Epsode1-3 転校生のランキング戦
———放課後 学校内 第四戦闘場
「わぁ、すっごい人だね!あっちゃん!」
「そうだな」
陸斗が驚いた顔で話しかけてくる。
対戦する部隊のどちらか一方のランキングが十位よりも下の時、ギャラリーはほとんどいないのだが、『転校生』の初試合とだけあって授業が終わって数分しかたってないのに席のほとんどが埋まっていた。
「早くしないと席が埋まってしまいますよ、隊長」
「そうだな、しろ。空いている席はどこにあるか?」
偶然近くに席が空いていたのでそこに座った。
「しろありがとうな。お前の周囲の観察能力は役に立つよ。」
「当然のことです。それがスナイパーの役目ですから!」
鼻の下を長くしてすこし声を高くして言った。うれしそうだ。
「…篤斗はほかの人ばっかり褒めて、私のことは褒めてくれないんですか。」
「ん?実乃里、何か言ったか?」
声が小さくて聞き取りにくかった。
「なんでもないよ!」
そう言うとそっぽを向いてしまった。怒らせてしまったようだ。
僕たちは席に座って試合開始の合図を待った。
チームランキング戦のルールはいたってシンプルだ。
相手部隊全員を戦闘不能状態にする。
戦闘不能状態とは、自分が死ぬくらいのダメージを負った時だ。ダメージ量は相手の銃の威力、速度、弾の種類と自分の身体能力や筋力によって判断される。これはすべてコンピューターが行っており、受けたダメージは数字として表示される。死ぬくらいのダメージというのは、その値が0になった時だ。
銃弾の弾はあらかじめ準備してあるコピー弾を使用する。実弾と大差ないぐらいの性能を持っており、人にあたると実弾を受けた時と同じくらいの痛さになるという代物だ。
「こんな技術をもっているなら、全世界の武器を無力化することぐらいたやすいと思うんだけどな~」
「それは不可能だよ。あっちゃん」
「うわぁ!びっくりした…」
陸斗が急に話しかけてきた。てか、さっきの話、口に出てたのかよ…
「なぁ、陸斗。俺ずっと独り言、言っていたか?」
「ううん。実況の人がルールについて毎回説明してるよね?」
そういえば説明していたな。独り言じゃなくてとりあえず一安心。
「で、陸斗。無理ってのはなんでだ?」
「そうだったね。無理な理由は…」
話始めると同時に、ギャラリーからたくさんの拍手が起こった。
画面を見ると、プレイヤーが入場していた。
「試合始まっちゃうね。あっちゃん、また後で説明するよ」
「おう」
実を言えばすごく気になるのだが。
ステージは中心街。真ん中に大きな道路が一本あり、それを挟んで高層ビルが立ち並ぶステージだ。このステージはチームランキング戦において一番選ばれやすいステージだ。
「さぁ試合が始まりました!実況は私、放送無線部所属1年A組第一部隊のスナイパー有森早苗(ありもり
さなえ)がお伝えします!」
「今回は有森さんか…。マジ強いからなぁ…。」
有森先輩は個人スナイパー部門学年1位、全校7位の実力者だ。いずれかは当たることになる、強敵の一人だ。
「今回選ばれたステージは中心街。まずは両部隊の現地エンジニアがポイントの設置をします。中心街なのでポイントは立てやすいです!」
ポイント、
僕たち現地エンジニアが使う簡易的な整備施設だ。これがあることで現地エンジニアによる銃の修理から改造までを戦場でも迅速に行うことができる。もしも相手が今まで使ったことのない手を使ってきたときに、銃を改造することによりそれに対応できるようになるわけだ。またポイントには味方の位置の把握、敵のポイントの位置なども知ることができ、いわゆるチームの本部だ。長期戦になると弾の消費も激しいため、現地エンジニアが予備の弾を持ち歩くことが多い。
「両チーム、ポイントの設置が完了した!第十七部隊は25階建てオフィスビルの13階に設置。一方第十部隊はファストフード店に設置をした!?これは何か作戦があるのか?」
確かにおかしい。
ポイントは基本的に相手に見つかりにくいとこと、狭い場所などに設置されることが多い。このポイントを破壊されれば弾の供給も無くなり、サポートもゼロになってしまう。なので破壊されないようにしなければならない。
しかし、今回の第十部隊はファストフード店という窓から店内を覗くことができ、見つかった時にすぐに攻められてしまうような位置に設置している。これはミスなのか?
「ポイントの護衛にはそれぞれ一人ずつ当たっているようだ。おっと!第十部隊のポイントの護衛にはなぞの転校生月野宮友菜がついているようだ!」
「そういうことね」
「どういうことだよ、実乃里」
うちの部隊でただ一人、第十部隊の作戦を見破っていた実乃里が言葉を紡ぐ。
「今回の第十部隊はおそらく月野宮さんの実力をみることだよ。」
「なるほどな、すぐに試合だから第十部隊にとっても戦力は把握しきれてないってことか。」
成吉が分かったように言ったが、
「それだけじゃないよ。第十部隊の動きを見て。」
モニターに注目してみる。
「な、なんだよこの編成…」
ありえない。こんなの特攻隊みたいな編成じゃないか。
月野宮さんとエンジニアをポイントに残して、残り全員は敵ポイントの捜索を行っている。
普段スナイパーをしている奴も今日は片手銃を持って捜索をしている。自陣に攻めてくださいと言ってるようなものではないか。
「たぶんだけど、第十部隊は月野宮さんの実力を見ることも大事だと思うけど、負けたら月野宮さんのせいにしたんじゃないかな。そうじゃないと実力がわからない人にポイントを一人では任せられないよ。」
なんてひどいやり方なんだ…
こんなことを思っている間に、勝負は決しようとしていた。
「第十七部隊、第十部隊のポータルを発見!二人で乗り込んでいった!」
「あんなに見つかりやすいところに置いているのならば、見つかって当然ですね」
しろの言ったとおりだ。こんなに早くポータルを見つけられることはない。会場に来ている人もそんなに動揺していなかった。
そして、第十七部隊の二丁拳銃使いが容赦なく月野宮に襲い掛かった。
彼が月野宮に向かって発砲した後、
「パリンッ」「バキッ」
「おっとここで第十部隊のポータルが壊れた!月野宮はかろうじて生きたようだ!
しかし、ポータルを破壊されたからだろうか、第十部隊は降伏を選択しました!
勝負あり!勝ったのは第十七部隊です!」
第十七部隊の二丁拳銃使いから放たれた銃弾は月野宮の頭と心臓に向かって発射された。
二丁拳銃使いと月野宮の距離は5メートル。よほどの反射神経がない限りかわせるわけがない。
なのに彼女は、
彼女はかわしたのだ。
いや違う
一発はかわし、もう一発は彼女の銃で受けたのだ。
そのせいであろう。彼女の銃は大破し、破片が彼女の周りに散らばっていた。
弾を受けた時の動きと、銃をを使っていたときのぎこちない動きから分かった。
彼女は剣士だ。