第九話 目標を達成するために
ログインすると宿の窓からこの世界に来た時と同じ朱色の空が見える。単純に計算してこの世界では現実時間でいう8時間で1日が入れ替わるようだ。
宿から出てまずはログアウト前にできなかったQuestの報告を済ませるために冒険者ギルドへと向かう。初めて来た時よりはプレイヤーの数は落ち着いているが、それでもかなりのプレイヤーの姿が目に入る。
「すいません、Questの報告をしたいんですけど」
受付はかなり空いており冒険者登録をした時と同じ受付が係のところへ報告に行く。
「こんにちは、ではまず冒険者証を提示していただいてよろしいですか?」
オールはQuestがちゃんとクリア条件に達しているか確認してから冒険者証を提示する。すると、受け付け係のライラの表情が強張る。
「初めてでソロで討伐Questを受けて目標達成したんですか?」
「そうですけど何か問題が?」
オールにはなぜこんなにも驚かれているのか理解できなかった。
「ええとですね。冒険者ギルドに登録されたばかりの方の大半は素人です。たとえ野犬でも囲まれてしまえば死亡する可能性が高いんです。ですのでほとんどの方はランクの高い冒険者か道場で技術指南を受けてから討伐Questを受け始めるんですよ」
冒険者ギルドに登録した時に教えてくれよと思うオール。しかし、よくよく考えてみればそれは彼女たちの常識であって説明を省いてしまった節がある。
「そうなんですか、全く知らなかったです」
オールにはそのつもりはなかったが嫌味のような口調になってしまう。
「申し訳ございません、こちらの説明不足でした。難民の方にはきちんと説明するべきでした」
かなり丁寧に謝られたのでオールは後ろめたくなってしまった。
「では、Questの達成が確認されましたので報酬をお渡しします。報酬は5000gifですね、ご確認ください」
ウィンドウが現れ7200gifと表示される。
オールは世界地図の話を思い出し、ついでに他に情報がないか確認しようとする。
「友人から世界地図があると聞いたんですけど本当ですか?」
「ええございます。ただCランクに到達しなければ見ることはできません」
さすが鈴音の情報収集能力である。全く間違っていなかった。
「冒険者としてためになる話なんてありますか?」
「う〜ん、ためになる話ですか……」
少し考えてライラはポンっと手を叩き受付の後ろに下がって行く。しばらくすると2冊の本を手に抱えて戻ってくる。
「これは魔物図鑑と薬草図鑑です。読んでおいて損はないですよ! 貸し出してますので読んで見てください」
オールは言われた通り図鑑を借り冒険者ギルドの隅にあるフリースペースでページをめくり始める。
「へぇ、ゴブリンにオーク……有名どころもちゃんといるんだ……」
図鑑には外見の特徴から弱点まで詳細に書かれていた。しかし、大型の魔物は表記されていない。図鑑のタイトルを見てみると魔物図鑑F〜Dランクと書かれている。
「Dランクまででも結構種類豊富だな〜」
最後まで読み終わったところでアナウンスが流れる。
【「魔物図鑑 F〜D」がLogに追加されました】
さっそく確認してみると本より更に分かりやすく表記されている。便利だな思いながら次の
薬草図鑑に手を伸ばし数分で読み終える。
【「薬草図鑑」がLogに追加されました】
再びアナウンスが流れる。
「書類系がLogに追加されるならどんどん読んでいったほうがいいな」
本を返すため受付に行きライラに礼を言う。
「もう読んだんですか? 早いですね」
「Cランク以上の魔物図鑑ってないんですか?」
「ありますけど、閲覧制限がありまして……」
そもそも制限がなかったらわざわざ分けないよな、と考えつつ他にも情報がないか探る。
「そうですか… じゃあ、ランクが上がりやすいQuestってあります?」
「うーん、オールさんなら平均ステータスもEになってますし、Questを継続して達成して行けばすぐにランクアップするとおもいますけど?」
平均ステータスがEと言われオールは首をかしげる。なぜならチュートリアル以来ステータスを確認していなかったからだ。すぐさまメニューウィンドウからステータスを確認してみる。
<Name>オール
<Sex>Female
<Race>全能種(Quarter Human)
<Age>18
<HP>D
<SP>F
<STR>D
<VIT>D
<AGI>D
<INT>F
<DEX>D
<LUK>F
いくつかのステータスがDまで上がっていることにオールは驚いた。しばらく考え答えを予想する。チュートリアルの際ステータスを見たときはまだWeaponSkillを獲得していなかったを思い出し納得する。
「わかりました。ありがとうございます、受付さん」
「ライラです」
「え?」
「私の名前はライラです。今後はそうお呼びください」
「あぁ、はい」
笑顔で自分を名前で呼ぶようにと指示してくるライラに若干の恐怖を覚えるオールであった。
受付を後にして掲示板を確認しに行く。相変わらずFランクの依頼には雑用が多い。討伐系のQuestは野犬やイノシシなど害獣が目立つ。
「せっかく薬草の目利きができるようになったんだし薬草採取にしようかな……」
Skillの効果を確認するとどうやら名前と鮮度が分かるだけらしい。だが、それでも薬草収集にはかなり有効なSkillである。
「回復草8つの収集、報酬800gif、受注可能人数残数5か。やっぱ討伐よりは報酬が少ないな」
討伐Questは危険性が高いため報酬が多い。そのため、比較的安全な採取系Questや荷運びや清掃、ペット探しは程度によって異なるが報酬が安い。
「ん? 複数受注可能?」
依頼書の備考欄にそう書いてある。これは1つのQuestだけでは大した稼ぎにならないため、同じような採取依頼を同時に受けることができるようになっているのだ。
「なるほどね……じゃあ、これとこれを……」
オールは4つの採取系Questを受注してギルドの外にでた。
「そっか、また夜か……」
初めてQuestを受けた時も夜だったな、とまだ初日だと言うのに感慨深く感じてしまう。オールは一歩ずつ地面を踏みしめながら北門に向かうのだった。
最後まで読んで頂きありがとうございます。
多くの方に読んで頂く為ブックマーク、評価をお願い致します。
作者が成長するためにも感想をお願い致します。どんなことでも構いません。




