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第十九話 覚醒の片鱗

Twitterではお昼すぎになると告知しましたが意外と早く仕上がりました。

 オールは今、観客だったプレイヤー達に囲まれている。口々にオールを讃える言葉が聞こえてくる。


「どうやったらあんな戦い方できるんだ? 信じらんねぇ!」

「どうやったらあんたみたいになれるんだ?」

「いったいいくつ基本武器使えるんだよ?」


 悪い気はしないが流石にむさ苦しい男達に囲まれてオールは辟易してしまう。そのことを察したのかエルムが人の波をかき分けて助け舟を出してくれる。


「悪いなお前ら! 嬢ちゃんは俺の客なんだ、離してやってくれ」


 この道場内でエルムを慕っているプレイヤーが多いのか、すみませんと一言言って囲んでいたプレイヤー達が散り散りになっていく。


「いやぁ、全く嬢ちゃんはすげぇな! まさか勝っちまうなんてなぁ!」


 あなたも言うんですか、とオールは突っ込みたくなるがここは我慢する。


「エルムさん、ありがとうございます」


「にしても師範代と同じ技を土壇場で使うなんてどうやったんだ?」


「いやぁ、真似してみればできるかなって…」


 オールの言葉にエルムは唖然とする。エルム自身、師範代のあのAssaultSkillを使えるようになりたいとEランクになってもこの道場でハンマーを振り続けたのだ。一度見ただけで使えてしまうなんて信じられないのも無理はない。


「嬢ちゃん… ここにいるやつらはサービスが開始されてからずっとここでハンマーを振り続けてた奴らも多いんだぜ、かく言うこの俺もQuestに行って野犬一匹すら相手にできず泣く泣く道場に来たんだぞ…」


 エルムは少し悔しそうな顔を浮かべる。


「なんか、すいません… 私大体のことは一度見ただけで普通にできちゃうんですよね…」


 オールは昔からそうだった。概念を理解するには少し時間が掛かるが、理解してしまえば技術は一度見ただけでできるようになっていた。ただ、できるようになったところでその技術は凡庸でオールが求める至高の技術には至らなかった。


「さすがは才能がものを言うゲームだな! 信じらんねぇぜ!」


 エルムは先程までの表情とは打って変わって吹っ切れた表情を見せる。しかし、オールは逆に浮かない顔をする。才能とはこの程度なのだろうか、才能とはどんなものにも劣らない他とは違う何かなのではないだろうか、と心の中で思案してしまう。


【「覚醒の片鱗」を確認しました。覚醒するためには以下の条件が必要です】


 唐突に流れたアナウンスにオールは驚いた。すぐさまLogを確認してみるとそこにはとんでもないことが書かれていた。


【「覚醒の片鱗①」すべてのステータスをランクAにすることで次の条件が解放されます】


 現在のオールのステータスは平均でEだ。ランクAにするまでいったいどれほど掛かるか分かったものではない。それがなぜ今指定されるに至ったのかオールは全く理解できない。


「おい嬢ちゃん、どうした?」


 エルムの言葉で現実に引き戻され、今起きたことをオールは話してみる。


「「覚醒の片鱗」? 聞いたこたぁねぇが多分あれじゃあねぇか、例のAwakeningSkillを獲得するための条件みたいなもんだろ?」


 オールにそこまでの発想は思いつかなかった。エルムのゲームに対する洞察力は凄まじいものだ。初めて出会った時もUIの事を気付かせてもらうなどしている。

 オールは考える。まだ獲得していない生産系のSkillやSupportSkillの可能性。しかし、生産系のSkillに高ステータスが求められるのはおかしな話であるし、今まで獲得してきたSupprtSkillに条件を指定されるものは無かった。やはり、可能性としてはAwakeningSkillである確率が高いだろうと。

 では、なぜこんな序盤で高ステータスを求められる条件が提示されたのか。その事を考えようとした時、気絶していた師範代の様子を見ていたプレイヤーが声を上げオールの思考は遮られた。

「おい! 師範代が目を覚ましたぞ!」


 師範代は意識を取り戻したものの、自身が置かれている状況が把握できず少し錯乱しているようだ。


「は、離せ! 我輩はまだっ…」


 オールに向かって再びハンマーを持ち突撃しようとしてくる。周囲のプレイヤー達が押さえ込もうとしているもののステータスの差か振りほどかれてしまう。

 オールはやれやれと持っていたシルバーバーチロッドを構えようとするがエルムに止められてしまう。師範代とオールの間に割り込むようにエルムが入り、師範代が振るったハンマーを綺麗に自身のブロンズハンマーで弾いてしまった。


「な、なにぃ!?」


 師範代は姿勢を崩し尻餅をつき惚けている。


「ハンマ師範代、あんたは負けたんだよ…」


 エルムの一言でようやく現状を理解したのか悔しそうな表情を浮かべゆっくりと立ち上がるとオールに向かって歩いて行く。

 オールは身構えてしまうが師範代の行動は自身が思っていたものとは異なっていた。


「すまなかった。我輩の完敗だ」


 深々と頭を下げ謝罪の言葉を述べたのである。



 ハンマ、エヴァンタイユの街で槌術道場の師範代をしているNPCである。元々は騎士ギルドでDランクの騎士をしていたこの男は真面目だが偏屈だった。その性格ゆえか周囲の騎士とは馴染めず槌Skillのランクも鍛錬を重ねてもD以上にならず自身の限界を感じた彼は、危険度Fのこの街で師範代をすることになった。

 危険度Fの街の道場に経験があるものが来るはずもなく彼はこの街では負けたことがなかった。さらに槌術の道場に来る多くの者ががたいが良く大柄な男達が多かったため、華奢なそれも女性に自身が負けるなど露ほども考えていなかった。

 そんな彼に初めて、それもルールに則った決闘で自信が完敗だと思わされる程の敗北を味あわせたのはオールであった。他でもない、負けるとは考えてもいなかった華奢な女性にである。


「我輩は考えを改めなければならないようだ。頑強な男でなければ槌術は扱えないと思っていた」

 急に自分の罪を懺悔するように語り始めた師範代にオールは困惑する。


「実のところ、お主が我輩に負けたらばお主には何かにつけて我輩の教えを施さないでおこうと考えていた」

 

 オールだけでなく他のプレイヤー達もそんなこと考えていたのかよ、と呆れた表情を浮かべる。


「だが、蓋を開けてみればお主に教えるどころか逆に分らされてしまった。我輩が重んじていた騎士道精神を自ら外れてしまっていることに…」


「あ、あのぉ… 別にそういうのはいいんですけど…」


 オールは別に謝罪を言わせたいと考えて勝負を受けたわけでは決してない。ただ、見下されていると感じ一泡吹かせたいと思っただけである。それなのに長々と講釈垂れられて若干飽き飽きしていた。


「我輩は……」


「ちょ、ちょっとエルムさん…」


 それでも語り続ける師範代を見てオールは隙を見て立ち去ろうとエルムに声をかける。エルムも呆れた表情を浮かべており、この場から去ることに異存ないようだ。

 依然黙々と話し続ける師範代を余所目に二人は槌術道場を去るのだった。

読んでいただいてありがとうございます。

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