賢者と呼ばれた少女
【知恵】を授けられた女の子は、名前をプリシアといいました。【知恵】を授けられたのは、彼女が15歳の年でした。
彼女は村の学校の卒業を控えていました。村では就職先も限られています。町に出ることも考えましたが、彼女はこの小さな村をこよなく愛していました。この村を離れることを、彼女は悩んでいたのです。彼女が魔女に【知恵】を授けられたのは、そんな時でした。
彼女は村の学校を卒業したのを機に、魔女が住んでいた森の小屋に移り住むことを決めました。授けられた【知恵】を活かして魔法の研究をするには、森の小屋が1番良い環境だったからです。
彼女の両親は、彼女の気持ちを尊重しました。彼女が村を愛していることはもちろん、森や自然を愛していることも知っていましたからです。森で研究に生きることは、彼女にとって幸せなことだと判断したのです。
森には、魔女の使い魔達が残っていました。魔女が愛した動物達も多くいました。彼女もまた、魔女と同じように使い魔や動物達を愛しました。そして、これからは自分が彼らを守っていこうと決めたのです。
小屋の中には、研究に必要な魔術書や道具が揃っていました。何より、この森には純粋な魔力が循環しているので、いくら魔力を消費しても大丈夫でした。この森の純粋な魔力は、彼女の持つ魔力とよく調和がとれていたからです。調和がとれた魔力が豊富に循環しているので、彼女の魔力はいくら消費しても、すぐに回復できるのです。
魔女はわかっていたのです。彼女の魔力が、魔女の愛した森の魔力と調和がとれていることを。心優しい彼女が、使い魔や動物達を愛してくれるだろうことを。きっと彼女なら、森に移り住むだろうことを。
森には時折、魔女から【力】を授けられた男の子がやって来ました。森に住まうようになった彼女には、森の動きが手に取るようにわかるようになったので、彼の来訪にもすぐ気づくことができたのです。彼は森の中で【力】と向き合い、制御方法を学んでいるようでした。
彼等は時々、交流を持ちました。一人っ子だった彼女にとって、年下の彼は弟のようでもありました。首都へ、そして世界中の歪みを正して回る為に旅立った彼の無事を、彼女はこの森から祈り続けていたのです。
彼女のもとに、国王陛下から1通の手紙が届きました。手紙にはこう書かれていました。国が保管する貴重な魔術書の、複製を用意することが出来たと。これらを研究の参考にして、授けられた【知恵】を深めて欲しいと。
それらの魔術書の中には、小屋には置いてなかったものもありました。本当に貴重な門外不出の魔術書だったのです。
門外不出の魔術書を複製すること、それらをプリシアに手渡すことについては、魔術師や貴族達から反対が多くありました。しかし、国王は譲りませんでした。国王にとって、魔女との最後の約束は、何としても守るものだったのです。国王は魔術書の他にも、研究に必要な資材を提供することで、彼女を支えることにしたのです。
彼女は研究を進めました。貴重な魔術書のおかげで、研究は進み【知恵】も深まりました。彼女の研究で、世界はより住みやすくなりました。
彼女は新しく生み出した魔法を、惜しみなく国へ、そして世界へと送り出しました。その魔法を受けとった魔術師の誰かが、その魔法に『プリシア』の名前を冠しました。こうして、『プリシア』の名前は世界中へ知られることとなり、いつしか『賢者』と呼ばれる存在になったのです。
彼女自身は決して自分は『賢者』と呼ばれるような存在ではないと、ただの『研究者』だと言っていたのですがー・・・