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8.捕獲と衝撃を

甘甘イチャイチャです。

 一見すると、後ろから抱き締めるギルバートがマリアンヌへ愛を囁いているような状態なのに、二人の間に甘い雰囲気など皆無だった。

 それは、顔色を蒼白にしているマリアンヌの目に、明らかな怯えの色が浮かんでいたせいか、愉しそうに笑うギルバートの微笑みが歪んでいるせいか。


 二人の側にいたため、運悪くギルバートが発した過激な発言を耳にしてしまったエミリアは、ギョッと目を見開いた。


「ちょ、ちょっとアンタ、いきなり現れて何を言っているのよっ!」


 エミリアにとって、マリアンヌと親しい仲だとしてもいきなり現れた怪しい男、不審者にしか思えない。

 不快感を露にするエミリアへ、ギルバートは口元だけの薄ら笑いを返す。


「何を、だと? 家出をした可愛い妻を連れ戻しに来ただけだ」

「「妻ぁ?!」」


 驚愕したエミリアとウォルトの声が重なる。


 妻と言われて、嬉しいような怖いような複雑な気持ちでマリアンヌは目を伏せた。

 頬を撫でるギルバートの指にマリアンヌは手を重ねる。


「何故? 貴方は追い掛けて来たの? だって貴方は、」


 王女を側妃を迎えるんでしょう? 言いたいのに、その言葉は声になら無かった。


「あんなに可愛らしい置き手紙を残してくれたら、追い掛けたくなるだろう」


 フッと笑ったギルバートの指がマリアンヌの指を絡め取った。そのままギルバートは、背中から抱き締めていたマリアンヌの体をクルリと反転させる。


「あっ」

 

 息を吐く間もなく、マリアンヌは正面から抱き締められていた。

 久しぶりに、正面からギルバートと向き合う。

 離れると決めて出てきたのに、抱き締められると彼の胸に頬をくっつけて甘えたくなってしまって下唇を噛んだ。


「戻って来い。マリアンヌ」


 強く、甘さを含んだ声で言われたら、頷いてしまいそうになる。マリアンヌはぎゅっと目蓋を閉じて、首を横に振った。


「仕方ないな」


 ぐいっと顎を掴まれて上向かされる。

 マズイッと思い、目を開いた時にはすでに遅く、ギルバートの端正な顔が目前に迫っていた。


「まっ」


 待って、という言葉はギルバートの口腔内へ吸い込まれていった。

 噛み付く勢いでマリアンヌの唇を食んだギルバートは、半開きの唇の隙間から舌を侵入させる。

 歯列の裏をなぞり、逃げる舌を絡めとり軽く吸い上げるような執拗な舌技に翻弄され、逃れたくとも後頭部を押さえられていては顔を動かすことも出来ない。


 熱に浮かされ霞んだ視界の隅に、顔を赤らめて唖然と見詰めているエミリアの姿が見える。

 心は抵抗していても、一年以上の間ギルバートに躾られたマリアンヌの体は彼の与えられる甘い刺激を受け入れ、飲み込まれてしまう。

 繰り返される口付けで、見られているという羞恥心はすっかり消え失せていた。


「んっ、はぁ」


 唇を解放される頃には、蕩けきった表情になったマリアンヌの体からは力は抜け、ぐったりとギルバートの胸へもたれ掛かってしまった。


 唾液で濡れた口元を手の甲で拭い、ギルバートは荒い息を吐くマリアンヌの耳元へ唇を近付ける。


「大人しく戻るならば、仕置きは最小限にしてやる。ついでに、この水の穢れを消してやろう」

「はぁはぁ、出来る、の?」

「ああ」


 ニヤリと不敵に笑い、ギルバートは潤んで熱を持ったマリアンヌの目元へ口付けを落とす。


「トランギアナ国王からも、穢れを清めて欲しいと正式に依頼されている」


 さらっと言った内容に、マリアンヌの熱に浮かされていた思考が冷えていく。

 どういう事か口を開く前に、ギルバートから強烈な魔力を感じて口を閉じた。

 体の奥底が痺れる強烈な魔力は時折、主に閨事の最中に彼から感じる魔力。火でも水でもない未知の魔力の波動を感じ、戸惑いつつマリアンヌは自分の腰を抱きながら片手で魔力を練るギルバートを見上げた。


