第十四話 願い
オールは素材回収所に薬草を届けてQuestを完了してから体力を回復するため宿で休むことにした。キャメルに言われたことを考えるためにも一人でゆっくりしたかったのである。
「百歩譲って私の血液を提供したとして妖精種じゃない人間をファラにあわせていいのかな…」
惑わしの結界は何か理由があって妖精種の血を持つ者だけを入れるようにしているはずだ。その中に他の種族の人間を入れてもいいのだろうかとオールは考える。
「少なくともファラに確認を取ってから信頼できる人に頼むってことにしないと私は血液を提供しようとは思えない」
おそらくキャメルはオールが断ったとしても他の妖精種の人間から血を提供してもらうはずだ。だからこそ信頼できる人間を探してみようとオールは信頼できる人間とは誰か思い浮かべる。
「信頼できる人かぁ、鈴音がこの街に居れば良かったのに… いや、居たとしてもエルフだから無理か…」
次にライラを思い浮かべるがギルドの人間はキャメルの意思でどうにでもなりそうであり却下する。次は北門の衛兵を思い浮かべるが信頼できると言うほど交流を深めていない。
「もっとNPCやプレイヤーと関わっていけば良かったなぁ。ん? プレイヤー?」
自身で呟いたプレイヤーという言葉である人物を思い出す。関わりはそこまで深くないが人柄が良さそうな人物でオールのことを気に入ってくれているプレイヤーエルムである。
「エルムさんなら良いかもしれない! とりあえずファラのところに行って了承を貰ってからエルムさんに連絡しよう」
そう決めてからオールはすっきりした表情で眠るのだった。
現実時間で30分ほど眠り体力を全開にしたオールは宿から出た。冒険者ギルドで採取系のQuestをいくつか受けてから泉の園へ向かう準備をする。ゴブリンメイジとの戦闘で盾と剣を失ったので新しい物を見繕うため武具屋に来た。
「うわ、ブロンズシリーズですら意外と値が張るな」
初期装備であるブロンズシリーズは一つ2400gifと初期装備にしてはかなり高い印象を受ける。オールの現在の所持金は11,200gifである。正直今の所シルバーバーチロッドがあればどうにでもなりそうな気もするが、WeaponSkillのランクを上げるには他の武器種も使っておいた方がいいためオールは悩む。
「武器を買ったほうがいい気もするけど、この皮鎧も変えたほうがいい気がするんだよなぁ…」
「どうした嬢ちゃんお困りかい?」
オールが迷っていると見兼ねた武具屋の店主が話しかけてくる。
「いやぁ、武器を買うか新しい防具を買うか迷ってるんですよ」
「ほう、なるほど。ちなみに使う基本武器種はなんだい?」
「全部です」
「ハハハッ、冗談だろ? 多いやつでも二つか三つだぜ?」
既視感のあるやりとりに少々呆れつつもオールはInventoryから全ての武器を取り出しアピールする。
「こりゃあすげぇ、本当に全部使ってるんだな。にしてもこの剣と盾どうやったらこんな壊れ方するんだか」
オールは壊れたブロンズソードとブロンズシールドを持ち帰っていた。何かにつけるかもしれないという淡い期待があったからである。
「まぁ、いろいろありまして…」
「そうかい、詳しいことは聞かねえよ。ところでこの杖少し見てもいいかい?」
シルバーバーチロッドを見たいと言われ許可すると、店主はまじまじとそれを観察する。途中何かに気づいたのか目を見開き、作業ポーチのようなものからルーペを取り出してさらに深く観察している。
「何だこれは!? 素材は高級木材のシルバーバーチ、芯には魔石によって加工された銀が使われていやがる。こんなもんどこで手に入れたんだ?」
オールは手に入れたものはいいものの、この杖が一体どんなものか知らない。単純に店主が言っていることに興味が湧いた。
「これがどんなものかわかるんですか?」
「そりゃあ、まぁ、一応武具鑑定のSupportSkillを持っているからな」
オールはNPCがSkillを持っていることに違和感はなかった。なぜなら、冒険者のNPCや仕事でSkillを使っているような雰囲気のNPCを見たことがあるためである。
おそらく、鑑定系のSkillを持っているものが鑑定士と呼ばれているのだとオールは予想する。
「あの、良ければその杖を鑑定していただきたいんですが… 勿論お金は払いますので」
「こんな上等なもん俺ですら見たことがねぇ。代金は結構だ、なんなら他にも鑑定して欲しいもんがあるなら見てやるぜ!」
ありがたいことに無料で鑑定をしてくれるそうだ。じゃあ、とオールはインビジブルフェアリークロークを取り出し店主に見せる。
「ちょっと待ってな、すぐに終わらせるからよ。よかったらうちの商品を見ててくれ」
店主はシルバーバーチロッドとインビジブルフェアリークロークを手にしてカウンターで作業を始める。
オールは店主の言葉通り店内を見て回る。しかし、ブロンズソードを基準として見るとそこまで高価な武器や防具はないようだ。それでも安いもので3000gif、高いものだと5000gifだ。今のオールには手が出しづらい。
陳列されている中でぴんとくる物がなく最低限盾は欲しいのにと考えていると陳列棚とは別に額縁の中に入った盾を見つける。その盾にはFに近い古代文字が中央に大きく刻まれており、縁には先の尖った五枚の花びらを持つ花が彫刻されている。
「なんだ、そいつが気になるか?」
鑑定が終わったようで盾に見惚れていたオールに店主がそう問いかける。確かに盾には何か惹きつけるものがあるなとオールは感じていた。
「なんていうか、凄く綺麗な盾ですね…」
「そいつは願いの盾って言ってな、所有者の何かを願う気持ちがその盾を強化するらしい。俺ですら鑑定できない代物なんだよ…」
「願い… ですか…」
自分の願いとは何なのだろうとオールは考える。対人恐怖症を克服することなのか、はたまた自身の明確な才能を見つけることなのか。そのことを考えオールの仮想のであるはずの心臓が心拍数を上げて行き、そして思い出す。
昨日はお休みして申し訳ありません。
本日は2回投稿の予定です。
読んでいただいてありがとうございます。
続きが読みたいと思った方は是非、ブックマークと評価をお願いします。
作者が成長するためにも感想をお願いします。どんなことでも構いません。




