第十話 精霊
北門の衛兵に診療所に運んでもらった礼を言ってからオールは北の森に入った。入ってから既に1時間は経っているが一向に薬草らしき物は見つからない。途中、野犬数頭に出くわしたがSkillのランクを上げるためにちょうどいいと、まだ使っていないブロンズロッドとブロンズハンマーを使って戦闘を行なった結果Skillランクが両方ともEに上がった。
現在のオールのSkillはこうだ。
<SupportSkill>
[体術(E)][暗視][目利き(薬草)]
<ProductionSkill>
<WeaponSkill>
[剣(E)][槍(E)][盾(E)][杖(E)][槌(E)][弓(E)]
<AssaultSkill>
[バーティカルスラッシュ][ラフスタブ][ライトプレス][シャープネススラップ][ヘビィストライク][アキュレートショット][クイックチェンジ]
どうやら例の男との一悶着があったせいで槍、盾、弓、体術のランクアップアナウンスを聞き逃していたようだ。Logを確認するとその旨がしっかりと表記されている。
「ま、迷った……」
そうこうしているうちにオールは完全に迷ってしまった。Mapでは街の方角は示してくれるので帰るのには問題ないのだが、森のどこにいるのかは分からないのだ。景色も変わらないためオールは同じところをぐるぐる回っている感覚に陥る。
「あー、どうしよさっきもここ通った気がする……」
それでもオールはでたらめに進んで行く。典型的な方向音痴の特徴だ。
やがて、開けた僅かに明るい空間が見えてくる。そこには月明かりが差し込んで輝いている泉を囲んで数え切れないほどの薬草が生えていた。
「あ、これ回復草だ! 解毒草と力の花もある!」
オールは幻想的な様相を醸し出している泉には目もくれず薬草を摘み始める。すると、右の頬に水がかかる。
「冷たっ!? え!??」
よく見ると泉の水がボコボコと音を立て溢れた水が飛び散っている。
「どうなってるの?」
音がどんどん激しく水の動くが活発になっていく。しばらく様子を見ると突然水が泉から離れ空中に浮き始める。更にそれはぐにゃぐにゃと動き、人に近い姿に変わって行く。
「な、なにこれ!?」
ついに水は人の形をとる。その姿は薄い水色のツインテールで顔は幼く、身長は130cm程だろうか。
「***。*******!」
発した言葉は全く聞いたことのない言語だった。しかし、身振り手振りでなんとなく言いたいことは分かる。おそらく怒っているのだろう。
「何を言ってるの? ひょっとして薬草採っちゃダメだった?」
「****! **********!」
どうやら当たっていたようでなんとなく薬草を戻せと言っているような気がする。
【Skill[精霊語]を取得しました】
Skill獲得のアナウンスが流れ水の幼女の言葉が聞こえ始める。
『ちょっとあんた! 早く戻しなさいよ!』
「お、言葉がわかるようになった」
『やっとあたしの言ってることが分かったみたいね。妖精種の血が混じってるのに理解するのが遅すぎよ!』
妖精種が何なのか気になるところだが、オールはとりあえず何者なのか尋ねる。
「えーと、あなたは何者?」
そう尋ねると水の幼女はピンっと胸を張り名乗り始める。
『あたしは水を司る精霊ファラよ! この泉を守ってるの!』
「そうなんだ偉いね、一人で守ってるの?」
ファラと名乗った精霊はオールに褒められたことで照れている。かなり可愛らしい。
その見た目のせいでオールは思わず子供と接するようにしてしまったが。本人は特に気にしていないようだ。
『あ、当たり前じゃない! 一人でも十分守れるわ!』
「薬草勝手に摘んじゃってごめんね……」
『少しだけなら持ってってもいいわよ。か、勘違いしないでよね別にあなたに褒められたからって訳じゃないんだからね!』
ここまで露骨なツンデレ属性の人、いやNPCは稀である。腕を組んでそっぽを向いている様はまさにテンプレートである。
「ありがとう。とりあえず私が今持っている分だけ貰っていくわ」
『ふんっいいわ、採ったらさっさと行きなさいよね』
ここから去ることを促され大人しく街に戻ろうとファラに背を向けた瞬間。
『きゃあっ!』
ファラの悲鳴が聞こえ振り向くと黒い外套を羽織り、杖を持った小柄な気味の悪い緑色の肌をした怪物がファラに向かって火球を放っていた。火球はファラにの腕に命中しジュウッと身体が蒸発した音が聞こえる。更に怪物は火球を連続で放ちファラとオールはなんとか避けるも薬草に引火してしまう。
『そんな! くっ、フォ・フレム・レン・クラフト[バンストルム]!』
ファラが呪文のようなものを唱えると手をかざしている空間から水流が発生し、燃え盛る炎をかき消していく。
「何今の!? 魔法……?」
目の前で火や水が飛び交う光景はまさに魔法と言える代物だった。アニメやーゲームで見る物にそっくりである。
「それにあいつはゴブリン!」
緑の怪物はオールが魔物図鑑で見たゴブリンと外見的特徴が完全に一致している。直接見るとまるでホラー映画で見る化け物のようだ。ただ、魔法を使うことは記入されていなかったし、ゴブリンは単体で行動しないはずなのに目の前には一体しか見当たらないので上位種または変異種といったものなのかもしれない。
『スカルプ・レン・クラフト[バンスピッド]!』
「ギギャギャッギギャ」
水の槍と火の槍が次々と放たれ辺りは水蒸気で包まれる。まだ、視界が取れなくなる程ではない。
オールは剣を抜いて構えてはいるものの、魔法の打ち合いをただただ眺めていることしかできなかった。
読んでいただいてありがとうございます。
続きが読みたいと思った方は是非、ブックマークと評価をお願いします。
作者が成長するためにも感想をお願いします。どんなことでも構いません。




