がありまして。ノービスの森で下位のゴブリンを多く目撃したようなんです。ゴブリンの動きが活発になっていると予想されるため上が必要な情報だと判断したんです」
「そうか、嬢ちゃんならまだしも俺じゃあゴブリンに勝てねぇもんな」
「このQuestにランク制限はありませんが念のためゴブリン等危険な魔物に遭遇したら退避してください。それではこれが依頼書になります」
ライラが二人分の依頼書をテーブルの上に出す。
「惑わしの結界を妖精種の血液を所持した状態なら通過できるかの検証と報告ね……なんだこりゃ!? 報酬10000gifたぁ破格だな」
報酬の高さに思わずエルムが声を上げ、オールは目を丸くする。
「私共からの直接的な依頼のためです。それではこちらをお受け取りください」
二人がQuestを受注したのを確認してから、ライラは木箱を取り出しその中からオールの血液が入った小瓶をエルムに渡す。
「これが嬢ちゃんの血か……いたって普通だな……」
エルムは妖精種の血液なのだからどこか特別な何かがあるのでは、と考えたが見た目は赤い普通の血だ。
「エルムさんあんまりまじまじ見ないでください……」
オールは自分を見られているような感覚になりそう言った。
「おお、すまねぇ」
エルムは自分のInventoryに血液をしまう。
「では、よろしくお願いいたします」
ライラがそう言ったので二人は席を立ち応接室からでようとする。
「すいません、オールさんだけ少しお時間いただいてよろしいでしょうか?」
ライラにオールだけ呼び止められ、エルムとアイコンタクトしてからオールだけ応接室に残った。
「えっと、なんでしょうか?」
「すいません、お気付きかも知れませんがこの間来ていただいた時にランクアップしていることを伝え忘れていまして……」
ライラは申し訳なさそうな顔を浮かべる。
すぐさまオールは冒険者証のギルドランクの欄を確認する。そこには確かにEと記載されていた。
「ほんとだいつの間にかランクが上がってる……」
「ランクは規定値に達したら自動的に上がります。気付かれない方が多いので伝えようと思っていたんですがバタバタしてまして……」
冒険者ギルドのランクはステータスの平均値、そしてQuestや討伐での実績から決まる。オールのステータスの平均値は条件を満たしていたが、この間のQuest達成でランクアップできるほどの実績値になったのだ。
「態々ありがとうございます」
「はい、ではお気をつけて……」
オールはライラに別れを言ってから応接室を出て受付付近で待っていたエルムと合流してから冒険者ギルド後にした。
二人は北門を出て泉の園へ向かっていた。時間帯は昼過ぎ頃で森に入っても多少薄暗い程で視界の確保は容易にできる。オールは[暗視]のSkillを持っているので夜だとしても困ることは無いが、エルムはどうかわからないためちょうどいい時間帯だった。
エルムはどことなく浮き足立っているような様子である。
「いやぁ、この森に来たのも久しぶりな気がするぜ。まだ、サービス開始から1日ちょっとしか経ってないのによぉ」
「このゲーム内容が濃すぎて思わずそう感じちゃいますよね」
話している泉の園まで後数分というところまで来た。すると突然周囲が濃い霧で包まれていく。足元すら見えないほど濃い霧に二人は混乱する。
「なんだこりゃ!? いきなり霧がかかって来やがった」
「エルムさんどこにいます? 見えないんですけど?」
やがて二人はお互いの位置が確認できなくなってしまう。
「エルムさん? エルムさん?」
オールが呼びかけるも反応がない。
少し進むと霧が晴れ泉の園がオールの視界に映る。しかし、エルムの姿はない。
泉の園に入るとファラが薬草たちの世話をしている様子がうかがえる。
前回とは違い、外套を身につけていなかったオールの気配に気付いたのか振り向き話しかけてくる。
『あら、あなたもう連れて来たの?』
「ファラ、男の人がここに来なかった?」
『いいえ、誰も来てないわ』
オールは引き返しエルムを探そうとするがファラに止められてしまう。
『引き返すのはやめて起きなさい。あなた、自分がネックレスを持っていることを忘れたの? そのネックレスは所有者のみを惑わしの結界の効果から除外させる。だからあなたの連れてきた人間はもし血液を持っていることでこの場所に入れるなら、あなたが初めて来た時のように数刻は掛かるわよ』
「だったら尚更迎えに言った方が……」
『惑わしの結界は幻覚を見せて分断させる。あなたが行けばまた同じことになるわよ』
「じゃあ、どうすれば……」
『待つしかないの』
戻っても同じことになるのなら待つしかないかとオールは自分を納得させ、自分が来た方を唯々見つめるのだった。
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