エピローグ② ~ハッピーエンド?~
終話となります。
マリアンヌの家出騒動も直ぐに解決し、隣国フェイエノールから使節団が訪れた。
王宮ではギルバートとフェイエノールの王太子が会談し、夜は華やかな晩餐会が開かれる。
まだ成人前のリリアナ王女はマリオンにエスコートされ、客室へと下がって行った。
客室へ向かう廊下で擦れ違う使用人達は、満面の笑みでエスコートを受ける王女と複雑な表情で歩くマリオンの二人に驚き、慌てて視線を逸らす。
使用人達の様子にマリオンは内心溜め息を吐いた。
二人の後ろには侍女が付き従っているとはいえ、リリアナをエスコートしているのには変わりない。
明日の朝には、マリオンには少女趣味があるという不名誉な噂が王宮中に広まるだろう。
客室へ着き、後の事は侍女達へ任せて晩餐会会場へ戻ろうとするマリオンのジャケットの袖をリリアナは掴み、引き留めた。
「マリオン様」
ぎゅっと唇を結んだリリアナは、マリオンを見上げた。
「どうして、まだ婚約内定止まりですの? わたくしと婚約するのはお嫌ですか?」
使節団が到着して直ぐ行われた、ギルバートとフェイエノール国王太子との会談後「暫定」として伝えられたのは、婚約者ではなく婚約内定者。
「リリアナ王女殿下。貴女はまだ、国王陛下が用意し大事に守られた狭い世界しか見ておらず、其処しか知らないのでしょう。今後、王宮の外で様々な出会いを経験してください。出会いを経験をしても、私を想っていてくださるならば婚約者と成りましょう。ですから、貴女が大人に成長するまでは、婚約は保留です」
今婚約してしまったら、この先、まだ幼いリリアナに気になる相手が出来たとしても、国王が関わった国家間での婚約解消は難しく複雑になる。
リリアナの将来を傷付けたくはなかった。
「分かりました。わたくしはマリオン様に相応しいレディを目指します!」
『お兄様、わたくしはこれから立派なレディになるわ』
両手を握りしめて真っ直ぐに見上げてくるリリアナと、ウィリアム王子との婚約が決まった頃のマリアンヌの姿が重なる。
頬を赤く染め大きな瞳に涙を溜めて宣言するリリアナは、純粋に健気で可愛いとは思う。が、全くマリオンの気遣いに気付いてくれない。
(これは、マズイな。いつか、王女の健気さにほだされてしまいそうだ)
右手で顔を覆い遠い目をしてしまったマリオンは、思わず天を仰いだ。
***
フェイエノール国第一王子と共に来訪した、まだ幼さが残る可憐なリリアナ王女。彼女がギルバート国王の側妃となる可能性は無いと、王宮内で囁かれていた噂は使用人達の笑い話となった。
フェイエノールからの使節団が帰国し、ある公爵家では病に倒れた当主の代わりに急遽息子へ代替わりが行われ、また王宮では、行儀見習いのために王妃付きのメイドとして勤めていた貴族令嬢数人が実家へ戻されたという。
貴族内では、「王妃に失礼を働いた」「国王の寵を得ようとして怒りを買った」等、様々な憶測が飛び交ったが、その直後に発表された王妃の懐妊という慶事に掻き消されていった。
懐妊発表の翌日から、続々と王宮へ届けられる祝いの品。
長椅子に座り包装箱から出した産着を広げたマリアンヌは、赤子用の産着の小ささに頬と口元をゆるめた。
「ねぇ、バルトは男の子と女の子、どっちだと思う?」
ガラガラと音が鳴るラトルを振っていたギルバートは、ラトルを持ったままマリアンヌの隣に座る。
「どちらでもいいが、強いて言うならば俺はアンヌ似の娘がいい」
「どうして?」
元気で生まれてきてくれるなら、マリアンヌは子の性別はどちらでもかまわない。しかし、国王という立場のギルバートは後継として男児が望ましいのではないか。
「男が、お前の中から出てくるなど許せない」
「はいぃ?」
何を言っているのかと、マリアンヌは口を開いてギルバートを見詰めてしまった。
「俺以外の男が、お前の乳を吸うなど許せないだろ」
「ち、乳っ?!」
真顔で言うギルバートは本気でそう思っているらしく、驚くマリアンヌの腰に腕を回し愛しそうに下腹部を撫でる。
「そうだな。俺にも吸わせるのなら、赤子に乳を吸わせるのを許そう」
下腹部を撫でていた指先が上へ移動し、胸の膨らみを包み込むように触れる。
「はっ?」と声を出してから、言われた事の意味を理解し絶句するマリアンヌを見下ろして、ギルバートは妖しく笑った。
「え? 吸わせるって?」
赤ちゃんと同じように男性の世話をするのは、性情報が溢れていた前世の記憶からも閨教育を受けた今世の知識からも、少々特殊なマニアックなプレイではなかったか。
閨事について束縛監禁凌辱は脅し半分だとしても、冗談や願望は言わないギルバートだ。本気で、彼は自分の母乳を吸おうと考えているのだと、一気にマリアンヌの体から血の気が引いた。
「いやぁああ~?! 変態ぃっ!!」
手足を動かして逃げようとするマリアンヌを、抱き締めて腕の中へ閉じ込める。
半泣きになって怯えるマリアンヌの頬を人差し指でなぞり、ギルバートはクツクツ喉を鳴らして笑った。
宮殿中にマリアンヌの悲鳴が響き渡るが、宮殿勤めの者達にとってはそれは何時もの事。
今日も仲睦まじい国王と王妃の二人を、侍女達は微笑ましいと見守っていたという。
後日談は完結になります。
長々とお付き合いくださいまして、ありがとうございました。
ちなみに、赤子の性別がどっちなのか、マリアンヌが赤ちゃん同様にギルバートの世話をさせられるのかは、うん、ご想像にお任せします。
周囲からロリコン疑惑を抱かれ、ちょっとかわいそうなお兄様ですが、きっと数年後に押せ押せなリリアナ王女に押し切られて婚約しちゃうんだと思います。もしかしたら、お兄様の話も更新するかもしれません。
これにて、ハッピーエンドかな?




