第十六話 ゴブリンの動き
ノービスの森と更に北の山岳地帯の境目にある洞窟にゴブリンの上位種たちが集まっていた。ゴブリンの言語は人間には理解できないが確かに存在する。なにやら怪しげな会話をしているようだ。
『フラ失敗したようだゾ、妖精の血アレしかないどうする?』
少し大柄なゴブリン、ホブゴブリンが更に大きく鎧と剣を装備したゴブリンソルジャーに問いかける。
『妖精のマントあれば余裕だと言ってた。だから行かせた。失敗する考えてなかった』
このゴブリンソルジャーは山岳地帯に住むゴブリンキングから命令され、精霊を消滅させることで得られる精霊石を持ってくるよう言われていた。理由は分からないが命令を遂行できなければここにいるゴブリンたちは皆殺されてしまう。
『このままじゃ、グオウ様に殺される。妖精殺して血奪う』
『妖精どこいる? 分からない』
ゴブリンソルジャーは少し悩むととんでもない結論を出す。
『南の街襲う。街襲えば一匹ぐらい妖精居る』
『さすがジャゴ、頭いい』
ゴブリンソルジャーは他のゴブリンたちに命令を与える。街を襲えと。
水と食料を購入してからノービスの森に向かった。辺りはまたしても朱色に染まっている。8時間で昼夜が入れ替わるため、どうしてもああだこうだしているとこの世界で言う一日が経ってしまう。
泉の園へ初めて訪れたときは迷いに迷って偶然辿り付いたため方向すらわからないことにオールは気付いた。だめ元でMapを開いて周辺の様子を確認すると泉の園が表示されていた。オールはアナウンスが流れた記憶がなかったのでLogを確認するもそれらしきものはない。不思議に思うも答えが出るはずもなくメニューウィンドウを閉じて泉の園へ真っ直ぐ向かった。
インビジブルフェアリークロークを装備しているからか、害獣何度か遭遇したが気づかれることはなかった。
泉の園へはファラが言った通り、迷うことなく辿り着くことができた。ファラは泉の中から出て薬草の世話をしているようだ。
オールはファラを驚かせようと背後から近寄り肩をたたく。ビクッと体を震わせる姿が妙に可愛い。
『誰か居るの!?』
ファラはその場から素早く離れ警戒する。大袈裟だなと思いつつ自分がやられたらと想像しオールは反省する。
「私、オールよ」
オールが外套を脱いで姿を表すとファラは頬を膨らませる。
『もう! びっくりさせないでよね!』
「ごめんごめん、それ私も手伝うからさ、許して」
泉の園の薬草はゴブリンメイジとの戦いで半壊してしまった。オールは半壊してしまった薬草の再生を手伝うためにもここに来た。
ファラから言われたことをこなしつつ、オールはキャメルに言われたことと自分の考えを話した。
『別に人間が入って来ても気に入らなかったらぶっ飛ばすだけだから気にしなくてもいいんだけど』
「そんなことしたら冒険者ギルドに狙われることになるかもしれないわよ」
『まぁ、あなたが信頼してる人間だったらいいんじゃない? あたしも妖精種の血液を持っていれば結界を抜けられるか気になるしね』
オールは嫌がるのではないかと思っていたが意外にもファラは泉の園の中に人間が入ることに文句は言わなかった。
「じゃあ、エルムさんに連絡してみるね」
オールはFriendからエルムを選択しメッセージを送った。すると、1、2分でエルムから通話が掛かってきた。
『よお、嬢ちゃん久しぶりだなぁ! どうした?』
この世界での通話はまるでテレパシーのように頭の中に直接声が響いてくる。
「こんにちはエルムさん。ちょっとお願いがあって連絡させて貰ったんですけど…」
『そうかい、嬢ちゃんの頼みだったらできる限り聞いてやるぜ!』
相変わらずエルムは豪快である。しかし、この豪快さがどういうわけかオールに安心感を与えてくれる。
オールは自身の血液を運んで欲しいという頼みをエルムに伝えた。
『なるほどなぁ、そいつはおもしろそうだ! 喜んで協力させてもらうぜ!』
「ありがとうございます。日時は追って連絡するのでお願いします」
『おうよ! ところでよ俺ぁエルフではねぇがな、ドワーフと巨人のハーフ、小巨人種ってやつらしいんだ。それでも構わねぇか?』
小巨人種(Half Dwarf)は背丈は人間種と変わりないが、小人種と巨人種両方の特性を持つ種族である。妖精種ではないので問題はないが念のためオールはファラに確認する。
「大丈夫だと思います」
『そうか! じゃあ、詳しいことはメッセージでも通話でもなんでもいいから後で教えてくれや!」
そう言ってエルムは通話を切った。今の所とんとん拍子でことが進んでいるためオールはひとまず安心する。
その後、ファラと雑談をしながら作業をしていると突然雨が降り出したため作業を中断しQuestに必要な薬草を貰ってから泉の園を後にするのだった。ちなみにファラは雨が降り出しても全く気にすることはなく作業を続けていた。水の精霊というのは濡れても気にならないのだろう。
「天候も再現されてるのか、表現もリアルだしやっぱこのゲーム凄いな」
頰に滴る雨水の感覚が現実世界のものとほとんど変わらないことに改めてこのゲームの凄さを実感するのだった。
土砂降りの中ノービスの森を歩いているとグニャグニャと動く透明なゲル状のものに遭遇し、オールはよく知る魔物を思い浮かべる。
「うわっ、これスライム!?」
アニメに出てくる可愛げのあるものでは全くない。半透明でゲル状の体に中央には核のようなものがある。見た目を例えるならでかいアメーバだ。
オールは恐る恐るジェル状の体に触れてみる。
「見た目は気持ち悪いけど感触は気持ちいな」
プニュプニュした感触に思わず何度も指を入れてしまう。すると、突然ゲル状だったものが緩くなり液状になってオールに覆いかぶさる。
「げっ!」
思わず女性らしかぬ叫び声をあげてしまう。かかった液体は再びゲル状に戻りヌメヌメとオールの身体に纏わりつく。焦って振り解こうとするが全く取れず、しばらく様子を見たが害はなさそうなのでそのまま街に戻るのだった。
案の定、北門の衛兵たちに笑われ宿屋の店主に笑われ散々な目にあうのだった。聞いたところによると洗い流すか、太陽が出てくれば取れるらしい。オールは大人しく宿屋の浴室で洗い流した。
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