第十三話 エヴァンタイユ中央区画支部支部長
オールはゴブリンメイジから獲得した杖と外套を装備してエヴァンタイユ街へ向かっていた。
途中イノシシに遭遇し早速新しい杖を試す。イノシシは野犬よりは幾分か強いがそれでもゴブリンメイジと対峙したことでオールは物凄く弱く感じる。さらに新しい杖は恐ろしい程の性能だった。ブロンズロッドでは野犬ですら攻撃を2、3発当てなければ倒せなかったがこの杖ならば一撃であった。
外套もまた恐ろしい効果を持っていた。帰路でオールはプレイヤーとすれ違ったのだが一切気付かれなかったのだ。プレイヤーの目の前で外套を脱ぐと物凄く驚かれた。
オールがこの二つの武器の名称をEquipmentから確認すると。杖はシルバーバーチロッド、外套はインビジブルフェアリークロークと記載されていた。
名称以外の効果や説明はMenuから確認する術が今の所ないため、正確なことは分からないが二つとも優秀な装備品であることに違いない。
よくよく考えてみればゴブリンメイジが攻撃してくるまでオールもファラも存在を認識していなかった。その場に突然現れたのだ。おそらくそれが外套の効果の意味するところであろう。
あれこれしているうちに街にたどり着きいつも通り北門の衛兵に挨拶してから冒険者ギルドを目指す。現実時間は22時半ということもありプレイヤーの数が多い。
ライラがいる受付の列に並ぶがなぜか追い越される。そういえばと外套を外してみると周囲からはオールが突然現れたように見え驚愕の声が上がる。
「やばっ…」
顔を伏せながら列に並び直すが周囲の視線がオールに集まってしまう。オールは仮想世界で良かったと安堵した。
すぐにオールの番が回って来たので、とりあえずライラに挨拶をする。
「ライラさんこんにちは」
「いらいっしゃいませオールさん、今日はどう行ったご用件で?」
先程オールがしでかしてしまったことでライラは少し苦笑いを浮かべながらも普段どうりの応対をしてくれる。
「ええと、実はですね…」
オールは北の森の泉の園で起こったことを説明する。ファラの存在は公にして良いのか分からなかったため口外しないようにと口止めした。ライラはこのことを聞くと驚きの表情を浮かべ焦っているようだった。
「すいません。ギルド支部長に話しますので少々お時間いただいても?」
オールが頷くとライラは急いで受付の奥へ姿を消した。数分で40代の凛々しい顔をした男性を連れて戻ってくる。
「君がオール君かね? 悪いけど応接室まで来てもらっても?」
了承するとオールはギルドの二階の応接室に案内された。応接室は広々としており四人がけのソファーが2つとその間にテーブルが置かれている。
ライラが切羽詰まった顔をしている。今回のことはよほど重要なことなのだろう。
「私はこの冒険者ギルドエヴァンタイユ中央区画支部支部長のキャメルだ。よろしく」
ライラが連れて来た男性がどうやらギルド支部長だったようでオールに握手を求めてくる。
「どうも冒険者のオールです」
オールは自己紹介をしてからキャメルの手を握る。座ることを促され大人しく指示に従った。ライラはキャメルが座るソファーの横に待機している。
「それでゴブリンメイジと戦闘して倒したそうだが何か討伐を証明するものはあるかね?」
キャメルはオールのことを怪しんでいるようだ。FランクであるオールがCランク以上の魔物を討伐できるはずがないため疑うのも無理はないであろう。
オールはInventoryから杖と外套、魔石を取り出しテーブルの上に置いた。するとキャメルが面食らった表情をする。
「驚いた。念のため魔石を鑑定に回してくれないか? オール君もよろしいかな?」
「鑑定ってなんですか?」
オールは鑑定とはどうやって行われるのか気になりそう問いかける。キャメルはそんなことも知らないのかという顔を一瞬浮かべるがすぐに真顔になり説明を始めた。
「そのままの意味だよ。鑑定することでどの魔物の魔石か判別することができる。君は魔物から獲得した素材や装備を鑑定士に見せたことがないのかね?」
「え、ええ…」
少し馬鹿にされたような気がしてオールは少しムスッとする。しかし、思わぬ情報が出て来た鑑定士という存在である。
オールはMenuの項目からアイテムの名前しかわからないことを疑問に思っていた。鑑定というSkillがあるのではと思っていたが鑑定士がいるというのは嬉しい情報である。
ライラがキャメルに耳打ちするとキャメルは納得した表情を浮かべる。
