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4話

 落胆したのは、王妃も同じだったらしく、王妃は、ふう、と深いため息をついた。

「……サッセン嬢、あなたは、自分が何をしたのか、わかっているのかしら?」

 王妃の問いに、テレシアは首をかしげる。

「何を、とは、どういう事でしょうか?」

 ……王妃に対して、疑問を疑問で返したわね…。これはかなりの不敬。

 その証拠に、普段は温和な王妃の頬が、ぴくりと引きつる。

 ……これはまずい。

 このままでは、王妃様のご心中がブリザードに…!

 テレシアの対応に危機感を感じたビクトリアは、自ら口を開く。

「恐れながら王妃殿下。わたしからサッセン嬢に説明をして差し上げてもよろしいでしょうか?」

「……」

 王妃は、細い目でちらりとビクトリアを見た後、うなずいた。

「ええ。構いませんよ」

「ありがとうございます」

 ビクトリアは、王妃に感謝の意を告げ、テレシアを見据える。

 テレシアは、相手がビクトリアになった事により、にやりとはしたない笑みを浮かべて、ふんと鼻を鳴らした。

 ……あら、化けの皮がはがれてますよ、サッセン嬢。

 今まで、爵位の高い貴族や、ベルンハルト様に向けていた愛らしいお顔は、どこに行ってしまわれたのですかね?

 まあ、困るのはわたしではありませんから、いいですけど。

 ビクトリアは、心の中で切って捨てると、おもむろに口を開いた。

「あなたは、わたし達の住まう国、プラスト国が、3つの大国に囲まれている事はご存知ですか?」

「は? 馬鹿にしてるの? それくらい知らない訳ないじゃない」

 テレシアが、憎々し気に答える。

「それはよろしゅうございました。では、大国のうちでももっとも大きな国、ナンバル王国と我が国が、同盟を結んでいる事は?」

「……し、知ってるわよ!」

 テレシアは、どもりながら答える。

 ……どうやら知らなかったみたいね。

 気づいてはいたが、指摘すると多分面倒な事になるので、そのまま続ける。

「そうですか。ナンバル国と同盟を結ぶ前のプラスト国は、国を奪われる事こそなかったものの、大国にいいように利用され、搾取されていた事も、ご存知ですよね?」

「あ、当たり前でしょっ!」

 テレシアが、額に汗をにじませながら、強い口調で言う。

 ……あ、知らないのね。

 思いながらも、やっぱり面倒事はごめんなビクトリアは、余計な突っ込みを避けた。

「それは失礼いたしました。2か国の同盟が結ばれたのは、今から75年前…。当時のナンバル王国の王女が、プラスト国の伯爵子息を見初めた事から始まります」

「……」

「ナンバル王は、難色を示しつつも、2人の結婚を許しました。王は、娘を嫁がせるにあたり、プラスト国と同盟を結び、プラスト国が他国に攻め入られる事があれば、率先して挙兵をすると約束します。そして、ナンバル王国の王女を迎える事になったプラスト国は、王女の夫となった男性に、レイカルト公爵の地位を与えたのです」

「レイ…カルト…?」

 テレシアが、驚きに目を見開く。

 そう、今、彼女の目の前にいるのは、まさしく。

「そうです。わたしの曾祖母が、ナンバル王国の王女だった女性です」

「………」

「お分かりですか? 今回の、わたしと王太子の婚約は、プラスト国とナンバル王国の同盟を強固にするために決められたものです。ですので、プラスト国の次期国王と婚姻を結ぶのは、わたしでなければいけないのです」

「……っ」

 テレシアは愕然とした。

 いくら世間知らずとは言え、ナンバル王国が大国である事は知っていたようだ。

 それこそ、ナンバル王国が本気を出せば、プラスト国など、まさしく一捻りだろう事も。

 テレシアは、知らないうちに、ナンバル王国の血を引く者――――ナンバル王国の王族に喧嘩を売っていたのだ。

「…あ、あの…、……わたしは…」

 ようやく事の重大さを理解したテレシアは、カタカタと震え出した。

「テレシア」

 テレシアの名を呼んだのは、ベルンハルトだった。

 ベルンハルトは、自信に満ちた表情で、テレシアの肩を抱き、彼女の身体を支える。

「安心しろ。幸いわたしは、ナンバル王国の現王であるクラウド王に気に入られているのだ。わたしが王としてプラスト国を治めるには、テレシア、お前の力が必要なのだと、訴えよう」

「まあ…! さすがはベルンハルト様…!!」

 先程までの怯えた様子から一転、うれしそうにはしゃぎ出すテレシア。

「………」

 ビクトリアは、王妃の反応が気になり、ちらりと視線を向ける。

 ああ…! 今度は、こめかみがぴくぴくと…!

 いけない、本格的なブリザードが来てしまう…!

 ビクトリアは、これ以上、王妃を怒らせない為…、いや、ベルンハルトの増長を押さえる為にと口を開く。

「失礼ながら、ベルンハルト殿下。わたしは、クラウド王とは何度か直接お会いしたり、お手紙のやりとりをさせていただいておりますが、殿下の事を気に入っていらっしゃるような様子は、一切ございませんよ」

「何っ!? そんな筈はない! クラウド王に一度お会いした時、わたしの元気な挨拶を気に入られたのだ!!人の上に立つのに相応しい器を持っていると!!」

「――――――」

 ベルンハルトの言葉に、ビクトリアは、ちょっと半目になった。

 ……ええ、ええ。

 あれは確か、わたしが8歳の時だったかしら。

 おじい様…クラウド王がこの国に一度だけ遊びに来られて、プラスト王様と王妃様、ベルンハルト殿下とアレクシス殿下、そしてわたしのお父様お母様と、王宮の謁見の場でお会いしました。

 その時、確かにそうおっしゃっていましたよ。人の上に立つのに相応しい器の持ち主だと。

 …………ただそれは…ベルンハルト殿下ではなく、弟君のアレクシス殿下をお褒めになったのだと記憶しておりますが。

 幼い頃の記憶を辿りながら、ビクトリアは、王妃とアレクシス王子をちらりと見る。

 と、王妃の目尻は怒りのあまりぴくぴくと動き、アレクシスは苦笑を浮かべている。

 ベルンハルトと一緒にクラウド王と接見していた2人だ、恐らく、当時の事も覚えているだろう。

 そしてビクトリアは知っている。

 クラウド王は、王子2人を退出させた後、プラスト国王夫妻、そして、ビクトリアとその両親の前で、こう言ったのだ。

「…確か、プラスト国の王位継承順は、長子先継だったか。…………惜しいな」

「――――」

 クラウド王の言葉に、その場にいた全員が息を飲んだ。

 彼は、公然と言ってのけたのだ。長子のベルンハルトよりも、アレクシスの方が王に相応しい、と。

 それをベルンハルトは、今現在も、自分が褒めてもらったと勘違いしているらしい。

 ……ある意味、幸せな方かもね。

 ビクトリアは、どうだ! と言わんばかりに胸を張るベルンハルトに苦笑しつつ、それでも、この場をどうにか納めなければと、そっと、ドレスのひだについているポケットに手を入れた。



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(C)結羽2017

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