第十一話 共闘
今、オールの目の前では凄まじい光景が繰り広げられている。3m程の大きさの炎の渦と水の渦がぶつかり合っているのだ。
「いったいどうなって……?」
渦と渦が重なり合った瞬間、爆音とともに水蒸気が周辺一帯を丸ごと覆い隠してしまった。視界は一切取れない。
「大丈夫!?」
目の前で爆発に巻き込まれたファラの安否を確認するが返事はない。動きがないまま数分が経ち、ようやく水蒸気の霧が晴れてくる。ファラとゴブリンは吹き飛ばされたようで元いた位置から数m後方で倒れている。
『ん……はっ!』
「グギギッ……」
互いにダメージを負っているようだが、ほぼ同時に目を覚まし立ち上がる。肩で息をしているが、力を振り絞りまた魔法を放とうとしている。
「ファラ、加勢するわ!」
オールは全速力でゴブリンに接近し剣を左から右へ水平に一閃する。しかし、ゴブリンはあっさりと杖で剣を弾いてしまう。この一瞬でオールは理解してしまう。あまりにも格の差がありすぎると。
「なっ!?」
身の危険を感じたオールはバックステッップしながらクイックチェンジを使って、ブロンズソードからブロンズシールドに持ち替え後ろに下がる。
「ギャギャギ、グゲッ!」
ゴブリンが何かしらを呟いた。瞬間、火球が杖から放たれ盾に直撃する。ギリギリ防げたようだが反動でファラの居る位置まで吹き飛ばされてしまう。
「なんて威力なの! うっ熱っ!」
オールは右手に熱を感じ思わず盾を離してしまう。銅でできている部分が溶解している。かなりの高温なのだろう。オールはもし自身に直撃していたら考えゾッとする。
『下がりなさい! あなたじゃ勝てない、時間を稼ぐから隙ができたら逃げなさい!』
ファラが呪文を唱え始める。オールは逡巡し結論を出す。たとえNPCといえども、つい先刻出会ったばかりだとしてもファラを殺されたくはない。ならばこの世界で死んでも本質的な死には繋がらない自分こそが闘うべきだと。
『フォスバル・メド・レン・クラフト[バンシルド]!』
呪文を唱え終わると水のドームのようなものがファラとオールを包み込む。ゴブリンはそれを見て苦虫を潰したような顔になった。
『魔法を撃ってこないなんて下等なゴブリンのくせに賢いわね。この魔法は1分したら消えてしまう、消える瞬間に上位魔法を放つからその隙に逃げなさい』
「私も闘う」
そう言ってinventoryからブロンズソードを取り出し構える。
『何言ってるの!? あなたじゃ敵わないって言ってるでしょ?』
「確かに私だけじゃ無理そうね。でも、あなたと二人ならなんとかなるんじゃない?」
ファラはこんな状況にあるにも関わらずツンデレテンプレートを発動させている。
『しょ、しょうがないわね! こうなったらあなたの剣にエンチャントを掛けてあげる。あたしが援護してあげるからそれで闘いなさい! メド・ノーデレス・クラフト[イスウットステイル]』
ブロンズソードの刀身が水に包まれ凍りつく。オールはとてつもない冷気を放つ自分の剣に可能性を感じる。
「これなら……!」
『そろそろ消えるわ! スカルプ・レン……』
ファラが呪文を唱え始めるとゴブリンも口元が動いているのが分かる。詠唱を始めたのだろう
水のドームが上の方から崩壊していく。ファラとオールは真っ直ぐ視線をゴブリンに向け、時に備える。崩壊した瞬間にファラが詠唱を完了させる。
『……クラフト[バンスピッド]!!』
水の槍が放たれたと同時にオールは前傾姿勢を取りながら一直線に走り込む。ゴブリンはファラの放った魔法を躱しオールに向けて火炎放射のような攻撃を放つ。オールは右足を軸にして急制動を掛けながら上体を起こし左足を引く。その遠心力を利用し反時計回りに体を回転させ回避行動を取る。
「ぐぅっ……」
辛うじて回避するも高熱で右肩を火傷したようだ。チュニックの右肩部分が焼け落ち露出した肌は赤みを帯びている。
オールはすぐさま向き直り加速を始める。先程よりも速度が増しているように感じる。ゴブリンはすでに次の魔法を準備しており、オールは[バーティカルスラッシュ]を使って攻撃しようと考えていたが間に合いそうにない。
「せいやぁぁああ!!」
瞬時に突きの姿勢に切り替え急加速し、掛け声と共に刺突を放つ。すると、オールはSPを消費した感覚を感じる。剣先から銀のエフェクトが発生している。
「ギャギ!?」
ゴブリンは急加速したオールを見て魔法を中断して対応せざるを得なかった。杖を盾がわりにして攻撃を受ける。オールは今の一撃は自分が出せる最高のものだったと確信した。しかし、ゴブリンが杖を持つ右腕を凍らせることには成功したが、直後に押し返される。
「そんな!!?」
ゴブリンはニタァっと卑しい笑みを浮かべ凍ったままの腕で杖をオールに振るう。とっさに左腕でガードするも体ごと吹き飛ばされる。
「かはぁっ……」
肺から全ての空気が抜ける。同時にオールは凄まじい倦怠感を感じ膝をついた状態で身動き一つ取れなくなってしまったようだ。
オールにとどめを刺そうとゴブリンは誇らしげに杖を掲げ詠唱を始めようとする。
「ギギャッ!?」
ゴブリンの顔が突然驚愕の色に染まる。それもそのはず、掲げた杖を持つ腕が粉々に砕けたのである。
『あたしに任せなさい! パルフェクト・フロズン・ノーデレス・エクト・マクト[イスティッド]』
ファラはこの隙を逃さなかった。詠唱を終えると掌から凄まじい吹雪がゴブリンに向かって放たれる。ゴブリンは何もすることができずに直撃し、吹雪が収まると黒い外套をを残し全てが氷漬けになっていた。
「勝ったの……?」
ファラはゆっくりと氷漬けのゴブリンに近付いていき正面に立つと額を指で弾く。バキッという音と共にゴブリンの体は粉々に砕けるのだった。
【AssaultSkill[アクセラレートトラスト]習得しました】
スキル習得のアナウンスが流れてくる。とともにファラはオールの問いに答える。
『ええ』
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