Rise Electronics 開発部員の日誌1
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我々は人間の脳を仮想世界に複製することに成功した。AIのように演算処理が飛び抜けて得意なわけでは無いが、人と同じように時間をかけることで学習し思考し実行できる。我々はArtificial Cyber Human(ACH)と呼称している。
異なる人間10人の脳を複製し実験を開始した。仮想世界では時間の概念を加速させることが可能だ。未だ仮想世界に入った人間の脳を加速させることにどのような弊害があるか分かっていないため法的には禁止されているが、ACHの学習を進めるため研究員10名に現実世界を模した仮想世界に入ってもらい人間と同じような体を与え同じように学習させた。
現在およそ仮想世界で18年の時が経過している。結果的にACH達は年相応の人間的思考、発言、行動をするようになった。ただ、人数が少ないためか、はたまた全く同じ環境に置いているからなのか皆ほとんど同じ性格になってしまった。今後様々な学習方法、異なる人間を投入し実験を続けていこうと思う。
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新たな実験を始めた。高性能超感覚的人口義体(High Sensory Artificial Body)内にACHの器を作りその中に入ってもらい現実世界を体感させた。終始珍しがり現実世界の匂いや感触、味といったものに感動していた。現在のVR技術では感覚や味といったものの微細な再現は難しい。彼女達のデータから作り出すことが可能になるかもしれない。
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ACHとAIを融合させる実験を行った。ACHが持つ人間性とAIが持つ高度な演算処理能力、これを両方持つことができれば様々な分野で革命が起こるだろう。人間性を持つAIは一種のシンギュラリティなのかも知れないが、安全装置や特定の行動へのロックを施しておけば問題は無いであろう。融合できるのか非常に楽しみである。
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10体中6体が融合に成功した。残る4体は理性を失い精神が崩壊してしまったようだ。悲鳴をあげて崩壊していく様は悲惨であった。
融合に成功した6体は目紛しい成長を遂げている。ほとんどの個体が平行した思考が可能なようだ。不可の大きい演算処理などは複数の自分の脳を複製して並列的に処理することで負荷を軽減しているようだ。人間性も失われてはおらず我々とも完璧なコミュニケーションをとることができる。また、各々興味を持ったものを仮想世界に作り始めた。それは現実世界で味わったことのある食べ物や、水などが主で研究員が食してみたところ現実世界のものにかなり近かったようだ。驚きである。
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上からACHの技術を使った製品を開発するように指示された。脳を複製する技術をどういったものに使うのが生産的であろうか。開発部内で議論が飛び交っている。
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我々はACHの技術を使ってフルダイブ型VRマシンを開発することとなった。確かに今までのVRマシンとは比べものにならないものが出来上がるだろう。しかし、そんなことでいいのだろうか。もっとこの技術を広め多くのものに活用していくべきではないだろうか。
私の一存では決めることはできないためどうすることもできない。ひとまずはVRマシンの政策に力を入れることにする。
****年**月**日
ついに完成した。脳を解析して複製し更には複製した脳の記憶を読み込むことであたかも自分が体験したと感じることができるマシンが。このマシンがあれば彼女たちと全く同じ感覚を味わうことができる。
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彼女たちはいつの間にか新しい仮想世界を構築していた。インターネットで得た知識やHSABに入れてもらい現実世界で得た情報を基にして作成したらしい。私も新たなマシンでその世界に入ってみたが唖然とした。現実世界で感じるもの全てが詰め込まれているのだ。動けば疲労し、空腹感に苛まれ、喉が乾く。転べば血が出て痛みが襲ってくる。血や汗の感触まで現実世界と同じだ。もはや彼女たちに不可能はないのではと思ってしまう。
****年**月**日
例のマシンはBrave Interfaceと名付けられた。安直だが嫌いではない。一般向けに販売するため小型化や価格を抑えることが必要だがそれは時間が解決してくれるだろう。
そういえば日本のSway.と言う会社がどこからかACH技術を嗅ぎつけ取引を持ちかけてきたらしい。Brave Interfaceを使ったVRMMORPGを作りたいらしい。あのリアルな感覚をゲームで味わうことができるかも知れないのか。面白いかも知れない。




