魔女の愛した使い魔
魔女には、永い時を一緒に生きた使い魔達がいました。魔女は彼らを愛し、彼らもまた魔女のことを愛していました。
狼は、家族や仲間がいた記憶がありませんでした。彼は誰よりも強く、誰よりも大きく、そして誰よりも孤独でした。彼は自らの強さしか頼るものがありませんでした。彼はその強さで森の頂点に立ち、他者を服従させていました。そんな彼を初めて打ち負かしたのが、魔女でした。魔女は自分の【群れ】に入るように言いました。その日から彼に仲間ができました。彼を孤独から救ってくれたのが魔女でした。後に彼は、自ら魔女の使い魔になることを望みました。これからの時を、魔女と共にあろうと決めたのです。
龍は、龍族最後の生き残りでした。最後の龍を、保護の名の下に使役しようと考えた人間達から、救ってくれたのが魔女でした。孤独に耐えかね生きる気力を失いかけていた彼に、彼の知らなかった広い世界を示し、再び生きる喜びを教えてくれたのが魔女でした。後に彼は、自ら魔女の使い魔になることを望みました。これからの時を、魔女と共にあろうと決めたのです。
猫は、世界の歪みから突如現れた魔物に、襲われかけていました。そんな彼女を、魔物から救ってくれたのが魔女でした。彼女は魔物によって家族を失いました。家族は彼女を逃そうと、魔物に立ち向かったのです。魔女に救われ身体は無事でしたが、心に深い傷を負いました。その傷を、時間をかけて愛情で塞いでくれたのが魔女でした。後に彼女は、自ら魔女の使い魔になることを望みました。これからの時を、魔女と共にあろうと決めたのです。
彼らは魔女と共に長い時を生きました。彼らは魔女の最期の時に、最後のお願いをされました。それは命令ではなく、お願いでした。【これからは、私が力を託す者達を見守って欲しい】と。
彼らは魔女と最期の時を、共にするつもりでした。魔女がいない世界など、残る意味がないと思ったからです。しかし、彼らは知っていました。魔女が、この世界を深く愛していたことを。
魔女はこの世界の安寧を望みました。この綻びやすい世界を守る為には、魔女の力が必要不可欠でした。そのことをわかっていたからこそ、自分の【力】と【知恵】を次代を担う子供達に託すことを決めたのです。
魔女の力を託された子供達を、魔女と同じように愛せることはないでしょう。彼らにとって、魔女は特別な唯一無二の存在なのですから。しかし、彼らは決めました。愛する魔女の最後のお願いを叶えようと。それで、魔女が少しでも安らかな眠りにつけるのであれば、彼らはそれで良かったのです。
そうして彼らは、【知恵】を託され、後に賢者と呼ばれるようになった少女と、魔女の愛した森で暮らすことになりました。また、彼らの力が必要な時には、【力】を託され、後に勇者と呼ばれるようになった少年の手助けもしました。
少女からは魔女の【知恵】を感じることができました。少年からは魔女の【力】を感じることができました。森からは魔女が最後に行き渡らせた、魔女の【魔力】を感じることができました。彼らはまだ魔女と共にあるのです。彼らの最期の時まで、魔女と共にー・・・