 高く掲げたギルバートの右手の上に紫紺色の魔方陣が画かれ、成り行きを傍観していたエミリアが息を飲む。


「これは、まさか闇魔法?」


 紫紺色の魔法陣が薄紫の光を発し、光へ吸い寄せられるようにプールに溜まった濁りが水から分離し、ポコポコ音をたてながらゲル状となり浮かび上がっていく。

 プール上部で巨大な紫色の塊となった濁りは、一直線に魔法陣へ吸い込まれていった。

 残ったのは澄んで透明度の高い水のみ。


「これで穢れは全て消した。消した穢れは、魔界で悪魔共の餌となるだろう」


「悪魔?」


 穢れを集めたのは高度な闇魔法。同時に展開させた魔法陣は時空魔法。二つの魔法を使い魔界と空間を繋げたというのに、ギルバートは汗すらかいていない。

 自分の夫はとんでもない力の持ち主だったのだと、改めてマリアンヌは実感していた。


(闇魔法が使えるなんて知らなかった。もしかして、ギルバートはお兄様と同等の魔力を持っているんじゃないの? 逃げられないわけだわ)


「マリアンヌ、もう、逃げないな?」


 有無を言わせない圧力をギルバートから感じ、涙目になったマリアンヌはゆっくりと頷いた。



 今にも泣き出しそうなマリアンヌを助けてやりたくとも、ギルバートの護衛騎士二人とナイジェルに牽制された状態では、さすがにウォルトも動けない。

 若干、顔色を悪くしたエミリアは無言で立ち尽くしていた。


「闇魔法って、何なんだ」

「そのままよ。魔族が得意とする魔法。聖魔法も貴重だけど、人族で闇魔法を使える人は貴重だわ。見つかったら国に保護されるくらい。いったい、あの人は何者なのよ」


 感じ取った魔力に怯えたエミリアの視線の先には、抱き上げたマリアンヌのこめかみへ口付けるギルバートの姿があった。




 ***




 湖の制御装置の修復と穢れを清めた後、転移魔法を使用したギルバートに連れられたマリアンヌは、ステンシアの街近くに建つ領主の屋敷を訪れ盛大な歓迎を受けた。


 挨拶もそこそこにして、ギルバートに横抱きにされたマリアンヌは用意された客室へと連行されてしまう。

 屋敷まで一緒だったウォルトとエミリアは、今頃領主との食事会に参加しているだろうし、ナイジェルは早々に姿を消し、護衛騎士達はギルバートが客室の手前で下がらせてしまった。

 室内は、勿論ギルバートと二人きり。

 湖の施設から抱き上げられて、やっと下ろされたのがベッドの上ときたら嫌な予感しかしない。


 体をすっぽり覆っていたローブは、室内へ入った時に剥ぎ取られてしまっていた。


「あの、ギルバート? エミリアさんとウォルトさんに挨拶くらいさせて」

「駄目だ」


 ウォルトとエミリアに色々と説明をしたかったのに、ギルバートは二人に近付く事も、会話をする事も許してはくれなかったのだ。


「フッ、マリアンヌに触れた男へ挨拶など必要ない。事情説明と謝礼はナイジェルに命じてある」

「でもっ、んっ」


 それ以上喋らせないとばかりに、ベッドに腰掛けたギルバートはマリアンヌの唇を食む。

 チュッチュッ、リップ音をたてて啄まれる擽ったさでマリアンヌは身動いだ。


「ぅんっ、早く、戻らなくても、いいの? 準備、とか」


 顔を動かして口付けから逃れても、直ぐに捕まり再開されてしまう。


「準備はダミアンが進めている。前日までに戻れば問題無い。遅れたとしても、使節団はマリオンが相手をすれば何とかなるだろう」

「ちょっと」


 口付けに気をとられている隙に、ワンピースの背中のチャックを下ろされてしまった。あっ、と思った時には、マリアンヌの体からワンピースは脱がされて床へ放られていた。


「離れていた分、マリアンヌを堪能する方が先だ」


 妖しい笑みを浮かべたギルバートは、マリアンヌの上半身を抱き寄せる。


「それに、俺の魔力を補充しなければ、お前の体に支障が出る」

「補充? 体?」

「魔力が不安定になっているのだろう」


 気付かれていたのかと、マリアンヌは目を瞬かせた。


「闇属性の魔力は、闇耐性を持たない者にとっては体と魔力に負担がかかるらしいからな。闇属性持ちを育むためには、定期的に俺の魔力を流し込み、与える必要があるらしい」

「育むって? 何のこと?」


 言われた意味が分からず、首を傾げてマリアンヌは問い返す。


「やはり、気付いてなかったのか。だからか」


 苦笑いしたギルバートの手が、マリアンヌの下腹部を撫でる。


「此処にいる者が、マリアンヌの、母親の魔力と精神を乱しているのだ」

「へ、えっ?」


 キョトンとマリアンヌは下腹を撫でるギルバートの手を見て、「ははおや?」と呟くと口と目を大きく開いた。


「う、え? ええぇっ?」

「くっ、ははははっ」


 動揺のあまり、口をパクパクと開閉させるマリアンヌの肩を抱き締め、ギルバートは肩を震わせて笑い出した。


マリアンヌが不調だった原因は、妊娠でした。

隠しキャラのギルバートはチートなんです。ヤンデレなんで闇属性。



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