RAIN
もう15年以上前の話だ。
家から少し離れた海の見える公園。
僕はそこにいた。
電灯の下に電話BOXがあって、僕はそこに駆け込む。
毎週一度金曜日の夜、僕は彼女に電話をする。
こんな事をもう二年も続けている。
何故電話BOXなのか?
アルバイト先の近くにある事が理由の一つと、実家は自営の為長電話が出来ない。
携帯電話はそれなりに普及されていが、通話料金が異常に高かった。
当時国際電話用プリペードカードが売られていて、5千円のカードを買うと30分程話が出来るプリペードカードを毎週コンビニで購入していた。
こちらとあちらでは13時間ほど時差がある。
彼女はホームステイしていたので、なるべく迷惑にならない時間を選び連絡していた。
11月半ば、金曜日。
いつもの様に電話をし、ぎこちない片言の英語で彼女を呼び出してもらう。
お互い近況報告をしたり、他愛もない会話で盛り上がったりもした。
もうすぐクリスマス。
街のショーウィンドーは季節を急ぎ、10月からクリスマスムードだった。
誰もが浮かれる季節。
僕は彼女に尋ねた。
何か欲しいものはあるかな?
それまで笑っていた彼女だったが、急に黙ってしまった。
沈黙の時。
いつもなら黙っている時間が勿体ないと、話が尽きないのだが・・・。
何も欲しくない。
ただ、叶うのなら5分でもいい、会いたい。
遠い異国の地、知り合いも少ない街で気丈に頑張り続ける彼女からこぼれた言葉。
決して我がままを言う子ではない。
寂しさに耐えられなくなったんだろうと思う。
直ぐに嘘だから気にしないでと言ったけれど、少しだけ声が鼻声だった。
気が付くと電話ボックスに雨音が響いた。
雨が降っている。
本当の気持ちをごまかす彼女の心の様に、雨が降ってきた。
彼女の涙の色を真似て。
それから少しまた話をした時には、彼女はいつもの声に戻っていた。
電話を切り、雨の降り続く公園の電話BOxに僕は立ち尽していた。
しばらくして僕は留学経験のある友達に電話をした。
パスポートの作り方・費用、チケットの取り方など。
僕は土日をフルに使って色々調べた。友達も格安の航空チケットなど探してくれた。
月曜日、朝からパスポートの手続きをしていた。大体3週間くらいで出来るとの事。
これならばクリスマスに間に合いそうだ。
問題はチケットだ。
あまり高いチケットは買えない。その旨も友達に伝えてあった。
直接旅行会社に問い合わせて、往復12万円のチケットを手に入れることが出来た。
お金は貯金があった。
車を買う為に積み立てていたたお金。
バイト先には無理を言って5日休みをもらった。その代りにその前後と正月はフルに働く交換条件つき。
準備は整った。
僕は一刻も早くそれを彼女に伝えたくて、水曜日に電話を掛けた。
彼女に電話を替わってもらった。
どうしたの?そんな彼女の言葉に、僕は答えた。
12月24日から5日間時間を空けて欲しい。
彼女にはそれだけでわかったらしい。
あんな言葉聞き流してくれてよかったのに・・・。
彼女は泣き出してしまった。
本当はもっと前から気が付いていたんだ。
彼女がずっと泣いていた事に。
もっと前にこうしていればよかった。
今更ながらに気が付いた夜だった。
12月23日。
僕は彼女に会う為に、飛行機に搭乗した。




