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貴族社会


 アロイスはこれまで、貴族社会のしくみについてあまり語ることはなかった。

 私もあえて聞こうとはしなかった。聞くのが怖かったのもある。

 そのアロイスが、私に話そうとしている。彼と結婚したことで、私も彼ら側の世界にどっぷりと浸かってしまったのだという気がした。

 

()()は、その作り主と深く結ばれている。端的に言うと逆らうことが難しい。命令されたら従うしかない」


 私はぞっとして目を見開いた。


「マルクはリゼットに従うことになる。だけど、リゼットは僕の騎士だ。彼女は僕に忠誠を誓っているから、マルクは僕の保護下にある」


「作り主には逆らえないって、それは物理的に? それとも心情的なものなの?」


 震える声で尋ねる。


「両方だ」


 まるで死刑宣告を受けたような衝撃を受け、固く目を瞑った。

 アロイスが私を抱きしめる。ついさっきまでの熱情が覚めて、急速に冷えた身体を。


 つまり不死者(アンデット)になると、作り主に従属されてしまう。

 その事実が、私を打ちのめしていた。


 ――ではアロイスもマルクも、作り主から命じられれば、どんなに嫌なことでも従うしかないのね。


「だからより高位の()()が力を持っているし、新たに()を作ることは厳しく制限されている。()()と人間との数の割合も重要だから」


()()が増え過ぎたら、餌が足りなくなってしまうものね」


 私の皮肉をアロイスは聞き流して、続けた。


「僕の作り主はサシャ王だ。彼は遠く離れた王都にいる。時折巡察官を送り込んでくるが、それ以外は領地をしっかり治めさえしていれば、自由にさせてくれる。君が心配することはない」


 本当にそうだろうか。

 いつかサシャ王の気が変わって、アロイスを王都に呼びつけるかも知れないのに。


「リゼットはあなたに、忠誠を誓って従っているのね。あなたの()ではないから、彼女の意志でということ?」


「そうだ。僕が騎士たちを養い保護する代わりに、彼らは僕に仕えている。

 彼女の作り主は、すでに完全な死を迎えている。ノワールに来ている()()の背後関係は、調べるようにしているんだ。

 君も知っている通り、僕の()は今のところパトリスだけだ」


 副官のパトリスは、ヴィーザル村でアロイスの家に仕える従家の出だった。

 アロイスが不死者にならなくても、パトリスは彼に仕えただろう。


「パトリスを信頼しているのね」


「僕の騎士たちも、契約が続く限り信用している。だが君は、パトリス以外の()()は信じるな」


 パトリスのアロイスへの忠義は疑いようもないけれど、彼は私の存在がアロイスの足枷になるのではと疑っている。

 私が邪魔だと確信したなら、アロイスのために躊躇なく牙を向けるに違いないと思った。

 それを今、巡察官の対応に苦慮しているアロイスに伝えるつもりはないけれど。


 アロイスは私の額にキスをすると、起き上がって床に落ちている騎士服を拾い、身に着けて行く。

 彼の優美な後ろ姿を眺めた。細身なのに鍛えられ、引き締まった体躯、長い手足。


 真紅の騎士団長服を(まと)うと「これから会議がある」と告げた。


「大教会の儀式に現れた影の魔物について、冒険者ギルドに地下水道も含め周辺を調べさせたんだが捗々(はかばか)しくない。もしかすると、何者かの幻術の類いだったのかもしれない。

 地下水道には、盗賊など後ろ暗い連中の秘密基地があったり、行き場のない浮浪者も入り込んでいる。()()がやるような仕事ではないが、この機会に掃討すれば巡査官たちに僕たちが手を尽くしたという印象を与えられるだろう」


「あなたの計画した上下水道工事と浄化槽にスライムを用いるようになってから、町の衛生状態は格段に良くなっているわ。地下水道も昔のように臭わないらしいから……」


 ()()は呼吸が必要ないから、悪臭もそれほど気にならないのかも知れないと気づいて、言いかけた言葉を飲み込んだ。

 こんなことでも、彼との違いを感じて寂しかった。


「この地の先代領主は、町に疫病を大流行させた責を負ってサシャ王に放逐されている。だから後任の僕は、疫病を防ぎ衛生状態をよくするため、上下水道の整備などに力を入れて来た。

 町の大火災を起こさないために、新築の建物はレンガや石造りでなければ許可しないことにしたし。

 魔物、魔獣狩りの他にもやるべきことはやっている。巡察官にもサシャ王にも、文句を言われる筋合いはない」



 私も気だるい身体を起こし、のろのろとドレスを身に着けた。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 三話目からためにためて、やばい。これは一気に読んだ方がよいタイプの話だ!Σ(*゜Д゜*)と思いつつも、結局、ちょこちょこ読みつつ、もう一度、最初から読み直していました。 息をつく暇もない…
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