「なるほど、君は難民だったか。難民はなぜか知らないことが多い。君の故郷ではどうやって素材や装備の効果を確認していたのかね?」
上から物を言われているようで腹が立つが我慢してオールは知りませんと一言言って黙り込む。
「そうか。で、鑑定に回させてもらってよろしいかな?」
「あー、はい」
ライラが机からゴブリンメイジの魔石を手に取り応接室から持ち去っていく。
「そもそもなんですけど、なんで私ここまで連れてこられたんですか?」
支部長が直接出てくるほどのことなのか少し不思議に思いオールは質問した。オールは事の重大さをいまいち把握できていなかった。得て来た情報が少ないというのもあるが、そもそも仮想世界に来てから現実では一日も経っていないのだからしょうがないことではある。
キャメルは顎に手をを当て少し思案してから話し始める。
「そうだな… ゴブリンメイジを倒した君なら教えても問題なかろう。ここ最近ゴブリンの上位種の集団をノービスの森で目撃したという報告が上がって来ている。本来ノービスの森には下位のゴブリンさえ滅多に出現しない。もし、この情報が広まってしまえば混乱を招く危険性がある。だからこそ、情報を秘匿する必要があるから君をここをここに案内したのだ」
この世界のNPCは人間性を確かに持っている。僅かな時間でもそのことをオールは大きく実感している。それゆえに混乱を招くことは重々理解できた。
「なるほど、このことに関して調査は行ってるんですか?」
「勿論だとも。Cランク以上の冒険者に極秘で調査を行ってもらっている。だが、今まで目撃情報はあったものの襲われたという報告は聞いていない。つまり君が持つ情報は貴重なものだ。詳しく話してくれないかね?」
「詳しくですか… といっても知ってることはライラさんに話したんですけどね… あ…」
オールはファラのことは話したが泉の園について詳しく話していないことを思い出す。
「口外して欲しくはないんですけど一つだけ思い出したことがあります…」
「勿論守秘義務というものがあるからね。決して必要な時以外口外しないと誓おう」
言い回しがどことなく怪しい気もするが関係ありそうなことのためオールは話すことにした。
「えーと、実は私がゴブリンメイジと闘った場所は特殊でして、妖精種の血を持っていないと入れない場所なんです…」
「ほお、なるほど。それは血液を所持していてもその場所には入れるのかね?」
オールも考えたことをキャメルが聞いてくる。当然の疑問であろう。
「それはわかりません。ゴブリンメイジの死体は凍りついてから粉々になったので確認することもできませんでした」
「そうか、これは推測だがゴブリンの上位種たちは精霊を狙っているのかもしれない。精霊については解明できていないことが多くてね。人間種で出会ったという事例は少ない。妖精種つまりエルフは情報を秘匿する傾向にあるからな。私はエルフからなにか情報が得られないか当たってみよう。もし良ければ君も協力してくれないかね? 勿論正式なQuestとしてね」
妖精種というのがエルフのことだという、またしても思わぬ情報が手に入った。やはり情報を手に入れるには積極的にNPCと会話して行ったほうがいいなとオールは思いつつ、強力とは一体何をすればいいのか尋ねる。
「協力とは具体的には何を…?」
「検証だよ。君が言う特別の場所とやらには君は入れるのだろう? だから君の血を人間種に持たせて入ることができるか実験するのさ」
オールは言葉を失った。確かに一番確実な方法ではあるが櫂花の倫理観的にいくら仮想世界のオールの体であっても自身の血液を持ち運ばれるというのは抵抗がある。
「まぁ、今すぐに決めろと言うわけではないさ。その気になったらライラに言ってくれればいい。私も暇じゃないのでね、そろそろ失礼する」
キャメルは立ち上がり応接室のドアを開ける。その先にはライラが立っておりキャメルはライラにいくつか指示を出してから立ち去った。
ライラはオールに対して申し訳なさそうな顔を浮かべている。
「ごめんなさい、オールさん。急にここに連れて来たことさえ申し訳ないのに…」
オールが浮かない顔をしていることに思う所があったのだろう。
「いえ、私は大丈夫ですから。それにライラさんのせいじゃありませんしね。じゃあ私もQuestで回収した物を回収所に持っていかなきゃいけないので」
オールはそう言って応接室を後にした。ライラはただただ頭を下げて見送るのだ。
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